投稿者: admin

  • 第1回 和泉市で始まったAI×GISによる樹木管理DX

    ~AI樹木抽出から現地点検・ダッシュボードまで一体化したPoC実証~

    はじめに

    近年、公園樹木の老木化や倒木事故への対応が全国の自治体で課題となっています。

    一方で、多くの自治体では、

    • 樹木台帳が整備されていない
    • 樹木本数が把握できていない
    • 樹種が分からない
    • 点検結果が紙やExcelで管理されている

    など、維持管理の基礎となる情報整備が課題となっています。

    今回ご紹介する和泉市でのPoC(実証実験)は、AIによる樹木抽出、GISによる台帳整備、スマートフォンによる現地点検、ダッシュボードによる維持管理を一体化した取り組みです。

    「公園樹木が数千本から数万本ある自治体では、すべてを一度に点検することは現実的ではありません。」

    本記事では、システムの機能紹介ではなく、自治体業務をどのような考え方でデジタル化したのかという「システム思想」を中心にご紹介します。


    PoCの目的

    今回のPoCは

    AIで樹木を抽出することが目的ではありません。

    目的は

    AI抽出から台帳整備、現地点検、維持管理までを一つの業務として実現できるか職員が継続運用できる業務フローを構築すること

    を検証することでした。

    つまり

    AI抽出
    
    ↓
    
    現地確認
    
    ↓
    
    樹木台帳整備
    
    ↓
    
    現地点検
    
    ↓
    
    ダッシュボード管理
    
    ↓
    
    維持管理

    という自治体業務全体を対象にしています。


    AI樹木抽出

    まず航空写真からAIにより公園樹木を抽出しました。

    今回のPoCでは

    約6万本

    の樹木候補を抽出しています。

    ここで重要なのは

    AIは樹木候補を抽出するだけ

    ということです。

    危険木をAIが判定しているわけではありません。


    AI樹種判定

    現地で樹種が分からない場合には、

    AI樹種判定アプリを利用することができます。

    これにより

    専門職員が少ない自治体でも

    樹木台帳の整備を効率よく進めることができます。

    ただし、

    AI樹種判定は、専門知識を置き換えるものではなく、
    現場職員の判断を支援するための補助機能です。

    最終判断は職員が行います。


    点検ロジックの思想

    ここが今回のPoCで最も重要な部分です。

    AIが危険度を判定するのではありません。

    現場で確認した内容を基に、

    GIS上で危険度を整理しています。

    例えば

    • 幹の揺らぎ
    • 大きな亀裂
    • 根元異常を伴う傾斜
    • キノコ

    など、

    倒木事故につながる重要な兆候を入力します。

    この考え方は、

    国土交通省の樹木点検で重視されている

    重大な異常を見逃さない

    という思想に沿っています。


    平均点ではない理由

    例えば

    19項目のうち18項目が問題なくても、

    1項目が重大な異常なら

    その樹木は危険木です。

    そのため

    本システムでは

    平均点ではなく、

    最も危険な項目を優先

    して判定しています。

    その結果、

    外観評価

    A~D

    活力度

    1~4

    総合判定

    A~D

    が自動で表示されます。

    点検ロジックは「AI任せ」ではない

    今回構築した樹木点検システムは、AIが危険度を判定しているわけではありません。

    AIは航空写真から樹木候補を抽出したり、樹種判定を支援したりする役割を担います。一方、樹木の健全性評価は、現場で職員が確認した結果を基に行います。

    例えば、

    • 幹の揺らぎ
    • 樹幹の亀裂
    • 根元の異常を伴う傾斜
    • キノコの発生

    など、倒木事故につながる重要な兆候を入力すると、その内容に応じて外観評価(A~D)が自動判定されます。

    さらに、樹勢や樹形から活力度を評価し、最終的な総合判定(A~D)を表示します。

    これは単純な平均点ではありません。

    重大な異常が一つでも確認された場合は、その危険性を優先して判定する仕組みになっています。

    この考え方は、国土交通省の樹木点検で重視されている「重大な異常を見逃さない」という考え方と整合するよう設計しています。


    長所

    ① 重大な異常を見逃しにくい

    平均点方式ではなく、最も悪い項目を優先して判定するため、

    • 大きな亀裂
    • 根元異常を伴う傾斜
    • 大きな揺らぎ

    などが1項目でもあればD判定になります。

    倒木事故防止という目的には非常に適しています。


    ② 点検者による判定のばらつきを抑えられる

    「何となく危険そう」ではなく、

    項目ごとに

    • あり・なし
    • 小・中・大
    • 4段階

    で入力するため、

    点検経験が少ない職員でも一定の基準で評価できます。


    ③ 現場入力が速い

    自由記述が少なく、

    選択式中心なので、

    スマートフォンでも短時間で入力できます。


    ④ GISとの相性が良い

    判定が

    A~D

    で統一されるため、

    ダッシュボードで

    • A何本
    • B何本
    • C何本
    • D何本

    を即座に集計できます。


    ⑤ 国土交通省の点検思想に近い

    危険兆候を重点的に確認し、

    重大な異常を優先して判定する考え方は、

    国交省の樹木点検指針とも整合しています。


    ⑥ AIとの連携が容易

    AIは

    • 樹木抽出
    • 樹種判定

    を担当し、

    危険度判定は人が行うため、

    役割分担が明確です。


    ⑦ 維持管理へそのまま利用できる

    今回構築した

    • Survey123
    • ダッシュボード

    と連携することで、

    点検から維持管理まで一連の流れになります。


    短所

    ① 危険項目1つでDになる

    安全側の設計ですが、

    実際には

    他は健全なのにD

    となる場合があります。

    現場では再確認が必要です。


    ② 任意入力項目が多い

    PoCでは現場負担軽減を優先したため、

    入力漏れがあっても

    A判定になる可能性があります。

    本格運用では

    必須項目の整理が必要です。


    ③ 樹種特性を考慮していない

    例えば

    • サクラ
    • ケヤキ
    • マツ

    では

    危険性の現れ方が異なります。

    現状は共通基準です。


    ④ 周辺環境を判定に反映していない

    同じDでも

    • 公園の奥
    • 通学路
    • 幹線道路沿い

    では優先度が違います。

    これは更新優先度など別の指標で補完できます。


    ⑤ 内部腐朽は判断できない

    外観点検なので、

    内部腐朽までは分かりません。

    必要に応じて

    • 精密診断
    • 樹木医

    につなげる必要があります。


    ⑥ 点検者の技量に左右される

    例えば

    「小さな亀裂」

    「大きな亀裂」

    かは、

    ある程度経験が必要です。

    写真付きマニュアルなどで教育が必要です。


    ⑦ リスクを数値化していない

    A~Dは分かりやすい反面、

    例えば

    危険度 87点

    のような詳細評価はできません。

    ただし自治体の日常点検では、

    A~D程度の分類の方が運用しやすいという利点もあります。


    特徴

    このロジックは研究用の精密診断モデルではなく、自治体の日常点検モデルです。

    優れている点は、

    • 重大な異常を見逃さない「安全側」の判定
    • 現場で短時間に入力できる操作性
    • GIS・ダッシュボードと組み合わせて維持管理までつながる運用性

    です。

    一方で、今後本格運用へ発展させるのであれば、

    • 樹種ごとの判定補正
    • 利用状況(通学路・公園利用者数など)を加味した優先度評価
    • 必須項目の整理
    • AIによる写真診断や過去点検履歴との比較

    などを追加することで、さらに実用性の高いシステムへ発展させることができます。

    現時点の課題(PoC)

    今回のPoCでは、現場負担を考慮して多くの点検項目を任意入力としています。

    そのため、本格運用では点検基準や委託仕様に応じて、必須項目の設定や判定ルールの調整を行うことも可能です。


    ダッシュボード

    PoCでは

    管理者向けダッシュボードも構築しました。

    本ダッシュボードは単なる集計画面ではありません。

    AI抽出から現地確認、樹木台帳整備、現地点検、維持管理までの進捗を一元的に把握し、管理者が現場の状況をリアルタイムに確認するための運用画面として構築しています。

    AI候補の確認状況はゲージで把握でき、最新点検一覧から対象樹木を選択すると、ポップアップに最新点検結果を表示し、そのままSurvey123による編集画面へ移行できます。

    要対応樹木(C・D)についても一覧から対象樹木を選択できるため、危険木の優先管理にも活用できます。

    図 樹木台帳・点検ダッシュボードのイメージ

    ダッシュボードでは

    • AI候補数
    • 台帳整備数
    • 点検数
    • A~D件数
    • 要対応樹木(C・D)

    をリアルタイムに確認できます。

    さらに

    最新点検結果や写真、

    Survey123による編集画面とも連携しています。

    つまり

    単なる地図ではなく

    維持管理システム

    として利用できます。

    AI候補確認状況

    左上のゲージは、

    AIが抽出した約6万本の樹木候補に対し、

    現在どこまで

    • 現地確認
    • 台帳登録
    • 点検

    が進んでいるかを示しています。

    つまり

    AIの精度を見るためではなく、

    AI候補をどこまで現場確認できたかという進捗管理として利用しています。

    リレーションテーブルの点検結果をArcadeで可視化

    今回のダッシュボードでは、樹木台帳と点検結果をリレーションで管理しています。

    一方、ダッシュボードで表示したい情報は親レイヤ(樹木台帳)だけではなく、子テーブル(点検結果)に保存されています。

    例えば、

    • 最新点検日時
    • 外観評価
    • 活力度
    • 総合判定
    • 更新優先度
    • クビアカ被害状況

    などは点検結果テーブルに保存されています。

    そこで今回は、Arcade式を活用してリレーション先の最新点検情報を取得し、ポップアップやリスト、ダッシュボード上へ表示しています。

    これにより、樹木台帳を選択するだけで、最新の点検結果をリアルタイムに確認できる仕組みを実現しました。

    さらに、点検結果一覧や要対応樹木一覧もArcadeを活用することで、リレーションテーブル上の情報を管理者が一目で把握できるよう工夫しています。

    ArcGIS Dashboardでは、リレーション先テーブルの情報をそのまま一覧表示することは容易ではありません。

    今回はArcade式を利用することで、点検結果テーブルから最新点検情報のみを取得し、ポップアップやリスト、管理画面へリアルタイム表示しています。

    これにより、樹木台帳を選択するだけで最新点検結果を確認でき、管理者は親レイヤと子テーブルを意識することなく利用できます。


    今回のPoCで見えてきたこと

    今回の実証で確認できたことは、

    AIだけでは樹木管理は完成しないということです。

    一方で

    AIを入口として

    GIS

    Survey123

    ダッシュボード

    を組み合わせることで、

    樹木管理業務全体をデジタル化できることが確認できました。


    おわりに

    今回のPoCでは、AIによる樹木抽出から樹木台帳整備、現地点検、ダッシュボードによる維持管理まで、一連の業務フローを実証しました。

    重要なのは、AIを導入することではなく、自治体職員が日常業務の中で継続して運用できる仕組みを構築することです。

    和泉市では、現地確認・点検・維持管理を一つの流れとして実証することで、公園樹木管理の新しい運用モデルを確認することができました。

    本PoCは、和泉市職員および管理公社の皆様と現場確認を繰り返しながら、操作方法やダッシュボード構成を改善し、実運用を見据えて構築しました。机上で設計したシステムではなく、現場の意見を反映しながら完成度を高めたことが、本実証の大きな成果と考えています。

    本記事が、多くの公園樹木を管理している自治体にとって、樹木管理DXを検討する際の参考事例となれば幸いです。

    第2回予告

    次回は、和泉市での現地実証を通じて見えてきた運用上の課題と、その解決方法をご紹介します。

    AIやGISを導入するだけでは現場では運用できません。実際の現地作業では、位置修正、樹木の確認方法、点検入力、ダッシュボード運用など、さまざまな課題が明らかになりました。

    本記事では、それらの課題に対してどのように改善を重ね、実際の業務で使える仕組みへ発展させていったのかを、PoCならではの実例を交えてご紹介します。

    関連記事

    樹木管理システムとは|AI・ArcGISによる樹木点検DXと履歴管理

  • 公開データ・PLATEAU・OSM・生成AIを組み合わせた基本単位区5歳階級人口モデルの構築

    ~町丁目統計を基本単位区へ配分する人口モデルの構築~

    本記事は、生成AIとGISを活用した自治体業務の実証シリーズの第15回です。

    関連記事▶PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か

    第10回の記事では、250m人口メッシュを基に建物人口モデルを構築し、公開データを活用した建物単位の人口推計手法を紹介しました。しかし、人口メッシュを直接建物へ配分する方法では、工場や学校、商業施設など、実際には居住しない建物にも人口が配分される可能性がありました。また、250mメッシュでは建物単位の人口分布を表現するには精度にも限界があります。

    そこで本記事では、e-Statで公開されている統計データを組み合わせて基本単位区5歳階級人口を作成するとともに、OSMのPOIデータを活用して人口を付与すべき建物を抽出する手法を構築しました。

    建物データには、国土交通省が公開するPLATEAU建物モデルから作成した建物フットプリントを利用し、基本単位区人口を配分する対象としています。

    本記事では、使用した公開データの選定から人口配分モデルの構築、人口付与対象建物の抽出、そして人口保存の検証まで、一連の作成過程を紹介します。


    はじめに

    前回、第10回では、PLATEAU LOD1建物データと250m人口メッシュを利用し、公開データだけによる建物単位人口推計モデルを作成しました。

    その後、GIS上で結果を確認すると、一つの課題が見えてきました。

    250m人口メッシュでは、住宅だけでなく工場や学校、商業施設など、実際には居住していない建物にも人口が配分されてしまうケースがあったのです。

    この課題を改善するためには、人口を配分する建物を適切に判定するとともに、人口データそのものも見直す必要がありました。

    e-Statには国勢調査の人口データや境界データが公開されていますが、調査を進めると、建物人口モデルに必要な情報は一つのデータだけでは揃わないことが分かりました。

    例えば、建物への人口配分に適した基本単位区では5歳階級人口が公開されていません。一方、小地域(町丁・字等)では5歳階級人口が公開されています。

    そこで今回は、小地域の5歳階級人口を基本単位区へ配分し、その結果を建物人口モデルの基礎データとして利用することにしました。また、PLATEAU建物フットプリントとOSMのPOIデータ(OpenStreetMap(OSM)のPOI(Point of Interest:施設情報)データ)を組み合わせることで、人口を付与すべき建物を抽出する方法についても検討しました。

    本記事では、

    • e-Stat公開データの調査
    • 使用するデータの選定
    • GISデータと統計データの対応付け
    • 基本単位区5歳階級人口の作成
    • 人口を付与する建物の抽出

    までを、実際の作業手順に沿って紹介します。

    同じようにe-Statを利用した人口分析や建物人口モデルの作成に取り組む方が、公開データの選定やデータ整備で迷わないよう、実際につまずいた点や、その都度どのように判断したのかも含めて解説していきます。

    基本単位区へ男女別人口を付与する

    今回使用した主なデータは次のとおりです。

    • 基本単位区ポリゴン
    • 基本単位区男女別人口・世帯数
    • 町丁・字等別男女別5歳階級人口
    • PLATEAU建物フットプリント
    • OSM POIデータ

    このうち、基本単位区5歳階級人口の作成には、e-Statで公開されている最初の3つのデータを使用します。

    しかし、基本単位区ポリゴンには分析に必要な人口属性が十分に含まれていません。そのため、基本単位区コードを用いて男女別人口・世帯数を結合し、人口配分の基礎となるデータセットを作成しました。

    e-Stat公開データを調査する

    建物人口モデルを構築するためには、基本単位区ごとの年齢別人口が必要になります。しかし、e-Statで公開されている国勢調査データを確認すると、必要な情報は一つのデータセットにはまとまっていませんでした。

    まず調査したのは、基本単位区で公開されている人口データです。

    基本単位区では、男女別人口と世帯数は公開されていますが、建物人口モデルで必要となる5歳階級人口は公開されていません。

    一方、町丁・字等(小地域)では男女別5歳階級人口が公開されていますが、空間単位が大きいため、そのままでは建物単位へ人口を配分するには十分な精度が得られません。

    つまり、

    • 基本単位区には人口配分に適した細かな境界があるが、5歳階級人口がない。
    • 町丁・字等には5歳階級人口があるが、建物人口モデルには空間単位が大きすぎる。

    という、それぞれ長所と短所を持つデータであることが分かりました。

    そこで本モデルでは、両者を組み合わせることで、それぞれの長所を活かした人口配分モデルを構築することにしました。

    今回使用したe-Stat公開データは次の3種類です。

    データ用途
    基本単位区ポリゴン人口を配分する最小単位となる境界データ
    基本単位区男女別人口・世帯数基本単位区ごとの男女人口を取得
    町丁・字等別男女別5歳階級人口年齢構成を基本単位区へ配分するための基礎データ

    これら3つのデータをGIS上で対応付けることで、基本単位区ごとの男女別5歳階級人口を推計していきます。

    図1 使用データの関係図


    基本単位区人口データを作成する

    基本単位区ポリゴンには、位置や境界を表す空間情報は含まれていますが、人口配分に必要となる男女別人口や世帯数などの属性は十分に登録されていません。

    そのため、まず基本単位区コードを共通キーとして、基本単位区ポリゴン基本単位区男女別人口・世帯数を結合し、人口属性を持つ基本単位区データを作成しました。

    この処理により、各基本単位区について、

    • 男性人口
    • 女性人口
    • 総人口
    • 世帯数

    をGIS上で利用できるようになります。

    しかし、この時点では年齢別人口は含まれていません。

    建物人口モデルでは5歳階級人口が必要ですが、e-Statでは基本単位区単位の5歳階級人口は公開されていないためです。

    そこで次の工程では、町丁・字等で公開されている男女別5歳階級人口を利用し、基本単位区ごとの年齢構成を推計していきます。

    図2 基本単位区ポリゴンと男女別人口・世帯数の結合


    町丁・字等の5歳階級人口を基本単位区へ配分する

    基本単位区データに男女別人口を付与したことで、人口配分の基礎となるデータセットが完成しました。

    しかし、この時点では各基本単位区に年齢構成はありません。

    一方、e-Statでは町丁・字等単位で男女別5歳階級人口が公開されています。

    そこで本モデルでは、町丁・字等の5歳階級人口を、その内部に存在する基本単位区へ配分する方法を採用しました。

    ただし、町丁・字等の人口を単純に均等配分したり、面積だけで按分したりすると、実際の人口分布とかけ離れた結果になる可能性があります。

    例えば、同じ町丁目の中でも、基本単位区ごとに人口規模は大きく異なります。住宅が密集する区域もあれば、公園や道路、公共施設が多い区域もあり、同じ面積だからといって同じ人口が居住しているとは限りません。

    そこで今回は、既に付与した基本単位区の男女別人口を重みとして利用しました。

    具体的には、町丁・字等ごとの男性5歳階級人口は、基本単位区の男性人口比率で配分し、女性5歳階級人口は女性人口比率で配分します。

    この方法により、

    • 男女別人口
    • 年齢構成
    • 町丁・字等の総人口

    の整合性を保ったまま、基本単位区ごとの5歳階級人口を推計することができます。

    また、男女別に配分することで、男性と女性で人口分布が異なる地域でも、その特徴をできるだけ維持したまま年齢構成を基本単位区へ反映できます。

    この処理をすべての町丁・字等について実施することで、基本単位区単位の男女別5歳階級人口データを作成しました。

    図3 男女別人口比を利用した5歳階級人口の配分イメージ


    基本単位区5歳階級人口を作成する

    町丁・字等ごとの男女別5歳階級人口を基本単位区へ配分する考え方が決まったら、GIS上で実際に人口配分を行います。

    まず、町丁・字等ポリゴンと基本単位区ポリゴンを重ね合わせ、それぞれの基本単位区がどの町丁・字等に属するかを取得しました。

    次に、前章で求めた男女別人口比を利用し、町丁・字等で公開されているすべての5歳階級人口について、基本単位区ごとの人口を算出します。

    配分対象は0~4歳から85歳以上までの全5歳階級であり、男性・女性それぞれについて同じ処理を行いました。

    その結果、各基本単位区には、

    • 男女別人口
    • 世帯数
    • 男女別5歳階級人口

    が属性として付与され、建物人口モデルの基礎となる人口データが完成しました。

    図4は、町丁・字等の5歳階級人口が基本単位区へ配分され、最終的に基本単位区別5歳階級人口データが作成される流れを示しています。

    図4 基本単位区5歳階級人口データの作成フロー

    これらの処理は、ArcGIS Proの空間解析機能とテーブル結合機能を利用することで実現できます。本検証では、一連のGIS処理をMCP(Model Context Protocol)を介してAIエージェントに実行させ、処理結果を段階的に確認しながら基本単位区5歳階級人口データを作成しました。

    人口を付与する建物を抽出する

    基本単位区5歳階級人口が完成したことで、建物へ人口を配分するための基礎データが整いました。

    しかし、ここでもう一つ解決しなければならない課題があります。

    PLATEAU建物モデルには、住宅だけでなく、工場、学校、病院、商業施設、公共施設など、さまざまな用途の建物が含まれています。

    このすべての建物へ人口を配分すると、実際には人が居住していない建物にも人口が割り当てられてしまいます。

    そこで本モデルでは、OpenStreetMap(OSM)の施設情報(POI:Point of Interest)を利用し、建物の用途を判定することにしました。

    まず、PLATEAU建物フットプリントとOSMのPOIデータを空間的に対応付け、各建物に施設情報を付与します。

    次に、取得した施設情報を基に、

    • 工場
    • 学校
    • 商業施設
    • 医療施設
    • 公共施設
    • その他の非居住施設

    などを抽出し、人口配分の対象から除外しました。

    一方、POIが存在しない建物や住宅として利用されている建物については、人口を配分する対象として扱います。

    この処理により、建物用途を考慮した人口配分が可能となり、前回の250m人口メッシュモデルで課題となっていた「非居住建物への人口配分」を大幅に改善することができました。

    図5は、PLATEAU建物フットプリントとOSM施設情報を利用し、人口を付与する建物を抽出する流れを示しています。

    図5 OSM施設情報を利用した人口付与対象建物の抽出

    秘匿地域への対応

    国勢調査では、個人情報保護の観点から、一部の基本単位区について人口が秘匿されています。

    このような区域では人口値が公開されていないため、そのままでは5歳階級人口を配分することができません。

    しかし、e-Statでは秘匿された基本単位区の人口は、周辺の非秘匿基本単位区へ統合して公表されています。

    そのため、本モデルでは公開されている人口データの構成に従い、秘匿地域を独立した人口区域として扱うのではなく、統合先の基本単位区の一部として処理しました。

    この方法により、

    • 公開されている統計値との整合性を維持できること
    • 人口の二重計上や欠損が発生しないこと
    • 建物人口モデルへそのまま利用できること

    を確認しています。

    つまり、本モデルでは秘匿地域に対して独自の人口推計を行うのではなく、e-Statで公開されている統計体系を維持したまま人口配分を実施しています。

    図6 秘匿地域への対応


    作成した人口モデルを検証する

    建物人口モデルでは、人口を細かな単位へ配分していくため、元の人口が正しく保持されていることを確認する必要があります。

    本モデルでは、基本単位区5歳階級人口を建物へ配分した後、再び基本単位区単位で人口を集計し、元データとの比較を行いました。

    検証では、次の4点を確認しています。

    • 基本単位区人口と建物人口の合計が一致していること
    • 男女別人口が保持されていること
    • 5歳階級人口が保持されていること
    • 人口が存在しない基本単位区では、建物人口も0人となっていること

    図7は、基本単位区人口と建物人口を比較した結果の一例です。

    各基本単位区について、建物人口を再集計した結果は、元の基本単位区人口と一致しており、人口を増減させることなく建物へ配分できていることが確認できました。

    また、住宅が存在しない区域や人口が0人の基本単位区についても、新たな人口は作成されておらず、人口保存の条件が満たされていることを確認しています。

    このような検証を行うことで、人口配分アルゴリズムだけでなく、GIS処理やデータ結合に誤りがないことも同時に確認できます。

    今回の検証では、一連のGIS処理をMCP(Model Context Protocol)を介してAIエージェントに実行させましたが、処理結果は各工程で人が確認し、最終的な人口保存や整合性についても検証を行いました。

    その結果、建物人口モデルの基礎となる基本単位区5歳階級人口データを、公開データのみを利用して構築できることを確認しました。

    図7 基本単位区と建物人口の比較検証

    まとめ

    今回の記事では、e-Statで公開されている複数の統計データを組み合わせることで、基本単位区5歳階級人口を作成する方法を紹介しました。

    さらに、PLATEAU建物フットプリントとOpenStreetMap(OSM)の施設情報を利用して人口を付与する建物を抽出することで、前回の250m人口メッシュを用いたモデルよりも現実に近い建物人口モデルを構築しました。

    今回作成した基本単位区5歳階級人口データは、建物人口モデルだけでなく、避難シミュレーション、生活圏分析、公共施設配置の検討、都市計画、防災分野など、さまざまな空間分析へ応用することができます。

    また、一連の処理はArcGIS ProのGIS機能を用いて実現でき、今回はMCPを利用して処理の自動化と検証を行いました。今後は、このようなGISとAIエージェントを組み合わせたワークフローにより、これまで多くの手作業を必要としていた人口データ整備も、より効率的かつ再現性の高い方法で実施できるようになると考えています。

    あとがき ~MCPが果たした役割~

    今回紹介した人口モデルは、ArcGIS Proの標準機能を利用することで構築できます。

    しかし、本モデルの構築は、単にGISツールを順番に実行すれば完成するものではありませんでした。

    e-Statで公開されている多数の統計データを調査し、利用できるデータを選定し、人口配分方法を検討し、秘匿地域への対応を整理し、OSM施設情報による建物用途の判定方法を考え、さらに人口保存の検証を繰り返すなど、多くの試行錯誤を重ねています。

    このような作業を人の手だけで行うことは、現実には非常に困難です。

    GIS処理そのものよりも、

    「結果を確認し、問題点を見つけ、原因を考え、モデルを修正する」

    という試行錯誤に膨大な時間を要するためです。

    今回の検証では、MCP(Model Context Protocol)を利用してAIエージェントにArcGIS Proの操作や各種解析を実行させ、その結果を対話しながら何度も改善を重ねました。

    重要なのは、AIが自動的に正しいモデルを作成したわけではないという点です。

    GIS技術者が長年培ってきた知識や判断をAIへ伝え、その結果を検証しながらモデルを完成させていく。この「対話による試行錯誤」を高速に繰り返せたことが、MCPを活用した最大の成果でした。

    今回構築した人口モデルは一つの成果物ですが、それ以上に大きな成果は、この構築プロセス自体をAIが再利用できる知識として整理できたことです。

    今後は、こうした知見を蓄積していくことで、人口モデルだけでなく、都市計画、防災、公共施設管理など、さまざまなGIS業務においても、AIエージェントが実務を支援する時代が近づいていると考えています。

    生成AIによるOSM施設情報の分類

    OSMには施設情報(POI)が登録されていますが、人口配分に利用するためには、建物用途ごとに分類する必要があります。

    今回は、MCPを通じて生成AIへ次のような指示を与えました。

    STEP4 POI抽出

    OSM施設情報を抽出する。

    カテゴリ分類は付与してよい。

    行政、教育、医療、福祉、消防、警察、避難所、公園、緑地、駅、バス停、駐車場、商業施設、飲食店、コンビニ、スーパー、郵便局、金融機関、神社、寺院、その他POI

    OSM元属性は保持する。

    生成AIはOSMタグを解析し、施設用途を自動的に分類しました。

    その結果、5,636件のPOIが次のように整理されました。

    カテゴリ件数
    商業施設935
    駐車場585
    飲食店417
    公園433
    バス停381
    医療179
    教育184
    鉄道施設163
    スポーツ施設144
    総計5,636

    (表は主要カテゴリを抜粋)

    このような分類は、OSMタグの種類が非常に多く、人手で一件ずつ整理することは現実的ではありません

    一方で、生成AIによる分類結果をそのまま採用したわけではありません。

    GIS上で建物位置や航空写真を確認しながら分類結果を目視確認し、居住可能性の判定が適切であることを確認した上で、人口を付与する建物を抽出しました。

    つまり、本モデルでは、

    生成AIによる一次分類GISによる目視検証を組み合わせることで、人口配分対象建物を決定しています。

    今回の検証では、AIが正解を導いたわけではありません。

    GIS技術者が

    • モデルを考え
    • AIへ指示し
    • 結果を確認し
    • 修正する

    というサイクルを繰り返しました。

    しかし、その過程で得られた知見はMCPのプロンプトとして蓄積されます。

    つまり、一度確立した手順は次回以降ほぼ同じ品質で再利用できます。

    これは従来のGIS業務にはなかった大きな変化です。

    関連記事▶PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か

  • Vol.4 人流ダッシュボードを政策評価へ活かす方法|GIS・PLATEAU・生成AIによる自治体DX

    自治体GIS×生成AI 実践シリーズの4回目です。

    本記事では、岡崎市の人流カメラから蓄積されるデータを、PLATEAU建物人口、GISによる都市構造分析、生成AIによる地域魅力の評価と組み合わせ、政策立案や住民との合意形成に活用するGISダッシュボードの考え方を紹介します。

    人流データは蓄積される。しかし…

    岡崎市では、人流カメラから毎日データが収集され、ダッシュボードへ反映されます。

    運用が始まれば、このデータは10年間蓄積されます。

    しかし、

    単にグラフが増えるだけでは、

    「今日は人が多かった」

    という確認に留まってしまいます。

    本当に必要なのは、

    人流データを都市構造と結び付け、政策へ活用すること

    です。

    本シリーズでは、そのための分析基盤を構築してきました。

    そしてVol.4では、その成果をダッシュボードへ実装する考え方を紹介します。

    1 分析は完成ではなくスタート

    本シリーズでは、PLATEAU建物データ、GIS、生成AI、統計解析を組み合わせ、人流を説明するモデルを構築してきました。

    しかし、本研究の目的は、人流を予測することではありません。

    重要なのは、

    人流に影響する都市要素を明らかにし、その成果を日常業務で活用できる形へ変えること

    です。

    分析結果が報告書で終わるのであれば、自治体業務は変わりません。

    今回構築したモデルは、そのまま政策評価の指標として利用できます。


    2 今回得られた成果

    これまで構築してきた成果は次のとおりです。

    • PLATEAU建物人口モデル
    • GISによる400m到達圏分析
    • AIによる魅力度指標
    • 主成分分析による都市構造評価
    • 重回帰による人流モデル

    これらは個別の分析ではなく、一つのデータ基盤として連携しています。

    図1:人流モデル構築の全体フロー

    図1は、本シリーズ全体の分析フローをまとめたものです。

    PLATEAUから建物人口を構築し、GISで400m到達圏の都市構造を集計します。

    さらに生成AIによって魅力度や滞留性などの定性的な情報を数値化し、統計解析によって人流との関係をモデル化しました。

    本研究では、これらを個別の分析ではなく、一連のデータ処理として構築した点が特徴です。


    3 ダッシュボードへ組み込む

    現在構築している岡崎市のダッシュボードでは、

    • 時間帯別人流
    • 年齢構成
    • カメラ位置

    などが表示されます。

    ここへ今回作成した指標を追加すると、

    従来

    「人が多い」

    だけだった画面が、

    「なぜ人が多いのか」

    まで理解できる画面になります。

    例えば、


    都市構造評価

    • 都市集積性(FC1)
    • 都市アクセス性(FC2)
    • 商業・回遊性(FC3)
    • 居住性(FC4)

    AI評価

    • Attraction Score(魅力度)
    • Dwell Score(滞在性)

    人流ポテンシャル

    • 平日
    • 休日

    政策評価

    • 改善余地
    • 都市機能バランス
    • 人流ポテンシャル

    これらを同じ画面へ表示することで、

    結果

    だけではなく、

    要因

    まで確認できるようになります。

    図2:人流ダッシュボードイメージ図

    例えば、担当職員が地図上でカメラをクリックすると、

    その地点の

    • 実測人流
    • 都市集積性
    • 商業・回遊性
    • 建物人口
    • AI魅力度

    が表示されます。

    さらに、

    実測人流とモデルによる予測値との差を比較することで、

    「人が集まり過ぎている場所」

    「本来もっと人が集まる可能性がある場所」

    を把握できます。


    4 政策評価指標として利用する

    例えば、

    実測人流は少ないものの、

    都市構造評価は高い場所があったとします。

    この場合、

    現状では十分な魅力が発揮されていない可能性があります。

    逆に、

    人流は多いものの、

    都市構造評価が低い場所は、

    イベントなど一時的な要因で人が集まっている可能性があります。

    このように、

    単なる人流のランキングではなく、

    都市構造と比較しながら評価できることが、

    今回構築したモデルの特徴です。

    表1 都市構造評価に基づく政策検討シナリオ

    ダッシュボードの評価考えられる状況政策検討例
    都市構造評価:高人流:少潜在力はあるが十分活用されていないイベント開催、情報発信強化、歩行者動線の改善、休憩空間の整備
    都市構造評価:低人流:多一時的な集客に依存している可能性継続的な滞在環境の整備、回遊ルート形成、周辺施設との連携
    商業・回遊性(FC3)が低い回遊性が不足ベンチ、サイン、歩行空間、オープンカフェ等の滞留空間整備
    AI魅力度が低い景観・店舗情報などの魅力が不足景観改善、ライトアップ、店舗誘致、SNS・観光情報発信
    建物人口は多いが人流が少ない居住人口が回遊へつながっていない地域イベント、生活サービス充実、歩いて楽しめる仕掛けづくり

    ダッシュボードの目的は、施策を自動的に決定することではありません。都市構造評価や人流ポテンシャルを基に、改善余地のある地点を抽出し、どのような施策を優先的に検討すべきかを職員が判断するための支援ツールとして活用することです。

    政策立案だけでなく、住民との合意形成にも活用

    ダッシュボードの役割は、行政内部の政策立案を支援することだけではありません。

    都市構造評価や人流分析の結果を地図やグラフで可視化することで、

    「なぜこの場所を優先して整備するのか」

    「なぜこのエリアで回遊性向上の施策を進めるのか」

    といった行政の判断を、データに基づいて説明できるようになります。

    例えば、

    都市構造評価は高いものの人流が少ない地点では、潜在的な魅力が十分に発揮されていない可能性が考えられます。

    そのような地点では、

    • ベンチや滞留空間の整備
    • イベントやマルシェなどの開催
    • 歩行者サインや案内板の充実
    • 夜間利用を促す街灯や景観照明の整備
    • 周辺店舗や公共施設と連携した回遊ルートの形成

    といった施策を検討する候補として位置付けることができます。

    また、再開発や交通規制、歩行者空間の再編など、住民の理解を得ることが重要となる施策についても、人流データや都市構造評価を客観的な資料として示すことで、行政の考え方を分かりやすく説明する材料になります。

    もちろん、最終的な政策決定には地域特性や住民意見、財政面など様々な要素を考慮する必要がありますが、本研究で提案したダッシュボードは、その議論を支える共通の情報基盤として活用できる可能性があります。


    5 カメラ位置が変わっても活用できる

    今回の分析では17地点を対象にモデルを構築しました。

    しかし、

    このモデルは17地点専用ではありません。

    評価しているのは

    カメラ周辺400mの都市構造

    だからです。

    新たなカメラを設置した場合でも、

    GISで400m到達圏を作成し、

    建物人口や道路、AI魅力度などを再集計することで、

    同じ評価モデルを適用できます。

    つまり、

    モデルを作り直す必要はなく、

    評価対象だけを更新すればよい仕組みとなっています。

    これは、実際に岡崎市でカメラ配置を見直した際にも同じ考え方で対応できることを確認しました。


    6 データが蓄積されるほど価値が高まる

    ダッシュボードには毎日人流データが蓄積されます。

    その結果、

    季節

    曜日

    イベント

    社会情勢

    などの変化も分析できるようになります。

    モデルも定期的に更新することで、

    政策評価指標はより精度の高いものへ発展していきます。

    これは、一度作って終わる分析ではなく、

    運用しながら育てる分析基盤と言えます。

    運用イメージ

    例えば、

    休日に大型イベントを開催した場合、

    ダッシュボードには

    当日の人流が自動的に反映されます。

    さらに、

    モデルによる予測値と比較することで、

    イベントによる効果を定量的に評価できます。

    また、

    翌年に同じイベントを開催した場合も、

    前年との比較が容易になります。

    10年間蓄積されたデータは、

    単なる履歴ではなく、

    都市施策を検証するための資産になります。

    近年はデジタルツインの活用が注目されています。しかし、都市を3Dで表現するだけでは政策立案には十分ではありません。本研究で示したように、人流や都市構造を継続的に分析し、評価指標としてダッシュボードへ実装することで、デジタルツインは「見る」ための技術から、「判断する」ための基盤へ発展します。

    7 地域特性に応じた横展開

    本研究の特徴は、PLATEAUや人流カメラといった個々の技術にあるのではありません。

    それらを組み合わせ、地域固有の魅力を説明変数として取り込み、人流との関係を分析するフレームワークを構築したことにあります。

    岡崎市では、QURUWAエリアの飲食店や商業施設、回遊拠点、歴史・文化資源などをAIで整理・評価し、人流モデルの説明変数として活用しました。

    つまり、岡崎市で構築したのは**「岡崎市専用のモデル」ではなく、「地域の魅力をデータ化して人流と結び付ける方法論」**です。

    そのため、他都市へ展開する場合も、地域固有の情報をAIで整理・構造化することで、同じ分析フレームワークを適用できます。

    例えば、横浜みなとみらい21であれば、

    • ウォーターフロント
    • 大規模オフィス
    • 商業施設
    • MICE施設
    • ランドマーク
    • イベント空間
    • 観光資源

    など、その地域を特徴付ける要素をAIで整理し、GIS上で説明変数として構築することで、岡崎市と同じ分析プロセスを適用できます。

    説明変数は都市ごとに変わりますが、

    • PLATEAUによる建物人口
    • GISによる空間集計
    • AIによる地域資源の構造化
    • 統計解析による人流モデル
    • ダッシュボードによる政策評価

    という分析の流れは共通です。

    つまり、本研究で提案したのは、特定の都市だけに通用する分析手法ではなく、地域特性に応じて説明変数を柔軟に組み替えられる汎用的な分析フレームワークと言えます。


    8 まとめ

    今回構築したモデルは、

    人流を予測するためだけのものではありません。

    GIS、AI、統計解析によって得られた都市構造評価を、

    そのまま人流ダッシュボードへ組み込むことで、

    職員は

    「人が集まっている」

    だけではなく、

    「なぜ集まるのか」

    「改善するには何を優先すべきか」

    まで把握できるようになります。

    分析結果を政策評価指標として日常業務へ取り込み、継続的に改善へ活用することこそ、本研究が目指す最終的な姿です。

    本シリーズで紹介した内容は、岡崎市の事例を用いて構築した分析フレームワークです。

    しかし、その考え方は特定の自治体だけに限定されるものではありません。

    人流カメラ、PLATEAU、GIS、AIを組み合わせた分析手法は、説明変数を地域特性に応じて再構成することで、

    他都市へも展開できる可能性があります。

    岡崎市で検証した一連のプロセスは、人流データを政策へ活用する実務フレームワークとして整理したものであり、地域特性に応じて説明変数を見直すことで、他都市への展開も期待できます。

    おわりに

    本シリーズでは、PLATEAU、GIS、生成AI、統計解析を組み合わせ、都市データを政策へつなげる一連のプロセスを紹介しました。

    岡崎市で構築したモデルは、人流を分析するためだけのものではありません。

    人流カメラから日々蓄積されるデータを都市構造と結び付け、ダッシュボード上で継続的に評価することで、都市の変化を把握し、施策の効果を検証し、その結果を次の政策へ反映していくことができます。

    このような運用を継続することで、データが蓄積されるほどダッシュボードの価値は高まり、自治体の意思決定を支える基盤へと成長していきます。

    本シリーズが提案したのは、単なる分析手法ではありません。

    「分析が日常業務の中で循環する仕組み」

    を構築することです。

    GIS、PLATEAU、生成AI、統計解析を連携させ、分析結果をダッシュボードへ実装し、日々蓄積されるデータを継続的な政策立案へ結び付けていく――。

    それこそが、本シリーズで提案する自治体GIS活用の姿です。

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    ▶「Vol.2はこちら

  • Vol.3 AIだけでは説明できない。GISと組み合わせて初めて見えた休日の賑わい

    ― 主成分分析で見えた都市の魅力と休日の人流モデル―

    自治体GIS×生成AI 実践シリーズの3回目です。

    平日は都市構造に規定されていた。

    前回の記事では、平日の人流について、駅からの距離、建物人口、就業者、道路構造、駐車場など、都市の物理的・機能的な構造との関係を分析しました。

    その結果、平日の人の動きは、比較的明瞭に都市構造によって説明できることが分かりました。

    朝は駅や職場へ向かい、昼は業務や買い物のために動き、晩は再び駅や駐車場へ戻っていく。

    もちろん一人ひとりの行動目的は異なりますが、全体として見れば、平日の人流は、

    • 駅がどこにあるか
    • 職場や建物がどこに集積しているか
    • どの道路が歩きやすいか
    • 駐車場がどこに配置されているか

    といった都市構造に沿って形成されていました。

    そこで、次の問いが生まれます。

    平日は「駅に近い」「職場がある」といった都市構造に従順な動きをする人々が、休日にはその構造を離れ、どこへ向かうのか。

    休日には通勤や通学という強い制約がありません。

    人は自ら目的地を選び、食事をし、買い物をし、公園で過ごし、イベントに参加し、街を歩きます。

    平日の人流が都市構造によって規定されるとすれば、休日の人流は、人の意志によって形成されるのでしょうか。

    今回の分析では、この**「都市構造」と「人の意志」**という対立軸から、休日の賑わいを説明するモデルの構築を試みました。

    しかし、実際に分析を始めると、休日の人流を説明することは、平日よりもはるかに難しいことが分かりました。

    ※「本稿では、岡崎市QURUWAエリアに設置された人流計測地点を対象に、休日の朝・昼・晩の人流を目的変数としました。各地点から徒歩400メートルで到達できる範囲をGISで作成し、その圏内に存在する施設、道路、建物人口、駐車場などを説明変数として検討しています。」

    休日モデルで最も難しかったのは、回帰分析の計算そのものではありませんでした。人がその場所へ「行きたい」と思う理由を、どのような説明変数として表現するかです。施設を数えるだけでは足りず、AIで施設の意味を数値化しても足りませんでした。本稿では、説明変数を作り、捨て、組み替えながら、一定のモデルへたどり着くまでの過程を紹介します。


    休日の賑わいを何で説明するのか

    平日の人流であれば、説明変数の候補は比較的見つけやすいものです。

    駅からの距離、就業人口、建物人口、道路延長、交差点数、駐車場数など、通勤や業務活動と関係する客観的な都市構造データを用意できます。

    一方、休日には、人がその場所を訪れる理由そのものが多様になります。

    例えば、

    • 飲食店が多い
    • 買い物ができる
    • 公園や広場で休める
    • 図書館や文化施設がある
    • 歩いて楽しめる街並みがある
    • イベントが開催されている
    • 写真を撮りたくなる場所がある
    • その街を訪れる明確な目的がある

    といった要素が考えられます。

    ところが、これらは人口や道路延長のように、既存の統計データから簡単に取得できるものではありません。

    飲食店を1件、商業施設を1件と数えることはできます。しかし、同じ1件でも、人を遠方から呼び込む店と、近隣住民が日常的に利用する店とでは、休日の人流への影響は異なります。

    また、公園や広場についても、単に存在するだけでは人が集まるとは限りません。滞在できる空間なのか、イベントが開かれるのか、周辺施設と回遊できるのかによって、その意味は変わります。

    つまり、休日モデルでは、最初の段階から、

    何を説明変数として数値化すれば、人がその場所を選ぶ理由を表現できるのか

    という問題に直面しました。

    図2:休日人流を説明する候補となる要素(説明変数の検討)


    既存の施設データだけでは説明できなかった

    当初は、OpenStreetMapなどから取得した施設データを用い、各カメラ地点の徒歩圏内に存在する施設数を集計しました。

    飲食店、小売店、公園、公共施設などを分類し、それぞれの件数と休日人流との関係を確認しました。

    しかし、結果は十分ではありませんでした。

    理由の一つは、施設データの分類が、今回の分析目的に合っていなかったことです。

    一般的なPOIデータには、店舗や公共施設だけでなく、行政サービス、設備、案内施設なども含まれます。これらを機械的に集計しても、「休日に人が訪れたくなる場所」を表しているとは限りません。

    また、店舗数が多い場所ほど人流が多いという単純な関係も確認できませんでした。

    店舗が多数存在していても、日常利用型の店が中心であれば、休日の目的地としての吸引力は高くない可能性があります。一方、施設数が少なくても、図書館、広場、ランドマーク、人気店など、強い目的性を持つ場所があれば、人が集まることがあります。

    施設を単に「数える」だけでは、休日の賑わいを説明できなかったのです。

    ※これはOpenStreetMapの精度が低いという意味ではありません。OSMは幅広い施設情報を取得できる優れたデータですが、今回必要だったのは、一般的な施設分類ではなく、「休日にその場所を訪れる理由」に近い分類でした。


    QURUWA公式情報から、街の機能を捉え直す

    行政施設分類は「何の施設か」を示します。一方、QURUWAの分類は「そこで何ができるか」を示しています。休日人流を説明するうえでは、施設の名称よりも、飲食、買い物、滞在、学び、回遊といった行動との関係が重要です。そこで本稿では、施設そのものではなく、施設が来訪者に提供する機能を捉えることにしました。

    そこで、一般的な施設データではなく、QURUWAの公式サイトに掲載されているスポット情報を利用することにしました。

    QURUWA公式サイトは、単なる施設一覧ではありません。

    街を訪れる人の視点から、

    • 食べる
    • 買い物をする
    • 憩う
    • 学ぶ
    • 街を歩く
    • QURUWA拠点

    という形で、場所の役割が整理されています。

    これは行政施設分類や業種分類とは異なり、人がその場所で何をするのかに近い分類です。

    公式サイトから123件のスポット情報を取得し、名称、カテゴリ、位置情報、公式サイト、Instagram、イベント情報などを整理しました。

    次に、各カメラ地点から道路ネットワークに沿った徒歩400メートル到達圏を作成し、その内部に含まれるQURUWAスポットを集計しました。

    ここで重要なのは、単純な半径400メートルの円ではなく、実際の道路ネットワークに沿って到達可能な範囲を用いたことです。

    川、橋、道路の接続、街区形状によって、直線距離では近くても歩いて到達しにくい場所があります。

    休日の回遊を扱う以上、「近くにあるか」ではなく、実際に歩いて行けるかを捉える必要があります。

    この部分は、施設情報を理解するAIだけでは扱えません。GISによるネットワーク解析が必要になります。


    施設数を増やしても、モデルは良くならなかった

    QURUWAの6分類について、

    • FOOD
    • SHOP
    • RELAX
    • LEARN
    • WALK
    • HUB

    の件数を各到達圏で集計しました。

    ところが、これらをそのまま重回帰分析へ投入しても、安定したモデルにはなりませんでした。

    中心市街地では、飲食店が多い場所には買い物施設も多く、憩いの空間や拠点施設も近接しています。

    つまり、それぞれの変数が独立しているのではなく、都市の中心性や施設集積を共通して表していました。

    変数を増やせば説明力が上がるように見えますが、実際には説明変数同士の相関が強くなり、どの変数がどの程度影響しているのか分からなくなります。

    これは多重共線性の問題です。

    休日の賑わいを詳しく説明しようとして施設分類を増やすほど、モデルが不安定になるという逆説が生じました。

    この段階で必要だったのは、説明変数を増やすことではなく、複数の施設情報の背後にある共通した性格を見つけることでした。


    AIが作成した説明変数を、そのまま使わなかった理由

    生成AIにより、各スポットについて誘引力や滞在性など複数の評価指標を作成しました。しかし、これらをそのまま重回帰分析へ投入したわけではありません。

    その理由は、これらの説明変数同士が強く相関しているためです。

    例えば、誘引力が高い施設は滞在性も高い傾向があり、高評価施設数とも関係しています。このような変数をそのまま重回帰分析へ用いると、多重共線性が発生し、モデルの安定性が低下する可能性があります。

    そこで本研究では、休日人流を一切用いず、AIが作成した説明変数だけを対象として主成分分析を実施しました。

    ここで重要なのは、この段階では目的変数である休日人流を見ていないことです。

    つまり、「人流をよく説明するように主成分を作った」のではなく、施設が持つ特徴だけから、共通する性質を抽出しています。


    表1 FAC2_1(第2主成分)を構成する主な変数

    AIで作成した説明変数主成分負荷量解釈
    ATTRACTION_SCORE5_COUNT0.930AIが最高評価したスポット数
    ATTRACTION_SCORE4UP_COUNT0.852高評価スポットの集積
    ATTRACTION_RAW_MAX0.577エリア内で最も高い誘引力
    DWELL_MEAN0.441平均滞在性
    ATTRACTION_RAW_MEAN0.428平均誘引力

    回転後成分行列(Varimax回転)より作成。


    FAC2_1は「休日人流を説明するため」に作られた指標ではない

    表1から分かるように、第2主成分(FAC2_1)は、高評価スポット数や最大誘引力に強く反応する成分でした。

    つまりFAC2_1は、

    人流データから作られた指標ではなく、施設が持つ潜在的な魅力や目的地としての性格を表した合成指標

    と解釈できます。

    ここでは休日人流を一切利用していないため、AIが施設情報から抽出した「場所の特徴」だけが反映されています。


    最後に初めて休日人流との関係を検証した

    主成分分析によって得られたFAC2_1は、その後の重回帰分析に説明変数として投入しました。

    その結果、徒歩圏道路延長、建物人口、駐車場数とともに、FAC2_1は休日人流を説明する主要な説明変数として採用されました。

    つまり、

    AIが施設情報から抽出した潜在的な場所の性格が、休日人流と統計的な関係を持つことが確認された

    ことになります。

    これは、AIが人流を予測したのではありません。

    AIは施設情報から意味を抽出し、主成分分析はその意味を少数の潜在指標へ整理しました。そして最後に、重回帰分析によって、その潜在指標が休日人流とどのような関係を持つのかを検証しています。

    AIによって「施設の性格」を数値化する

    しかし、施設数だけでは、その場所が持つ目的地としての強さや滞在性を表現できません。

    そこで、QURUWA公式サイトに掲載された各スポットの説明文、施設カテゴリ、位置関係、イベント情報などをもとに、生成AIを使って施設の性格を評価しました。

    具体的には、各施設について、

    • 目的地として人を呼び込む力
    • 公共空間としての利用可能性
    • イベントとの関係
    • 滞在しやすさ
    • ランドマーク性
    • SNSで共有されやすい性格

    などを整理し、説明変数の候補を作成しました。

    また、施設ごとの誘引力や滞在性を表す指標として、

    • 誘引力スコアの合計
    • 誘引力スコアの平均
    • 最大誘引力
    • 高評価施設数
    • 滞在性スコアの合計
    • 滞在性スコアの平均

    なども作成しました。

    図3:徒歩圏(400m到達圏)でのスポット集計とカテゴリ件数の把握

    ここでAIは、統計的な答えを直接出したわけではありません。

    AIが担ったのは、文章として記載された施設の特徴を読み取り、これまで数値として存在しなかった場所の意味を、分析可能な候補変数へ変換することです。

    ただし、AIが作った変数が、そのまま正しい説明変数になるわけではありません。

    AIの評価には判断が含まれます。スコアの根拠を確認し、地図上の位置関係と照合し、統計的な妥当性を検証する必要があります。

    この過程は、AIに一度質問して終わるものではありませんでした。

    分類方法を見直し、スコアを作り直し、施設数との関係を確認し、相関を調べ、モデルへ投入しては外すという作業を繰り返しました。


    図4:生成AIを活用した休日説明変数の構築

    ※AIによる評価では、施設ごとに同じ評価項目と判定基準を適用しました。また、スコアだけでなく、評価理由を記録し、人が確認できる形で整理しました。これはAIの判断を正解として採用するためではなく、文章情報を一定の手順で候補変数へ変換し、その後の統計分析とGISで検証できる状態にするためです。

    主成分分析で、背後の構造を探る

    施設関連の変数は、互いに強く相関していました。

    例えば、誘引力の高い施設が多い場所では、滞在性の合計も高くなります。施設数が多い場所では、誘引力の合計も大きくなりやすくなります。

    これらをすべて重回帰へ投入すれば、同じ性質を重複して評価することになります。

    そこで主成分分析を用い、複数の施設変数を少数の潜在的な軸へまとめました。

    ここで捉えようとしたのは、個別の施設数ではなく、複数の施設が組み合わさって形成する場所の性格です。

    分析の過程では、

    • 多数の施設や滞在機能が面的に集まる性格
    • 強い目的地や拠点が存在する性格
    • 飲食、買い物、憩いなどが複合する性格

    といった潜在的な要素が現れました。

    ただし、因子や主成分は、計算すれば自動的に意味が決まるものではありません。

    どの変数が強く寄与しているかを確認し、実際の地図と照らし合わせながら、因子が何を表しているのかを解釈する必要があります。

    数値上は同じような得点でも、現地では商店街、図書館、公園、橋の周辺など、異なる都市空間が含まれます。

    このため、統計表だけで判断せず、因子得点をGIS上に表示し、その空間分布を確認しました。

    統計分析で見つけた潜在因子を、GISで現実の街へ戻して確認する。

    この往復を繰り返すことで、ようやく休日の賑わいを表す説明変数として利用できる形になりました。


    「人の意志」だけでも、休日は説明できなかった

    分析を始めた時点では、休日には通勤や業務の制約が弱まり、人は施設の魅力や目的性によって自由に移動すると考えていました。

    しかし、AIによって作成した誘引力や滞在性の変数だけでは、休日人流を十分に説明できませんでした。

    人を引きつける施設があっても、そこへ至る歩行ネットワークが弱ければ、回遊は生まれにくくなります。

    施設が集積していても、周辺に人が存在せず、アクセス手段が乏しければ、賑わいは限定されます。

    逆に、建物人口や道路延長が大きいだけでも、休日に訪れる目的がなければ、人流は形成されません。

    休日の人流は、都市構造を無視した人の自由な行動ではありませんでした。

    かといって、平日のように都市構造だけで決まるものでもありません。

    分析から見えてきたのは、

    人を引きつける場所の性格と、人がそこへ到達し、回遊し、滞在できる都市構造の組み合わせ

    です。


    最終モデルへたどり着くまで

    休日モデルでは、多数の組み合わせを検討しました。
    表2 休日モデルの検討過程

    段階主な説明変数結果・課題
    施設数モデルOSM施設件数、カテゴリ件数施設の意味を十分に表せない
    AI指標モデル誘引力、滞在性、ランドマーク性意味は捉えるが空間構造を説明できない
    統合モデル第2因子、道路延長、建物人口、駐車場場所の性格と都市構造を同時に説明

    施設分類の件数、AIによる誘引力・滞在性指標、主成分得点、道路延長、建物人口、駐車場、駅距離などを入れ替えながら、朝・昼・晩それぞれについてモデルを検証しました。

    変数を増やせば決定係数が高くなる場合もあります。しかし、説明変数同士の相関が強く、係数の符号が不安定になるモデルは採用できません。

    一方で、変数を減らしすぎれば、休日の多様な行動を捉えられません。

    今回は、

    • 統計的な有意性
    • モデル全体の説明力
    • 多重共線性
    • 係数の方向
    • GIS上で見た空間分布
    • 都市行動として説明可能か

    を確認しながら、モデルを絞り込みました。

    最終的には、朝・昼・晩に共通して、

    • 第2因子得点
    • 徒歩圏内道路延長
    • 建物人口の対数値
    • 駐車場ポイント数

    を用いる4変数モデルを採用しました。

    第2因子得点は、AIによって整理した施設の誘引力や滞在性を含む複数の変数を統合した、休日の場所の性格を表す指標です。

    一方、徒歩圏内道路延長、建物人口、駐車場数は、その場所を支える都市構造を表しています。

    つまり最終モデルそのものが、

    人の目的地選択を表す変数と、それを受け止める都市構造の変数

    の組み合わせになっています。

    最終モデルの信頼性を数値で確認する

    表3 休日人流最終モデルの概要

    時間帯調整済みR²モデル全体のp値最大VIF観測地点数
    0.5950.4610.02011.98717
    0.6610.5480.00811.98717
    0.6220.4960.01411.98717

    最終モデルでは、朝・昼・晩ともモデル全体は5%水準で有意でした。説明力は昼が最も高く、調整済みR²は0.548、朝は0.461、晩は0.496でした。一方、最大VIFは3モデル共通で11.987となっており、特にFAC2_1と他の都市構造変数との間に強い共線性が残っています。

    ※一般的にはVIFが10を超えると多重共線性が強い可能性があるとされます。本モデルでもその傾向は残りましたが、都市構造上相互に関連する変数を扱っていることから、その限界を認識した上で解釈しています。

    最終モデルでは、朝・昼・晩に共通して、第2主成分得点(FAC2_1)、徒歩圏内道路延長、建物人口の対数値、駐車場ポイント数の4変数を用いました。

    モデル全体の有意性を確認すると、朝はp=0.020、昼はp=0.008、晩はp=0.014であり、3つの時間帯すべてで5%水準の有意なモデルとなりました。

    調整済み決定係数は、朝が0.461、昼が0.548、晩が0.496でした。特に昼モデルでは、地点間の人流差の約55%を4つの説明変数によって説明しています。

    一方、多重共線性を示すVIFの最大値は、3モデルとも11.987でした。一般的な目安では高い値であり、このモデルには説明変数間の強い関連が残っています。

    ただし、FAC2_1は、施設の誘引力や高評価スポットの集積を複数の変数からまとめた主成分得点です。また、徒歩圏内道路延長や建物人口も、中心市街地の集積性と関係します。そのため、これらが一定程度相関することは、都市構造上も不自然ではありません。

    したがって本稿では、VIFが高いことを無視して「精度の高いモデル」と断定するのではなく、

    モデル全体には統計的な説明力が確認された一方、説明変数間には強い関連が残る探索的モデル

    として位置づけます。

    本モデルは17地点という限られた観測地点を対象としています。数値は一般法則を示すものではなく、QURUWAエリア内において、施設の目的地性と都市構造が休日人流とどのように関係するかを確認するためのものです。

    多重共線性が示した、もう一つの意味

    一方で、この結果は統計上の課題だけを示しているわけではありません。

    FAC2_1、徒歩圏内道路延長、建物人口、駐車場ポイント数は、それぞれ独立した要素ではなく、実際の都市では互いに関係しながら街の魅力を形成しています。

    そのため、例えば駐車場だけを整備しても、人流が大きく増えるとは限りません。 駐車場があっても、目的となる施設の魅力が不足していたり、安全で快適に歩ける空間がなければ、人は回遊せず滞在時間も伸びません。

    逆に、魅力的な施設が整備されても、アクセスや歩行環境が十分でなければ、その効果は限定的になります。

    つまり、多重共線性は「説明変数として分離しにくい」という統計的な特徴であると同時に、現実の都市では、それらの要素が一体となって賑わいを生み出していることを示しているとも考えられます。

    自治体のまちづくりにおいても、駐車場整備、道路空間の改善、施設の魅力向上、人口集積をそれぞれ個別施策として進めるのではなく、相互に組み合わせた総合的な都市施策として計画・評価することの重要性を、この分析結果は示唆しています。


    回帰式をGISに実装する

    最終モデルでは、朝・昼・晩について、それぞれ異なる非標準化係数が得られました。

    これらの係数をArcGIS Proのフィールド演算へ実装し、各カメラ地点の徒歩400メートル到達圏について、人流ポテンシャルを算出しました。

    Y^=1590.38050.708F20.018W191.317P+11.549C\widehat{Y}_{朝} =1590.380 -50.708F_2 -0.018W -191.317P +11.549CY朝​=1590.380−50.708F2​−0.018W−191.317P+11.549C

    Y^=4150.821139.422F20.052W500.327P+26.247C\widehat{Y}_{昼} =4150.821 -139.422F_2 -0.052W -500.327P +26.247CY昼​=4150.821−139.422F2​−0.052W−500.327P+26.247C

    Y^=670.09521.622F20.010W80.771P+10.163C\widehat{Y}_{晩} =670.095 -21.622F_2 -0.010W -80.771P +10.163CY晩​=670.095−21.622F2​−0.010W−80.771P+10.163C

    ここで、

    • F2F_2​:第2因子得点
    • WW:徒歩圏内道路延長
    • PP:建物人口の対数値
    • CC:駐車場ポイント数
    • Y^\widehat{Y}:各時間帯の推定人流量

    です。

    回帰式をGISへ実装することで、係数表だけでは捉えにくかった時間帯別の空間分布を、地図として確認できるようになりました。

    ※なお、各係数の符号は、その変数単独の効果を意味するものではありません。他の説明変数を一定とした条件下での関係を示しています。また、因子得点は因子の向きによって符号が反転するため、「負だから魅力が低い」と直接読むことはできません。


    地図にして初めて見えたもの

    人流ポテンシャルをGIS上に可視化した結果、数値表だけでは把握しにくかった時間帯ごとの特徴が明確になりました。

    まず、朝は桜城橋北・桜城橋南が最も高いポテンシャルを示しました。一方で、東康生通り1・2は下位に位置しており、休日の朝は橋周辺が人流の中心となる傾向が確認できます。

    昼になると様相は大きく変わります。東康生通り1が最も高いポテンシャルとなり、東康生通り2も上位へ移動しました。 一方、朝に上位であった桜城橋周辺は順位を下げており、人の流れの中心が商業エリアへ移る様子が読み取れます。

    晩になると、再び通り沿いの地点が上位を占めるものの、昼とは順位が入れ替わり、通り沿い全体へ人流が分散する傾向が見られました。特に東康生通り2は最上位となり、東康生通り4も上位を維持しており、夜間の回遊性を反映した結果と考えられます。

    図5:重回帰式の結果をGISで表示

    これは、同じ休日であっても都市構造がすべての時間帯で同じように作用しているわけではないことを示しています。

    朝には朝の目的があり、昼には昼の回遊があり、晩には晩の滞在や帰宅行動があります。

    同じ道路、同じ建物、同じ施設であっても、時間帯によってその意味は変わります。

    AIが作成した説明変数とGISによる空間可視化を組み合わせることで、「どこに人が集まりやすいか」だけでなく、「時間帯によって賑わいの中心がどのように移動するか」まで把握できることが分かりました。

    これは係数表やランキングだけでは読み取れません。

    AIが施設の意味を数値へ変換し、統計分析が変数間の関係を整理し、GISがその結果を都市空間へ戻す。

    つまり、同じ都市構造でも時間帯によって果たす役割が変化することが、GISによる可視化によって初めて確認できました。

    この三つを組み合わせることで初めて、休日の賑わいの空間構造が見えるようになりました。


    休日の人流は「都市構造 vs 人の意志」ではなかった

    今回の分析では、当初、

    • 平日=都市構造に規定される
    • 休日=人の意志によって動く

    という対立を想定していました。

    しかし、分析結果は、それほど単純ではありませんでした。

    休日の人は、平日よりも自由に目的地を選びます。

    その意味では、施設の魅力、滞在性、イベント、街歩きの楽しさなど、「人の意志」に関係する要素が重要になります。

    一方で、その目的地へ行けるか、周辺を歩けるか、滞在できるかは、道路、人口、駐車場などの都市構造に支えられています。

    したがって、休日の賑わいは、

    都市構造か、人の意志か

    という二者択一ではありません。

    人の意志を引き出す都市機能と、その行動を可能にする都市構造が重なった場所に、休日の賑わいが生まれる

    と考える方が適切です。


    AIだけでは説明できない

    今回、AIは重要な役割を果たしました。

    公式サイトの記事や施設説明を読み、施設の誘引力、滞在性、ランドマーク性など、従来のGISデータには存在しなかった意味情報を分析可能な変数へ変換しました。

    しかし、AIが作った変数だけでは、休日人流を説明できませんでした。

    図6:休日の人流にはAIとGISの統合が必要

    AIには、道路ネットワークに沿った到達圏を計算することも、施設の空間的な重なりを正確に集計することもできません。

    また、AIが作ったスコアが現実の街のどこに分布し、都市構造とどう重なるのかを確認するには、GISが必要です。

    逆に、GISだけでは、公式サイトに記載された施設の魅力や滞在性を、そのまま数値化することは困難です。

    今回のモデルは、

    • AIによる意味の抽出
    • 統計分析による関係性の整理
    • GISによる空間的な検証と実装

    を繰り返すことで構築されました。

    図7:多数の変数を少数の潜在因子へ

    したがって本稿の結論は、AIが休日の賑わいを説明した、ということではありません。

    AIだけでは説明できなかった休日の賑わいが、GISと組み合わせることで、一定のモデルとして見えるようになった

    ということです。


    まだ「因果」を説明したわけではない

    今回構築したモデルは、休日の人流と都市機能・都市構造との関係を説明するものです。

    本研究で行った一連の分析手順を図8にまとめます。

    図8:休日モデル構築フロー

    ただし、重回帰分析によって得られた関係は、直ちに因果関係を意味するものではありません。

    例えば、駐車場が多いから人が集まるのか、人が集まる場所だから駐車場が整備されているのかは、この分析だけでは区別できません。

    また、道路延長や建物人口の係数の符号についても、単独の効果として読むのではなく、他の変数を一定とした条件下での関係として解釈する必要があります。

    今回は17地点という限られた観測地点を対象としたモデルであり、一般化には慎重さが必要です。

    それでも、施設数を単純に集計する段階から始め、AIによる意味情報の変数化、主成分分析、重回帰分析、GISによる空間検証を経て、一定の説明モデルまで到達した意義はあります。


    建物単位人口モデルが支えた休日モデル

    本研究で用いた建物人口は、250mメッシュ人口をそのまま利用したものではありません。

    前回までの研究で構築したPLATEAU建物単位人口モデルにより、用途地域や建物規模を考慮して人口を各建物へ配分し、徒歩400m到達圏内の居住人口を建物単位で集計しています。

    休日の人流は、施設の魅力だけでなく、その周辺に「実際にどれだけの人が生活しているか」という居住実態にも影響されます。建物単位人口モデルを用いることで、400m到達圏内の人口分布を実態に近い形で把握でき、休日人流モデルの安定性と解釈性の向上につながりました。

    つまり、本研究は単独の分析ではありません。

    建物人口モデルによる基盤データの整備、AIによる施設の意味の抽出、統計分析による変数の整理、そしてGISによる空間検証が連携して初めて成立した、一連の都市分析システムとして位置付けられます。

    おわりに

    平日の人流は、駅、職場、人口、道路といった都市構造によって比較的説明しやすいものでした。

    一方、休日の人流では、人がその場所へ行きたいと思う理由を、説明変数としてどのように表すかが最大の課題となりました。

    一般的な施設データを数えるだけでは足りませんでした。

    QURUWA公式情報を収集し、AIによって施設の意味を整理し、主成分分析・因子分析によって潜在的な場所の性格を抽出し、GISによる道路到達圏や都市構造データと組み合わせる必要がありました。

    その結果、休日の賑わいは、人の意志だけでも、都市構造だけでも説明できないことが見えてきました。

    行きたいと思わせる目的地があり、そこへ到達し、歩き、滞在できる都市構造がある。

    この複数の条件が重なることで、休日の賑わいが生まれます。

    次回は、このモデルから得られた知見を、実際の都市政策へどのようにつなげることができるのかを考えます。

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  • Vol.2 平日の人流構造を読み解く GISと統計による都市分析

    ― 主成分分析で見えた4つの都市構造と平日の人流モデル―

    自治体GIS×生成AI 実践シリーズの2回目です。

    1. 多重共線性を解決するため、主成分分析を実施

    コラム:「主成分分析」と「因子分析」の違い

    人流分析では、道路延長、交差点数、人口、商業施設数など、多くの説明変数を扱います。しかし、これらの変数は互いに強く関連していることが多く、そのまま重回帰分析を行うと多重共線性の問題が生じます。

    そこで、本研究では**主成分分析(PCA)**を用いて、複数の説明変数を相互に独立した少数の指標へ要約しました。

    一方、因子分析は似た変数の背後にある「共通因子」を推定する手法です。

    両者は似ていますが、目的が異なります。

    主成分分析(PCA)因子分析
    情報を効率よく要約する背後にある潜在因子を推定する
    予測モデルや回帰分析との相性が良い心理学・社会学などで多く利用される
    変数の情報をできるだけ保持する共通因子の解釈を重視する

    本シリーズでは、人流を説明・予測することを目的としているため、主成分分析を採用しました。

    主成分分析によって都市構造を表す少数の指標を作成し、その指標を重回帰分析へ利用することで、安定した人流モデルを構築しています。

    前回は、GISを用いて11種類の説明変数を整備しました。

    GISだからできたこと

    今回使用した11変数はすべてGIS上で作成しています。

    • 建物人口
    • 就業人口
    • 歩行ネットワーク延長
    • 駅までの距離
    • 商業地域
    • 駐車場
    • ゲート
    • プロムナード

    これらは単なる統計データではなく、

    400m到達圏ごとに空間集計した都市構造データです。

    つまり、

    GISで都市構造を数値化し、

    統計でその構造を整理したことが

    今回の分析の特徴です。

    しかし、人口が多い場所には店舗や道路も集中するなど、多くの説明変数は互いに強い相関を持っています。

    このまま重回帰分析を行うと、多重共線性により係数が不安定になる可能性があります。

    そこで今回は、説明変数を少数の潜在因子へ整理するため、主成分分析(バリマックス回転)による主成分分析を実施しました。

    表1 主成分分析に用いた説明変数

    変数名(SPSS)日本語名称内容
    LOG_BUILD_POP建物人口(対数変換)到達圏内の推定建物人口を対数変換した値
    LOG_WORKER_POP就業人口(対数変換)到達圏内の就業人口を対数変換した値
    TARGET_COUNT目的地数到達圏内に存在する目的地(POI)の件数
    WALK_LEN歩行ネットワーク延長到達圏内の歩行可能道路延長(m)
    COMMERCIAL_DUMMY商業地域ダミー商業系用途地域を示すダミー変数
    PROMENADE_DUMMYプロムナードダミープロムナード(歩行者空間)の有無
    FACILITY_DUMMY主要施設ダミー公共施設・集客施設の有無
    GATE_DUMMYゲートダミーQURUWAエリアの入口・結節点を示すダミー変数
    LIVING_DUMMY居住地域ダミー住宅系地域を示すダミー変数
    MIN_Station_Length駅までの最短距離対象地点から最寄り鉄道駅までの最短歩行距離
    parking_point駐車場数到達圏内の駐車場ポイント数

    ※人口関連変数(建物人口、就業人口)は分布の歪みを緩和するため対数変換を行った。一方、歩行ネットワーク延長および最寄り駅までの歩行距離は、実際の都市構造やアクセシビリティを直接表す指標であることから、解釈性を優先して実測値を用いた。

    図1 分析フロー


    GISで11説明変数作成
            │
            ▼
        主成分分析
            │
            ▼
       4つの潜在因子
            │
            ▼
       重回帰分析

    2. 主成分分析の結果

    11項目の説明変数から4つの因子が抽出され、累積寄与率は96.5%となりました。

    表2:主成分分析結果

    項目結果
    説明変数数11
    抽出因子数4
    累積寄与率96.53%
    抽出法主成分分析
    回転法バリマックス回転

    図2:因子のスクリーンプロット

    これは11種類の説明変数が持つ情報のほとんどを4つの因子で説明できることを意味します。

    表3:回転後成分行列

    説明変数第1因子第2因子第3因子第4因子
    建物人口(LOG_BUILD_POP)0.7710.2340.5280.184
    就業人口(LOG_WORKER_POP)-0.441-0.696-0.455-0.312
    目的地数(TARGET_COUNT)0.794-0.5710.0150.016
    歩行ネットワーク延長(WALK_LEN)-0.2930.936-0.031-0.088
    商業地域(COMMERCIAL_DUMMY)0.450-0.2830.668-0.515
    プロムナード(PROMENADE_DUMMY)0.084-0.109-0.975-0.120
    主要施設(FACILITY_DUMMY)0.0290.9940.027-0.028
    ゲート(GATE_DUMMY)-0.975-0.0660.133-0.001
    居住地域(LIVING_DUMMY)0.146-0.0780.0970.976
    駅までの最短距離(MIN_Station_Length)0.854-0.0210.4280.258
    駐車場数(parking_point)-0.7540.5100.0470.078

    3. 回転後成分行列

    表4: 回転後成分行列(主要負荷量)

    因子主な変数
    FAC1建物人口・目的地数・駅距離
    FAC2道路延長・主要施設
    FAC3商業地区・遊歩道
    FAC4居住地区

    表5:各分析地点の因子得点

    No.カメラ地点FAC1FAC2FAC3FAC4
    1東康生通り10.076-0.3040.734-0.513
    2東康生通り20.500-0.4870.540-0.655
    3東康生通り30.506-0.4350.493-0.658
    4東康生通り40.633-0.2860.588-0.636
    5連尺通り10.541-0.1880.792-0.445
    6連尺通り20.552-0.1450.831-0.421
    7連尺通り30.450-0.2140.762-0.461
    8連尺通り40.443-0.2720.756-0.448
    9中央緑道10.411-0.136-1.530-0.077
    10中央緑道20.306-0.139-1.588-0.119
    11中央緑道3-0.060-0.251-1.849-0.319
    12中央緑道4-0.066-0.237-1.853-0.324
    13図書館10.1133.8590.103-0.107
    14桜城橋北-2.393-0.2990.3230.002
    15桜城橋南-2.789-0.0510.384-0.005
    16八幡通10.385-0.1970.2492.588
    17八幡通20.392-0.2190.2662.597

    :FAC1~FAC4は主成分分析(バリマックス回転)により算出した因子得点である。正の値ほど各因子の特徴を強く有し、負の値ほどその特徴が弱いことを示す。


    4. 4つの都市構造を命名

    そこで都市構造として解釈すると、

    第1因子

    都市集積性

    建物人口

    目的地

    駅への近接

    などが高く、

    都市活動が集積する中心市街地を表しています。

    図3:第1因子(都市集積性)の空間分布

    因子得点をGIS上に可視化したところ、第1因子は東康生通り周辺で最も高く、桜城橋南で最も低い値を示した。この分布は、建物人口や目的地数が中心市街地に集中する実際の都市構造と一致しており、第1因子を「都市集積性」と解釈した妥当性を支持する結果となりました。

    ※主成分分析は統計処理ですが、GIS上に可視化することで都市構造として妥当かどうかを空間的に検証できます。このように統計結果をGISで確認できることは、空間分析ならではの利点です。


    第2因子:都市アクセス性

    道路延長

    主要施設

    が強く、

    アクセス性や移動性を表しています。


    第3因子:商業・回遊性

    商業地区

    遊歩道

    がまとまり、

    歩いて楽しめる都市空間を示しています。


    第4因子:居住性

    住宅系土地利用が高く、

    生活空間としての性格を表しています。


    各因子のまとめ

    FAC1(都市集積性)

    • 最高:東康生通り4(0.633)
    • 最低:桜城橋南(-2.789)

    ※東康生通り周辺は建物人口、目的地数、駅アクセスが集積するQURUWAの中心市街地であります。一方、桜城橋南は河川を挟み都市機能の集積が比較的小さい地区であり、因子得点の空間分布は実際の都市構造とよく一致しました。

    FAC2(都市アクセス性・公共施設性)

    • 図書館1が突出(3.859

    図書館では

    ※公共施設ダミーが強く作用し、道路ネットワークも充実しているため、都市アクセス性を代表する地点となっています。

    FAC3(商業・回遊性)

    • 最高:連尺通り2(0.831)
    • 最低:中央緑道4(-1.853)

    中央緑道

    遊歩道

    歩いて楽しむ空間と想定できます。

    ※中央緑道では負の値、連尺通りでは正の値となったことから、単なる歩行空間ではなく、商業施設と遊歩道が一体となった回遊性を表す因子と解釈しました。

    FAC4(居住性)

    • 八幡通1・2が突出(2.588、2.597

    八幡通

    住宅

    生活空間と想定できます。

    ※八幡通1・2で突出したことから、住宅系土地利用を代表する因子と考えられます。

    図4:因子の模式図


    5. 平日の人流を説明できるか

    抽出した4因子を説明変数として、

    2025年10月および2026年6月の午前・昼・夜について重回帰分析を実施しました。


    表6:モデル要約

    時間帯調整済R²判定
    2025午前0.8380.784
    2025昼0.4890.318
    2025夜0.4530.271
    2026午前0.8720.830
    2026昼0.5560.408
    2026夜0.6290.506

    (モデル全体の有意確率も併記)


    図5:R²比較グラフ


    4つの都市構造因子だけを説明変数とした重回帰分析の結果。午前は高い説明力(R²=0.838、0.872)を示した一方、昼・夜は時間依存要因の影響により説明力が低下しました。

    5-2. 平日の人流モデル

    本研究では、多重共線性を解消するため11種類の都市構造指標を主成分分析により4つの因子(FAC1~FAC4)へ整理し、その因子得点を説明変数として重回帰分析を実施しました。したがって、以下の回帰式は個々の説明変数ではなく、「都市集積性」「都市アクセス性」「商業・回遊性」「居住性」という4つの都市構造が平日の人流へ与える影響を表しています。


    2026年 平日午前モデル

    平日午前人流
    
    =36.338
    
    −29.916×FAC1(都市集積性)
    
    − 6.644×FAC2(都市アクセス性)
    
    +12.929×FAC3(商業・回遊性)
    
    − 8.418×FAC4(居住性)

    調整済みR²=0.830

    モデル全体有意(p<0.001)


    2026年 平日昼モデル

    平日昼人流
    
    =36.488
    
    − 7.942×FAC1
    
    − 5.571×FAC2
    
    +12.520×FAC3
    
    −13.511×FAC4

    調整済みR²=0.408

    モデル全体有意(p=0.033)


    2026年 平日夜モデル

    平日夜人流
    
    =19.380
    
    − 8.677×FAC1
    
    − 3.285×FAC2
    
    + 5.296×FAC3
    
    − 3.279×FAC4

    調整済みR²=0.506

    モデル全体有意(p=0.012)


    この後に入れる説明

    この結果から、平日の人流は4つの都市構造因子だけでも一定程度説明できることが確認されました。特に午前は調整済みR²が0.830と高く、都市構造そのものが人流を強く規定していることが分かります。一方、昼・夜になると説明力は低下しており、飲食やイベント、曜日特性など、都市構造以外の要因が人流へ影響していることが示唆されました。

    6. 考察

    分析の結果、11種類の説明変数を4つの都市構造へ整理しても午前時間帯では都市構造のみで約84~87%の人流を説明できました。

    これは

    人流は偶然ではなく、

    都市構造によって

    大きく規定されていることを示しています。

    一方、

    昼・夜は

    イベントや飲食、天候や曜日特性など

    時間依存要因が加わるため、

    都市構造だけでは説明しきれないことも分かりました。

    つまり、

    都市構造は午前の人流を強く規定する一方、昼・夜になるほど人々の行動選択が多様化することが示唆されました。

    GISで都市構造を把握することは、

    人流予測の基礎となる一方、

    時間帯別には

    イベント情報など

    リアルタイムデータとの融合が重要になるということです。

    GISは単に地図を表示するツールではありません。都市構造を数値化し、統計で本質的な構造を抽出し、その結果を再び地図で検証する。この「GIS→統計→GIS」の循環こそが、データに基づく都市分析の大きな強みです。最後にこの章の全体の流れをイメージ図で示します。

    図6:Vol.2 全体の流れ


    7. 次回予告

    今回の分析では、平日の人流は11種類の説明変数を4つの都市構造へ整理し84~87%説明できることが分かりました。
     しかし、この規則性は休日にも当てはまるのでしょうか。それとも、人々は都市構造ではなく、別の魅力に引き寄せられるのでしょうか。次回は休日データを用いて、その違いを明らかにします。

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  • Vol.1 GISと統計で読み解く岡崎市QURUWAの人流構造

    ― オープンデータだけで人流はどこまで説明できるのか ―

    自治体GIS×生成AI 実践シリーズの1回目です。

    なぜ、この検証を始めたのか

    近年、人流データは都市計画や観光、防災、商業分析など、さまざまな分野で活用されています。しかし、多くの場合は「どこに人が多いのか」を可視化することに留まり、その人流がなぜ発生しているのかまで踏み込んで分析される事例は多くありません。

    今回の検証は、岡崎市が「データラボ」で公開している人流データと観測地点の位置情報を見たことから始まりました。

    公開されている人流データを眺めているうちに、一つの疑問が浮かびました。

    「この場所で観測される人流は、周辺のどのような都市構造によって説明できるのだろうか。」

    つまり、人流そのものを目的変数とし、人口や就業人口、道路ネットワーク、交差点密度、店舗集積、駐車場などの都市構造データを説明変数として統計的に検証すれば、「賑わい」を生み出している要因を客観的に明らかにできるのではないかと考えました。

    このような分析が実現できれば、

    • 都市整備や公共投資の優先順位を検討するためのEBPM(Evidence-Based Policy Making)
    • 商業施設やイベントの立地・集客戦略
    • 人流観測地点の適切な配置や見直し

    など、行政施策だけでなく民間のマーケティングにも活用できる可能性があります。


    QURUWAという実証フィールド

    本研究の対象としたのは、岡崎市中心市街地のQURUWA(クルワ)エリアです。

    QURUWAとは、名鉄東岡崎駅から岡崎城、乙川、中央緑道などを結ぶ約20ヘクタールの都市再生エリアの愛称であり、「歩いて楽しめるまちづくり」をコンセプトとして、公共空間の再編や民間投資を組み合わせながら回遊性の向上を目指しています。

    岡崎市では、このエリア内に複数の人流観測地点を設置し、歩行者数を継続的に計測しています。こうした高密度な観測データが公開されていることから、都市構造と人流との関係を検証するフィールドとして非常に適していると考えました。

    図1:対象エリア位置図(17地点)※東岡崎駅は除く

    「人流分析」と聞くと、多くの人はAIやビッグデータを思い浮かべるかもしれません。

    しかし、本当に人流を理解するために必要なのは、高価なデータではなく、自治体が既に保有しているオープンデータなのではないでしょうか。

    人口、道路、交差点、駐車場、店舗、公共空間。

    これらをGIS上で整理し、統計解析によって検証すれば、人の流れを説明できる可能性があります。

    本シリーズでは、岡崎市QURUWA地区を対象に、ArcGISとRを用いて行った検証を紹介します。

    第1回では、研究の出発点とデータ整備、そして分析モデルを構築するまでの過程を紹介します。

    最初の仮説

    人が集まる場所には、必ず何らかの理由があります。

    駅前だから人が多いのか、商業施設があるからなのか、それとも道路が多く交差し、歩きやすい都市構造だからなのか。私たちは日常生活の中で何気なく「人が集まる場所」を認識していますが、その理由を客観的なデータで説明する機会は意外に多くありません。

    そこで、まずは都市構造と人流の関係について、次のような素朴な仮説を立てました。

    • 人口が多い場所では、人流も多くなるのではないか。
    • 道路が発達している場所では、人流が集まりやすいのではないか。
    • 交差点が多い場所は、人の移動が集中するため人流も多くなるのではないか。
    • 商業施設や店舗が集積する場所では、人流が増加するのではないか。
    • 駐車場が多い場所では、自動車利用者の流入によって人流が増えるのではないか。

    これらはいずれも都市計画やマーケティングの現場では経験的に語られることが多い考え方です。しかし、その影響の大きさはどの程度なのか、あるいは本当に人流を説明できる要因なのかについては、実際に統計解析によって検証してみなければ分かりません。

    本研究では、人流データを目的変数、都市構造を表す各種オープンデータを説明変数として整理し、単回帰分析や重回帰分析、主成分分析などを用いて、それぞれの説明変数が人流にどのような影響を与えているのかを定量的に検証しました。

    さらに分析を進める中で、当初は有効だと考えていた説明変数が期待したほど寄与しないケースや、逆に交差点密度のように予想以上に説明力を持つ変数も見つかりました。また、平日と休日では人流を説明する要因が大きく異なることも明らかになっていきます。

    つまり、この研究は仮説を証明することが目的ではありません。

    「どの仮説が正しく、どの仮説が誤っていたのか」をデータに基づいて一つひとつ検証し、人流を生み出す都市構造を客観的に明らかにすることが、本研究の目的です。

    図2:研究全体フロー

    3.データ収集

    使用データ

    本研究では、人流に影響を与える都市構造を定量的に評価するため、国土交通省、総務省統計局、OpenStreetMap等が公開するオープンデータを組み合わせて利用しました。

    人流データを目的変数とし、人口、道路ネットワーク、交差点、駐車場、都市機能などを説明変数として整理しました。使用したデータの概要を表1のとおりです。
    表1:使用データ一覧

    項目データ出典
    人口2020年国勢調査 250m人口メッシュ・500m就業者メッシュe-Stat(政府統計の総合窓口)
    用途地域用途地域データ(都市計画基礎調査)国土数値情報
    建物3D都市モデル(CityGML)Project PLATEAU
    道路ネットワーク道路データOpenStreetMap
    交差点道路ネットワークから抽出したジャンクションOpenStreetMap
    駐車場OSMデータおよび生成AI(MCP)による補完抽出OpenStreetMap・MCP
    施設OSMデータおよび生成AI(MCP)による補完抽出OpenStreetMap・MCP
    QURUWAスポットQURUWA公式Webサイト掲載施設QURUWA ZONE
    人流データ歩行者通行量調査岡崎市オープンデータラボ

    人口データの整備

    人口については、政府統計の総合窓口(e-Stat)が公開する令和2年(2020年)国勢調査を利用しました。

    採用したデータは次の2種類です。

    • 250mメッシュ人口
    • 500mメッシュ就業者人口

    250mメッシュ人口は居住人口の空間分布を表し、500m就業者メッシュは昼間人口や就業集積を表す指標として利用しました。

    しかし、メッシュ単位では建物との対応が困難であるため、Project PLATEAUの建物モデルと用途地域を組み合わせ、建物単位へ人口を配分する人口モデルを独自に構築しました。

    人口配分では、

    1. 250m人口メッシュ
    2. 用途地域
    3. PLATEAU建物モデル

    を組み合わせ、住宅系用途地域では人口密度を高く、工業系用途地域では低く評価する用途地域係数を用いて人口を配分しました。

    さらに建物規模(延床面積)を考慮した配分モデルを適用し、建物単位人口を推定しました。

    人口データは、この建物人口モデルから400m到達圏内人口を集計した値を説明変数として利用しています。

    建物人口モデルの詳細な作成手順については、前の記事を参照願います。

    道路ネットワーク

    道路ネットワークはOpenStreetMapから取得しました。

    抽出した道路データをArcGIS Proでネットワークデータセット化し、岡崎市オープンデータラボにある人流カメラポイント(緯度経度付)より400m徒歩到達圏を作成しました。

    各到達圏内について

    • 総道路延長
    • ジャンクション数

    を算出し、都市構造を表す説明変数としました。

    3.4 駐車場データ

    駐車場についてはOpenStreetMapに登録されている駐車場データを利用しました。

    一方、OpenStreetMapには未登録施設も存在するため、本研究では生成AIとMCPを用いて追加候補を探索し、人手による確認を経て駐車場データを補完しています。

    最終的には400m徒歩到達圏内に存在する駐車場数を説明変数として利用しました。

    3.5 QURUWAスポット

    都市機能を表す説明変数として、QURUWA公式サイト(QURUWA ZONE)に掲載されている施設情報を収集しました。

    収集したスポットは

    • 飲食
    • 買い物
    • 憩い
    • 学び
    • 街歩き
    • QURUWA拠点

    の6分類に整理し、400m徒歩到達圏ごとの施設数を集計しました。


    3.6目的変数(人流データ)の取得と前処理

    (1)AIカメラ人流データの取得

    今回は、岡崎市QURUWA地区に設置されたAIカメラによる人流データを目的変数として利用しました。

    「オープンデータラボ」から取得した。各カメラについて1か月単位で公開されているCSV形式のデータを対象とし、解析対象期間となる直近1年間分(12か月)のデータをダウンロードしました。

    取得した各月のCSVデータは、カメラIDおよび観測日時をキーとして統合し、年間の人流データベースを作成しました。


    (2)解析対象データの抽出

    年間データには曜日や時間帯による変動が含まれるため、本研究では解析目的に応じて2025年5月、2026年6月の各1か月を次の条件でデータ抽出しました。

    • 平日
    • Morning:07:00~09:59(通勤・通学)
    • Day:10:00~15:59(日中活動)
    • Night:16:00~19:00(夜間活動)
    • 休日
    • Morning:09:00~10:59(休日は朝の立ち上がりが遅い)
    • Day:11:00~17:59(買物・観光・滞在)
    • Night:18:00~21:00(夕方~夜間)

    さらに、各カメラについて時間帯ごとの平均人流を算出し、代表値として利用しました。


    (3)目的変数の検討

    目的変数は一度に決定したものではなく、AIカメラデータの特性を踏まえて段階的に検討しました。

    第1段階

    休日・平日ともに

    7時~19時平均人流

    を目的変数として回帰分析を実施しました。

    しかし、休日モデルでは十分な説明力が得られず、人流を単一の平均値で表現することには限界があることが分かりました。


    第2段階

    平均時間帯を見直し、

    • 平日:7時~19時
    • 休日:9時~21時

    と設定して再解析を行いました。

    平日は一定の改善がみられたものの、休日モデルでは依然として説明力が十分ではありませんでした。


    第3段階

    AIカメラデータを詳細に確認するため、全カメラについて時間帯別のIN人数とOUT人数の推移を比較した。

    その結果、

    • カメラ設置方向の影響
    • 一方向流動の強い地点
    • 時間帯によりIN・OUTの関係が変化する地点

    が存在することが明らかとなりました。

    この知見を踏まえ、

    人流を単なる平均人数ではなく、

    • IN+OUT(賑わい)
    • IN−OUT(滞留)

    という流動特性を表す指標へ再定義しました。

    また、人流の時間特性を考慮し、

    • 夕方

    の時間帯別モデルについての検証に行きつきました。


    (4)最終的な目的変数

    以上の検討の結果、本研究では解析目的に応じて最も説明力が高かったモデルを採用しました。

    平日、休日モデルとも賑わい指標(IN+OUT)が比較的高い説明力を示し、最終モデルを決定しました。

    GISで説明変数を作る

    人流を説明するためには、「その場所の周囲にどのような施設があるか」を数値化する必要があります。

    しかし、単純に施設数を数えるだけでは、人が実際に歩いて利用できる範囲を表現できません。

    そこで本検証では、ArcGIS Network Analystを用いて道路ネットワーク上の400m到達圏を作成しました。

    400mは徒歩約5分程度の距離であり、各カメラ地点から実際に歩いて到達できる範囲を表しています。

    その到達圏内に存在する施設数を説明変数として集計しました。

    図3:各カメラからの400m到達圏とQURUWAスポットとOSM施設


    QURUWAスポットとOSM施設の比較

    施設データには2種類を用いました。

    • OpenStreetMap(OSM)の施設データ
    • 岡崎市QURUWA公式サイトから整理したQURUWAスポット

    OSMは網羅性に優れていますが、行政施設や金融機関など、回遊性との関係が弱い施設も数多く含まれています。

    一方、QURUWAスポットは

    • 飲食
    • 買い物
    • 街歩き
    • 学び
    • 憩い

    など、実際に回遊を促す施設を中心に整理されています。

    そのため、400m到達圏で集計すると、QURUWAスポットはQURUWA戦略で設定された主要回遊動線と非常に良く一致する結果となりました。図4を参照下さい。

    つまり、

    「人が歩きたくなる場所」

    を説明する変数としては、QURUWAスポットの方が適していることがGIS上でも確認できました。


    ArcGIS Network Analystによる説明変数生成

    分析の流れは非常にシンプルです。

    施設データ
          │
          ▼
    ArcGIS Network Analyst
          │
    400m到達圏を作成
          │
          ▼
    到達圏内の施設数を集計
          │
          ▼
    各カメラ地点の説明変数

    これにより、

    • 飲食店数
    • 買い物施設数
    • 街歩き施設数
    • 学び施設数
    • 憩い施設数

    などを、人流分析に利用できる説明変数として作成しました。


    図4:400m到達圏でクルワスポットとOSM施設を集計

    最初の壁 ― 説明変数を作れば終わりではなかった

    ArcGIS Network Analystを用いて400m到達圏を作成し、人口、道路、交差点、店舗数、QURUWAスポットなど、多くの説明変数を作成しました。

    これで人流分析の準備は整ったように思えました。

    しかし、実際にデータを確認すると、別の問題が見えてきました。

    多くの変数が同じような情報を持っていた

    例えば、

    • 人口が多い場所は道路も多い
    • 道路が多い場所は交差点も多い
    • 交差点が多い場所は店舗も集まりやすい

    という都市構造そのものの特徴により、多くの説明変数が強く相関していました。

    具体的には、

    • 道路延長
    • 交差点数
    • 人口
    • 建物数
    • 店舗数

    などは、それぞれ独立した指標ではなく、互いに似た情報を表していたのです。

    この状態で説明変数をすべて回帰分析へ投入すると、多重共線性と呼ばれる問題が発生します。


    「変数を増やせば精度が上がる」とは限らない

    分析を始める前は、

    説明変数をたくさん作れば、人流をより正確に説明できるのではないか

    と考えがちです。

    しかし実際には、

    似た変数を大量に投入すると、

    • 係数が不安定になる
    • 本当に効いている要因が分からなくなる
    • 解釈が難しくなる

    という問題が生じます。

    つまり、

    「説明変数は多いほど良い」

    のではなく、

    「情報が重複しない変数を使うこと」

    が重要になります。図5は17種の説明変数を総当たりで相関係数を比較し、相関が高い、低いものは色濃淡を付け、目立つように表示するヒートマップ図です。

    図5:相関行列ヒートマップ

    GISだけでは解決できない

    GISは、

    • 人口を集計する
    • 道路延長を計算する
    • 店舗数を集計する
    • 400m到達圏を作る

    ことは得意です。

    一方で、

    「どの変数が本質的に同じ情報を表しているのか」

    「似た変数をどう整理すればよいのか」

    までは判断してくれません。

    ここで初めて、

    GISによる空間分析だけではなく、

    統計解析によって説明変数を整理する必要性

    が見えてきました。

    次回予告

    そこでどうしたか、互いに強く相関する多数の説明変数を、そのまま利用するのではなく、

    共通する特徴を少数の潜在因子へ要約する「主成分分析」

    を実施しました。

    これにより、

    数十種類の説明変数を、

    「都市のにぎわい」「歩きやすさ」「居住性」といった解釈可能な指標へ整理し、人流との関係を分析できるようになりました。

    統計解析によって

    似た説明変数を整理し、

    本当に人流を説明している要因を見つけます。

    さらに、

    平日と休日で

    まったく異なる都市構造が見えてきます。

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  • PLATEAUを「人口を持つ都市」へ

    ― 公開データから岡崎市約21万棟の建物人口モデルを構築―

    本記事は、生成AIとGISを活用した自治体業務の実証シリーズの第14回です。

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    ▶第5回:e-Stat APIとGISを結合するときの落とし穴
    ▶第6回:PLATEAU MCPは自治体GISを変えるのか
    ▶第7回:健康遊具はどこに整備すべきか?生成AIとGISで検証
    ▶第8回:AIの回答は信用できるのか(検証と説明責任)
    ▶第9回:自治体GISにおける人口統計データの構造要件を生成AIで検証する
    ▶第10回:PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か
    ▶第11回:PLATEAU建物人口から見る浸水リスク
    ▶第12回:建物単位人口で見る避難所シミュレーション
    ▶第13回:PLATEAUの建物に人口を配置する

    前回は、PLATEAUの建物データに人口を配置する試みの中で、単純な「町丁目人口→建物配分」では、都市構造を十分に表現できないことを紹介しました。

    建物が大きいからといって、そこに多くの人が住んでいるとは限りません。

    大規模な工場、物流施設、商業施設、学校、病院。

    都市には、巨大であっても居住人口をほとんど持たない建物が数多く存在します。

    一方で、大規模マンションのように、建物規模そのものが人口収容力を強く表すケースもあります。

    つまり、

    大きな建物への人口集中を抑えればよい

    わけでも、

    建物容量に比例して人口を配ればよい

    わけでもありません。

    この問題に向き合うため、岡崎市を対象として、250mメッシュ人口、用途地域、PLATEAU建物を組み合わせた建物単位人口モデルの構築を進めました。

    そして今回、用途地域内だけでなく用途地域外まで含め、最終的に、

    岡崎市全域213,884棟

    を対象とする建物単位人口モデルが完成しました。

    この記事では、完成した結果だけではなく、

    • なぜ町丁目人口では問題が起きたのか
    • なぜ250mメッシュ人口へ切り替えたのか
    • 用途地域人口密度ウェイトをどのように作ったのか
    • なぜPLATEAU建物を人口分布の基準にしなかったのか
    • なぜLOG方式と容量比例方式を組み合わせたのか
    • 用途地域外人口をなぜ捨てなかったのか
    • 最終的に人口保存をどこまで確認できたのか

    という、モデル設計の過程を紹介します。


    1.最初の発想は「町丁目人口を建物へ配る」だった

    建物単位人口を作ろうとすると、最初に思いつくのは比較的単純です。

    町丁目人口

    町丁目内の建物を抽出

    建物面積・高さ・延床規模を推定

    建物容量に応じて人口配分

    一見すると合理的です。

    町丁目人口という公的統計があり、PLATEAUには建物形状があります。

    両者を組み合わせれば、町丁目人口を建物単位へ細分化できるように見えます。

    実際、初期モデルではこの考え方を採用しました。

    しかし、実際の都市空間に適用すると、問題が見えてきました。

    2.大規模建物が町丁目人口を吸収する

    象徴的だったのが、工業地域に立地する大規模商業施設です。

    町丁目人口を建物容量で直接配分すると、巨大な建物は非常に大きな配分力を持ちます。

    その結果、

    大規模商業施設が、その町丁目の人口を大量に吸収する

    という現象が起きました。

    モデル上は計算が合っています。

    しかし、都市の実態とは合いません。

    問題はPLATEAUではありません。

    建物面積や高さの計算ミスでもありません。

    本質的な問題は、

    人口原資の空間単位が広すぎた

    ことでした。

    町丁目全体の人口を原資にしてしまうと、町丁目内に巨大建物が一つ存在するだけで、その建物が広い範囲の人口を吸収できます。

    ここでモデルの考え方を変更しました。

    3.人口原資を250mメッシュへ戻す

    そこで採用したのが、250mメッシュ人口です。

    基本構造は次のとおりです。

    250m人口メッシュ

    用途地域とIntersect

    メッシュ内部を用途地域別の小片へ分割

    用途地域人口密度ウェイト

    メッシュ人口を再配分

    重要なのは、

    人口を町丁目全体から持ってこない

    ことです。

    250mメッシュに100人いるなら、その100人は原則としてそのメッシュ内部で扱います。

    隣のメッシュに巨大建物があっても、その建物へ人口を移しません。

    これにより、大規模建物が広域人口を吸収する構造を防ぐことができます。

    下図の右マップは、工業専用地域にある三菱自動車工業岡崎製作所を示しています。用途地域内で最大容積を持つ建物です。

    図1 都市計画区域内で最大容積の建物にあるメッシュ人口

    その建物にインターセクトするメッシュ内の人口は、ほぼ0人なので建物の容積が大きかろうが、0人しか配置されません。

    4.用途地域人口密度は「その場」で決めない

    ここで、もう一つ重要な判断を行いました。

    一つの250mメッシュが複数の用途地域にまたがる場合、単純な面積按分では不十分です。

    例えば、同じ面積でも、

    • 第一種住居地域
    • 商業地域
    • 工業地域
    • 工業専用地域

    では、一般に人口密度特性が異なります。

    そこで、まず岡崎市全体を使って、用途地域別人口密度を算出しました。

    図2 岡崎市全体で用途地域別人口密度ウェイトを作成する流れ

    図2の左側は、岡崎市全体の250mメッシュ人口分布と、そこから算出した用途地域別人口密度パラメータです。

    今回のモデルでは、まず岡崎市全体を対象として用途地域別人口密度を算出しました。

    例えば、実際に使用した人口密度は、

    • 第一種低層住居専用地域:約5,349人/km²
    • 第一種中高層住居専用地域:約6,503人/km²
    • 第二種中高層住居専用地域:約7,082人/km²
    • 第一種住居地域:約5,838人/km²
    • 第二種住居地域:約3,788人/km²
    • 近隣商業地域:約6,067人/km²
    • 商業地域:約5,668人/km²
    • 準工業地域:約5,225人/km²
    • 工業地域:約4,107人/km²
    • 工業専用地域:約219人/km²
    • 用途地域外:約221人/km²

    です。

    ここで重要なのは、この人口密度を使って新しい人口を作るわけではないという点です。

    また、

    「この250mメッシュには何人いるか」

    を決めるものでもありません。

    250mメッシュ人口そのものは、元データの値を保持します。

    さらに、

    「この建物には何人住んでいるか」

    を直接決めるものでもありません。

    5.用途地域別人口密度の役割

    用途地域別人口密度の役割は、

    同じ250mメッシュの内部に複数の用途地域が存在するとき、元のメッシュ人口をどの親片へ相対的に多く配るか

    を決めることです。

    図2の右側は、その具体的な適用例です。

    例えば、一つの250mメッシュが、

    • 第一種住居地域
    • 第二種住居地域
    • 近隣商業地域

    の3つの親片に分かれている場合、それぞれの親片に対して、岡崎市全体であらかじめ算出した用途地域別人口密度を割り当てます。

    このとき、その250mメッシュごとに新しい人口密度係数を作るわけではありません。

    使用するのは、岡崎市全体で一度だけ算出した共通の人口密度パラメータです。

    次に、各親片について、

    親片面積 × 用途地域別人口密度

    を計算します。

    これにより、各親片の「人口の配分力」に相当する値を求めます。

    例えば図2の右図の例では、

    • 第一種住居地域:約105.88
    • 第二種住居地域:約90.83
    • 近隣商業地域:約128.46

    となります。

    ただし、この値も人口そのものではありません。

    あくまで、同じ250mメッシュ内部で人口をどう分けるかを決めるための相対値です。

    そこで次に、これらの値をメッシュ内で合計し、各親片の構成比を求めます。

    図2の右図の例では、

    • 第一種住居地域:約31.49%
    • 第二種住居地域:約27.02%
    • 近隣商業地域:約38.21%

    となります。

    これがメッシュ内での正規化です。

    そして最後に、元の250mメッシュ人口を、この構成比に応じて各親片へ再配分します。

    つまり今回の処理は、

    岡崎市全体で用途地域別人口密度を一度だけ算出

    各250mメッシュ内の用途地域小片へ、その密度を割り当て

    親片面積 × 用途地域別人口密度

    同じメッシュ内で正規化

    元の250mメッシュ人口を親片へ再配分

    という流れです。

    この設計のポイントは、

    市全体では共通した用途地域別人口密度を使いながら、人口そのものは250mメッシュ内部に保持する

    ことです。

    例えば、商業地域の人口密度が高いからといって、市内の別の250mメッシュから人口が移動してくるわけではありません。

    逆に、工業系用途地域に巨大な建物が存在していても、その場所の250mメッシュ人口が少なければ、上流で保持された局所人口を超えて人口が流入することはありません。

    この「全市共通の人口密度パラメータ」と「250mメッシュ内部での正規化」を分けたことが、今回の人口再配分モデルの重要な特徴です。

    図2で示した処理を、実際の250mメッシュに適用した例が次の図3です。

    図3 全市用途地域別人口密度を用いた250mメッシュ人口480人の親片再配分と建物人口配置の実データ例

    このメッシュには480人が存在し、内部は5種類の用途地域に分かれています。そこで、岡崎市全体であらかじめ算出した用途地域別人口密度を各小片へ割り当て、**「小片面積 × 用途地域別人口密度」**による相対値を求めたうえで、メッシュ内で正規化しました。

    その結果、元の480人はメッシュ外へ移動することなく、5つの親片へ再配分されます。

    さらに下段では、確定した親片人口をPLATEAU建物へ配置した結果を示しています。

    ここで重要なのは、用途地域別人口密度が建物人口を直接決めているわけではないという点です。全市共通の人口密度は、あくまで250mメッシュ内部で親片人口を決めるために使い、その後、確定した親片人口を親片内の建物へ配分します。

    具体的に式を用いて示します。

    ある250mメッシュ mmm の内部に、用途地域との重ね合わせによって生じた小片 iii があるとします。小片 iii の面積を AmiA_{mi}Ami​、その小片が属する用途地域区分を y(i)y(i)y(i)、用途地域区分 y(i)y(i)y(i) の全市人口密度を Dy(i)D_{y(i)}Dy(i)​ とします。

    まず、各小片の人口配分に用いる基礎値を、Rmi=Ami×Dy(i)R_{mi}=A_{mi}\times D_{y(i)}Rmi​=Ami​×Dy(i)​

    として求めます。

    ここで、RmiR_{mi}Rmi​ は250mメッシュ mmm 内の小片 iii に対する人口配分の基礎値です。つまり、面積が大きく、かつ全市的に人口密度の高い用途地域に属する小片ほど、大きな値を持ちます。

    次に、この基礎値を250mメッシュ mmm の内部だけで正規化し、小片 iii の配分比率 WmiW_{mi}Wmi​ を、Wmi=RmijmRmjW_{mi} = \frac{R_{mi}} {\sum_{j\in m}R_{mj}}Wmi​=∑j∈m​Rmj​Rmi​​

    として求めます。

    ここで、分母は同じ250mメッシュ mmm 内に存在するすべての小片 jjj の基礎値の合計です。そのため、imWmi=1\sum_{i\in m}W_{mi}=1i∈m∑​Wmi​=1

    となり、元のメッシュ人口がメッシュ外へ流出することはありません。

    最後に、元の250mメッシュ mmm の人口を PmP_mPm​ とすると、小片 iii へ配分される人口 PmiP_{mi}Pmi​ は、Pmi=Pm×WmiP_{mi}=P_m\times W_{mi}Pmi​=Pm​×Wmi​

    で求めます。

    この方法により、元の250mメッシュ人口総数を維持したまま、用途地域ごとの全市的な人口密度差を反映して、メッシュ内部の各用途地域小片へ人口を再配分できます。

    たとえば、同じ250mメッシュ内に住居系用途地域と工業系用途地域が混在している場合でも、単純な面積按分ではなく、用途地域ごとの人口密度差を反映できます。そのため、工業系用途地域に大規模な建物が存在する場合でも、上流段階の人口配分で人口が過大に割り当てられることを抑制できます。

    その後、こうして確定した各用途地域小片の人口を親片人口として固定し、PLATEAU建物は人口分布を新たに決める基準ではなく、確定済み親片人口を建物へ配分するための受け皿として使用します。


    6.PLATEAU建物は人口分布を決める基準ではない

    このモデルで最も重要な考え方の一つがここです。

    PLATEAU建物は、

    人口分布を決める基準ではありません。

    建物は、上流で確定した人口を受ける「器」です。

    処理順序は、

    250mメッシュ人口

    用途地域人口密度ウェイト

    親片人口を確定

    PLATEAU建物へ配分

    です。

    逆ではありません。

    巨大建物がある

    そこへ人口を集める

    とはしません。

    図4:250mメッシュ内に再配分された親片人口と建物


    実データで起きた誤配分――巨大商業施設が「人口1位」になった

    この問題は、理論上の懸念ではありません。

    実際の試行錯誤では、町丁目人口を基礎として建物容量に応じた再配置を行ったところ、工業系用途地域に存在する巨大商業施設が、建物人口で市内1位となる結果が発生しました。

    原因は明確でした。

    町丁目という比較的広い単位が持つ人口を建物へ配分すると、巨大な建物フットプリントを持つ施設が非常に大きな「受け皿」として評価されます。

    その結果、本来は商業施設である巨大建物が、周辺の町丁目人口を過剰に吸収しました。

    ここで重要なのは、PLATEAU建物形状が間違っていたわけではないという点です。

    建物は正しく大きい。

    問題は、

    「広い人口集計単位の人口を、大きな建物へ配った」

    という人口配分モデル側にありました。

    そこで新しいモデルでは、先に250mメッシュ人口を保持しました。

    この巨大商業施設が存在する場所では、対応する250mメッシュ人口そのものが極めて少ないことが確認できます。

    したがって、建物がどれほど巨大であっても、その建物へ配分できる人口は、上流で確定した局所人口を超えません。

    巨大建物だから人口が多いのではない。

    その場所に存在する人口が少なければ、巨大建物にも少数しか配られない。

    この違いが、町丁目人口ベース方式から250mメッシュ人口ベース方式へ切り替えた大きな理由の一つでした。

    図5 巨大商業施設で確認された人口誤配分と250mメッシュ方式による抑制

    人口の流れを「メッシュ → 親片 → 建物」に固定した

    今回のモデルでは、人口の流れを次のように固定しました。

    250m人口メッシュ

    用途地域人口密度ウェイト

    用途地域別親片人口

    親片内PLATEAU建物

    建物人口

    この構造により、建物は上流の人口を勝手に奪えません。

    例えば、ある親片人口が70人なら、その親片内の建物へ配る人口総数は70人です。

    巨大建物が存在しても、

    70人

    建物へ配分

    合計70人

    です。

    建物容量が大きいからといって、隣の親片や別の250mメッシュから人口を吸収させません。

    これは単なる計算上の制約ではありません。

    元の人口統計が持っていた局所的な空間情報を守るための制約

    です。


    7.建物容量をどう作るか

    親片人口が確定した後、次に必要なのが建物ごとの人口配分比率です。

    本モデルでは、建物容量の基礎値 CAPACITY_BASE を次の既存規則で算定しました。

    SUM_FLOOR_AREA がある

    CAPACITY_BASE = SUM_FLOOR_AREA

    SUM_FLOOR_AREA がない

    CAPACITY_BASE = SUM_BUILD_AREA

    つまり、延床規模を取得できる建物では延床規模を使い、取得できない場合は建物面積へフォールバックします。

    図6 建物容量算定イメージ

    ここで使用する主な属性は、

    • SUM_BUILD_AREA
    • SUM_FLOOR_AREA
    • HEIGHT_FINAL
    • FIRST_FLOOR_EST
    • CAPACITY_BASE

    です。

    最終成果では、これらの属性も建物人口とともに保持しました。


    8.単純容量比例でも、単純LOGでもない

    建物人口配分では、和泉市での検証経験が重要な役割を果たしました。

    単純な容量比例方式では、大きな建物が強い配分力を持ちます。

    これは大規模マンションでは合理的です。

    しかし、小規模建物が多数存在する地域では、小さな建物への人口配分が極端に小さくなることがあります。

    一方、すべての建物へLOG変換を適用すると、今度は大規模マンションの人口収容力まで薄めてしまいます。

    そこで採用したのが、グループ内中央値を基準とするハイブリッド方式です。

    図7 容量比例方式とLOG方式の違い


    この方式の目的は、巨大建物を一律に弱めることではありません。

    正確には、

    小規模建物側ではLOG変換によって容量差を圧縮し、小規模住宅にも人口が残るようにする。

    一方で、

    中央値を超える大規模建物では生容量を使い、大規模マンション等が本来持つ人口収容力を維持する。

    という考え方です。

    つまり、

    小さい建物を潰さない。

    しかし、本当に人口を受けるべき大きな建物も薄めない。

    この両立を狙っています

    9.用途地域内165,506棟への人口配置

    用途地域内では、用途地域人口密度ウェイトによって再配分した親片人口を、PLATEAU建物へ配分しました。

    最終的に、

    165,506棟

    の用途地域内建物へ人口・世帯・年齢構成を配置しました。

    この段階で、

    • 用途地域外混入0
    • 建物人口保存
    • 世帯保存
    • 年齢列保存

    を確認しました。

    用途地域内で建物へ配置できなかった人口は、

    960.964324人

    です。

    この人口は近隣建物へ吸収していません。

    未配置差分として保持しました。


    10.用途地域外を「捨てない」

    当初、用途地域外は未配置差分として保持する考え方もありました。

    しかし、実際の建物分布を確認すると、用途地域外にもPLATEAU建物が広く存在していました。

    ここで重要な判断をしました。

    用途地域外も同じ分析体系の中で保持し続ける。

    なぜなら、防災や公共交通は用途地域境界で終わらないからです。

    例えば、

    • 河川沿いの集落
    • 市街化調整区域の住宅
    • 山間部の居住地
    • 幹線道路沿いの建物
    • 郊外施設周辺
    • 災害リスク区域

    は、用途地域外にも存在します。

    用途地域内だけで人口モデルを完成させると、市域全体を俯瞰する政策分析で大きな空白が生まれます。

    11.既存途中成果を追跡すると、48,547棟の行方が分かった

    用途地域処理で未割当となった建物は、

    48,547棟

    でした。

    ここで新しい空間処理を作るのではなく、既存の途中成果を調査しました。

    その結果、処理系列が明確になりました。

    用途地域処理未割当
    48,547棟

    250mメッシュ確定割当
    48,378棟

    未割当
    169棟

    そして、

    48,547 − 48,378 = 169

    が完全一致しました。

    さらに、元未割当集合と確定割当集合の差集合は、169棟の未割当成果と完全一致しました。

    これは単なる件数一致ではありません。

    bldg_id による集合関係で確認したものです。


    12.用途地域外48,378棟を250mメッシュへ接続

    48,378棟は、

    1,518の250mメッシュ

    へ確定割当されていました。

    一方、人口側のOUTSIDE成果は、

    5,552メッシュ

    でした。

    その関係は次の図のとおりです。


    図8 用途地域以外の人口配分プロセス

    建物あり1,518メッシュの人口は、

    42,040.023341人

    世帯は、

    13,944.509996世帯

    13.建物がなければ、人口を動かさない

    一方、OUTSIDE人口は存在するものの、建物が存在しないメッシュが、

    4,034メッシュ

    ありました。

    その人口は、

    6,627.173125人

    世帯は、

    2,163.270384世帯

    です。

    ここで、近隣建物へ人口を吸収させることはしませんでした。

    人口あり

    建物なし

    近隣建物へ移送しない

    未配置差分として保持

    また、250mメッシュへ割り当てられなかった169棟についても、強制的に近隣メッシュへ所属させていません。

    169棟への人口配分は0

    です。

    この設計によって、

    メッシュ間人口移送0

    を維持しました。


    14.用途地域外STEP7もPASS

    用途地域外48,378棟について、用途地域内で確定したハイブリッド方式を適用しました。

    用途地域外では、配分グループを MESH_KEY としました。

    MESH_KEY

    グループ内CAPACITY_BASE中央値

    中央値以下:LOG
    中央値超過:CAPACITY

    LOCAL_WEIGHT_RATIO

    人口・世帯・年齢60列

    結果は、

    • 建物数:48,378
    • MESH_KEY数:1,518
    • bldg_id 重複:0
    • 人口:42,040.023341人
    • 世帯:13,944.509996世帯
    • 年齢列:60列
    • 比率合計最大差:8.88e-16
    • 年齢保存誤差最大:5.68e-14
    • メッシュ間人口移送:0

    となり、

    PASS

    しました。

    15.用途地域内と用途地域外を統合する

    次に、

    • 用途地域内の建物人口
    • 用途地域外の建物人口

    を統合しました。

    結果は、

    用途地域内
    165,506棟

    用途地域外
    48,378棟

    市域全体
    213,884棟

    です。

    最終成果は、

    okazaki_final_citywide_building_population

    です。

    Polygon形式で、座標系は、

    JGD_2011_Japan_Zone_8

    です。


    16.市域全体で人口保存を確認する

    統合後の建物配置人口は、

    375,671.053083人

    でした。

    建物へ配置されなかった人口は、

    • 用途地域内:960.964324人
    • 用途地域外:6,627.173125人

    合計、

    7,588.137449人

    です。

    したがって、

    建物配置人口
    375,671.053083

    未配置人口
    7,588.137449

    市域人口原資
    383,259.190531

    となりました。

    市域人口保存誤差は、

    -2.85e-09

    です。

    実質的に完全保存です。

    世帯についても、

    市域世帯原資 156,001.218135

    に対し、保存誤差は、

    -8.15e-10

    でした。

    年齢列は、

    60列すべてPASS

    しました。


    17.最終成果は「人口だけのデータ」にしない

    ここでもう一つ重要な改善を行いました。

    当初の最終統合成果は、

    • 人口
    • 世帯
    • 年齢60列

    が中心でした。

    しかし、それでは今後の分析に不十分です。

    例えば、

    工業専用地域の建物は何棟あるのか

    用途地域別の建物人口はどう違うのか

    容量最大の建物はどこか

    LOG方式とCAPACITY方式はどの建物で使われたのか

    その人口はどの250mメッシュから来たのか

    を追跡できません。

    そこで、最終成果へ分析属性を復元しました。

    主な属性は、

    建物規模

    • SUM_BUILD_AREA
    • SUM_FLOOR_AREA
    • HEIGHT_FINAL
    • FIRST_FLOOR_EST
    • CAPACITY_BASE

    用途地域

    • YOTO_CODE
    • YOTO_NAME
    • PART_TYPE

    メッシュ

    • MESH_KEY

    配分グループ

    • ALLOCATION_GROUP_TYPE
    • ALLOCATION_GROUP_KEY

    配分ロジック

    • GROUP_MEDIAN_CAPACITY
    • WEIGHT_METHOD
    • RAW_BLDG_WEIGHT
    • GROUP_RAW_WEIGHT_SUM
    • LOCAL_WEIGHT_RATIO

    市域統一区分

    • MODEL_ZONE_TYPE

    です。

    人口・世帯・年齢60列は変更していません。

    更新前後差は、

    0

    でした。

    18.用途地域別集計が可能になった

    最終成果では、実際に用途地域別集計が可能です。

    例えば、

    第一種住居地域

    • 60,239棟
    • 人口 125,219.80人

    第一種中高層住居専用地域

    • 28,342棟
    • 人口 57,876.21人

    準工業地域

    • 26,556棟
    • 人口 51,519.98人

    工業地域

    • 15,036棟
    • 人口 29,458.35人

    工業専用地域

    • 1,489棟
    • 人口 258.77人

    用途地域外

    • 48,378棟
    • 人口 42,040.02人

    です。

    ここで工業専用地域を見ると、非常に興味深い結果があります。

    建物容量合計は、

    約560.8万

    と非常に大きい。

    最大建物容量は、

    約60.2万

    です。

    しかし、配置人口は、

    258.77人

    に抑えられています。

    これは、本モデルの設計思想をよく表しています。

    巨大建物があるから人口を集めるのではない。

    上流の250mメッシュ人口と用途地域人口密度特性によって人口原資を制約し、その後で建物容量を使う。

    だから、巨大な工場建物が存在しても、市域の人口を大量に吸収しません。

    19.bldg_id が持つ意味

    ここからは、今回作成した建物単位人口モデルを自治体業務でどう活用できるかを考えます。

    最終成果213,884棟では、bldg_id を建物単位の安定キーとして保持しています。

    これは単なる技術的IDではありません。

    将来的には、部門間連携の基盤になり得ます。

    例えば、

    • 福祉部門が持つ要援護者情報
    • 防災部門が持つ避難情報
    • 都市計画部門が持つ浸水リスク
    • 建築部門が持つ建物情報
    • 公共交通部門が持つ交通アクセス情報

    を、個人情報そのものを直接共有せず、

    建物単位

    で安全に突合できる可能性があります。

    例えば、

    福祉部門
    要援護者が存在する建物

    bldg_id

    都市計画・防災部門
    浸水深、土砂災害、避難距離

    という連携です。

    自治体内部では、データが部門ごとに分断されがちです。

    bldg_id は、その縦割りを越える共通キーになり得ます。


    20.用途地域外を保持した意味

    用途地域外を同じ分析体系で保持したことは、防災や公共交通計画で特に重要です。

    例えば防災では、

    浸水想定区域に、どの年齢層が何人いるか

    を建物単位で推定できます。

    しかし、用途地域内だけを対象にすると、市街化調整区域や郊外集落が分析から消えます。

    公共交通でも同じです。

    例えば、

    バス停から500m以上離れた建物に、高齢人口がどれだけ存在するか

    を分析する場合、用途地域境界で人口モデルが途切れていては、市域全体の交通空白を評価できません。

    用途地域外48,378棟を保持したことで、

    • 防災
    • 公共交通
    • 福祉
    • 医療アクセス
    • 買物弱者
    • 避難支援
    • インフラ維持

    を市域全体で分析できる基盤になりました。


    21.「配置できなかった人口」も成果である

    今回のモデルでは、すべての人口を無理に建物へ押し込んでいません。

    未配置人口は、

    7,588.137449人

    です。

    一見すると、これはモデルの欠点に見えるかもしれません。

    しかし、むしろ重要な品質情報です。

    建物が存在しない場所の人口を、近隣の建物へ勝手に移すと、見かけ上は100%配置できます。

    しかし、その瞬間に空間的な歪みが生まれます。

    本モデルでは、

    分からないものを、分かったことにしない

    という設計を選びました。

    未配置人口は、

    • PLATEAU未整備
    • 建物代表点の問題
    • 統計メッシュとの時間差
    • 建物データとの時点差
    • 非住宅施設
    • 特殊な居住形態

    などを検証するための重要な差分です。


    22.完成したのは「人口マップ」ではない

    今回完成したものは、単なる人口分布図ではありません。

    最終成果213,884棟では、

    • 建物形状
    • bldg_id
    • 用途地域
    • 250mメッシュ
    • 建物面積
    • 延床規模
    • 高さ
    • 階数
    • 建物容量
    • 配分グループ
    • グループ中央値
    • LOG/CAPACITY方式
    • 建物配分比率
    • 人口
    • 世帯
    • 年齢60列

    を追跡できます。

    つまり、

    なぜ、この建物に、この人口が配置されたのか

    を遡ることができます。

    これは、AIやGISによる高度分析で非常に重要です。

    結果だけを出すブラックボックスではなく、

    計算過程を検証できる人口モデル

    になったからです。


    23.AIエージェントとGISの役割

    今回の分析では、途中成果が多数存在しました。

    最終的にGDB(ジオデータベース)内には100を超える成果がありました。

    その中から、

    • 48,547棟の未割当建物
    • 48,378棟のメッシュ確定割当
    • 169棟の未割当残差
    • 213,884棟の確定割当テーブル
    • 5,552のOUTSIDEメッシュ
    • 1,518の建物ありメッシュ

    の関係を追跡しました。

    ここで有効だったのが、MCPを介したGISデータ調査です。

    ファイル名だけで推測するのではなく、

    • データ型
    • レコード数
    • フィールド
    • bldg_id
    • MESH_KEY
    • 集合差

    を実データで確認しました。

    特に、

    48,547
    =
    48,378
    +
    169

    という関係を、単なる件数ではなくbldg_id集合として確認できたことは大きな意味があります。

    AIエージェントは、新しい分析を毎回作るだけではありません。

    既存成果を探し、関係を検証し、再利用可能な処理資産としてつなぎ直す

    ことにも価値があります。


    24.今回の到達点

    最終結果をまとめます。

    市域全体建物

    213,884棟

    用途地域内

    165,506棟

    用途地域外

    48,378棟

    建物配置人口

    375,671.053083人

    市域人口原資

    383,259.190531人

    未配置人口

    7,588.137449人

    市域人口保存誤差

    -2.85e-09

    建物配置世帯

    153,468.641681世帯

    市域世帯原資

    156,001.218135世帯

    年齢

    60列すべてPASS

    bldg_id重複

    0

    メッシュ間人口移送

    0


    おわりに

    今回の検証で、最も重要だったのは、最初から正解のモデルを作れたことではありません。

    むしろ逆です。

    町丁目人口から建物へ直接配分し、大規模建物への人口集中という問題に直面しました。

    そこで250mメッシュ人口へ戻りました。

    さらに、単純面積按分ではなく、岡崎市全体から用途地域別人口密度特性を算出しました。

    建物配分では、和泉市での経験を踏まえ、単純容量比例でも単純LOGでもない中央値ハイブリッド方式を採用しました。

    用途地域外も捨てず、既存途中成果を追跡しました。

    そして最終的に、

    岡崎市全域213,884棟

    を対象とする建物単位人口モデルへ到達しました。

    PLATEAUの価値は、美しい3D都市モデルを表示することだけではありません。

    250mメッシュ人口、用途地域、建物容量、安定した建物IDを組み合わせることで、

    都市の中に、誰が、どの程度、どこに暮らしている可能性があるのか

    を、従来よりはるかに細かな単位で考えることができます。

    そして、その先には、

    • 防災
    • 福祉
    • 公共交通
    • 都市計画
    • 医療アクセス
    • インフラ維持

    を、建物単位で横断的に考える可能性があります。

    今回完成したのは、単なる人口マップではありません。

    自治体が持つ複数分野のデータを、建物という共通空間単位でつなぎ、『誰が、どの程度、どこに暮らしている可能性があるのか』を精緻に考えるためのガバナンス基盤です。

    次回は、この建物人口モデルを使い、

    「どの建物が災害リスクを抱えているのか」
    「高齢人口と避難所アクセスをどう重ねるのか」
    「公共交通空白と人口構成をどう評価するのか」

    といった、実際の自治体政策分析への展開を検証します。

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    ▶第11回:PLATEAU建物人口から見る浸水リスク
    ▶第12回:建物単位人口で見る避難所シミュレーション
    ▶第13回:PLATEAUの建物に人口を配置する

  • PLATEAUの建物に人口を配置する ―岡崎市の場合―

    「精密に見える誤差」を捨て、250mメッシュから都市構造を読み直すまで

    本記事は、生成AIとGISを活用した自治体業務の実証シリーズの第13回です。

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    ▶第11回:PLATEAU建物人口から見る浸水リスク
    ▶第12回:建物単位人口で見る避難所シミュレーション
    ▶第14回:PLATEAUを「人口を持つ都市」へ

    はじめに

    3D都市モデルであるPLATEAUの建物一棟一棟に、人口を配置できないか。

    この発想自体は、それほど珍しいものではありません。

    建物ごとに人口が分かれば、防災、福祉、公共交通、公園、子育て、施設配置など、自治体施策の分析単位を町丁目やメッシュから建物へ細分化できます。

    さらに建物には固有の bldg_id を持たせることができます。将来的には、人流カメラ、災害リスク、公共施設アクセス、空間ID、AIエージェントなどとの連携も考えられます。

    しかし、実際に取り組んでみると、問題は「建物へ人口を割り振る計算」ではありませんでした。

    本当に難しかったのは、

    建物へ配分する前に、人口が都市空間のどこに存在するのかを、どこまで妥当に表現できるか

    という問題でした。

    今回、岡崎市を対象に試行錯誤を重ね、最終的には用途地域内のPLATEAU建物165,506棟へ人口・世帯・年齢構成を配置しました。

    本記事では完成結果を2回に分けて紹介します。

    第1回では、その前段階で起きた失敗と設計変更を扱います。

    • 住民基本台帳人口を使おうとして、なぜ断念したのか
    • e-Stat小地域境界との対応で何が問題になったのか
    • なぜ250mメッシュ人口へ切り替えたのか
    • なぜ単純な面積按分では不十分だったのか
    • なぜ用途地域人口密度を使ったのか
    • なぜPLATEAU建物から人口分布を決めてはいけないと判断したのか

    今回の試行錯誤で得た最も大きな知見は、PLATEAUの使い方そのものに関わるものでした。


    1.最初の発想は「住基人口を建物へ配置する」だった

    当初、最も魅力的に見えたのは住民基本台帳データでした。

    自治体が保有する住基人口には、町丁目単位で、

    • 総人口
    • 世帯数
    • 5歳階級人口

    などの詳細なフレッシュな情報があります。

    これをe-Statの小地域境界へ反映し、さらに用途地域や建物容量を考慮してPLATEAU建物へ配分できれば、かなり精細な人口モデルができると考えました。

    概念的には次の流れです。

    住基町丁目人口

    e-Stat小地域境界

    用途地域

    PLATEAU建物

    一見すると合理的です。

    ところが、実データを確認すると大きな問題がありました。


    2.住基町丁目とe-Stat小地域境界は、単純には対応しない

    住基データとe-Stat小地域は、どちらも町丁目に見えます。

    しかし、実際には同じ空間単位とは限りません。

    確認を進めると、

    • 作成時期と作成元が異なるため同じ町名でも境界が異なる
    • 一つの住基町丁目が複数のエリアで分割されている
    • 分割規則が一意に復元できない
    • 名称だけでは対応できない
    • 親町名を使っても厳密な対応関係を保証できない

    といった問題が出てきました。

    もちろん、GIS上で面積按分することはできます。

    しかし、それは「計算できる」だけです。

    例えば、ある住基町丁目人口1,000人を、重なり面積に応じてe-Stat境界へ配分すれば、数値としてはきれいに保存できます。

    住基人口 1,000人

    面積比 60%
    面積比 40%

    600人
    400人

    人口合計も一致します。

    GIS処理も成功します。

    しかし、実際の居住分布がその面積比に従う保証はありません。

    山林、工場、大規模施設、河川、農地、住宅地が混在していれば、単純な面積比は容易に現実から外れます。

    ここで一つの判断をしました。

    対応関係を説明できない住基データは、一度捨てる。

    高精度な元データを持っているからといって、それを無理に使うことが高精度な分析につながるとは限りません。

    むしろ危険なのは、

    細かい数値が並ぶことで、誤差まで精密に見えてしまうこと

    です。

    今回の最初の大きな転換点でした。


    3.250mメッシュ人口へ切り替える

    そこで人口の基礎単位を250mメッシュへ切り替えました。

    250mメッシュには明確な利点があります。

    町丁目のような行政境界ではなく、一定サイズの空間単位で人口分布を保持できます。そのため、経年変化を追えます。

    特に今回重視したのは、

    狭い範囲の人口分布を壊さずに、その内部をさらに都市構造で分解できること

    でした。

    概念的には、

    岡崎市全体

    250m人口メッシュ

    各メッシュ内部の都市構造

    です。

    しかし、ここでも次の問題が出ます。

    250mメッシュの中には、

    • 第一種低層住居専用地域
    • 第一種住居地域
    • 商業地域
    • 工業地域
    • 工業専用地域
    • 用途地域外

    などが混在します。

    メッシュ人口を単純に建物へ配るだけでは、都市構造を無視することになります。


    4.単純面積按分では、工業専用地域にも人口が流れる

    例えば、ある250mメッシュに100人が存在するとします。

    その内部が、

    住宅系用途地域  40%
    工業地域 30%
    工業専用地域 20%
    用途地域外 10%

    だったとします。

    単純面積按分なら、

    住宅系      40人
    工業地域 30人
    工業専用 20人
    用途地域外 10人

    です。

    計算としては正しい。

    しかし、都市の実態として妥当でしょうか。

    工業専用地域は、住宅系用途地域と同じ人口密度ではありません。

    さらにPLATEAU建物を直接使うと、別の問題が起きます。

    工業専用地域に巨大な建物が存在した場合、

    建物面積が大きいから人口も多い

    という誤った配分が起こり得ます。

    これは今回のモデルで避けたかった問題です。

    そこで考え方を変えました。

    図1 用途地域人口密度ウェイトによる250mメッシュ人口の再配分イメージ


    5.「建物が大きい場所」ではなく「人口密度が高い都市空間」を先に決める

    採用した考え方は、

    250mメッシュ人口を保持したまま、用途地域で分割し、用途地域ごとの人口密度をウェイトとして再配分する

    というものです。

    まず岡崎市全体を対象として用途地域別の人口密度特性を推計し、用途地域人口密度係数を作成しておきます。

    処理イメージは次のとおりです。

    250m人口メッシュ
            ↓
    用途地域とIntersect
            ↓
    メッシュ内部を用途地域別の小片へ分割
            ↓
    用途地域人口密度ウェイト付与
            ↓
    メッシュ人口を再配分

    重要なのは、岡崎市全体を一括して用途地域別に配分しないことです。

    あくまで250mメッシュ単位です。

    つまり、

    メッシュAの100人

    は、メッシュA内部の都市構造に従って配分します。

    隣のメッシュBへは移しません。

    図2 再配分後の親片人口からPLATEAU建物へ落とすイメージ図

    この設計により、250mメッシュが持っていた局所的な人口分布を維持できます。


    6.用途地域外も消さない

    もう一つ重要な判断がありました。

    用途地域外をゼロにしないことです。

    岡崎市のような都市では、市域全体が用途地域に覆われているわけではありません。

    用途地域外にも当然、人は住んでいます。

    そのため、

    第一種低層住居専用地域
    第一種中高層住居専用地域
    第二種中高層住居専用地域
    第一種住居地域
    第二種住居地域
    準住居地域
    近隣商業地域
    商業地域
    準工業地域
    工業地域
    工業専用地域
    用途地域外

    を同じ分析体系の中で扱いました。

    実際の再配分結果は次のようになりました。

    用途区分再配分人口
    第一種低層住居専用地域18,247.386
    第一種中高層住居専用地域57,922.306
    第二種中高層住居専用地域7,124.209
    第一種住居地域125,440.272
    第二種住居地域1,739.295
    準住居地域7,268.654
    近隣商業地域22,092.195
    商業地域13,203.414
    準工業地域51,650.942
    工業地域29,638.855
    工業専用地域264.465
    用途地域外48,667.196

    この結果で注目したのは、工業専用地域です。

    人口は約264人に抑えられています。

    一方、用途地域外には約48,667人が残りました。

    これは重要でした。

    単純に「用途地域内=都市人口」「用途地域外=人口なし」としていないからです。


    7.250mメッシュを残したことが、空間情報を守った

    今回、実際にGIS上で人口ウェイトを確認すると、250mメッシュ単位の分布はかなり空間特性を表現していました。

    ここで分かったのは、用途地域人口密度だけが効いているのではないということです。

    重要なのは、

    250mメッシュという狭い単位の人口分布を先に保持していたこと

    でした。

    例えば同じ第一種住居地域でも、市内全域で同じ人口密度ではありません。

    中心部の第一種住居地域と、郊外の第一種住居地域では状況が違います。

    今回のモデルでは、

    250mメッシュ人口
    ×
    メッシュ内部の用途地域構成
    ×
    用途地域人口密度ウェイト

    となります。

    そのため、用途地域という都市計画情報を使いながら、元の局所的人口分布を完全には失いません。

    私はここが今回のモデルの重要なポイントだと考えています。


    8.この段階で、岡崎市全体の政策基盤ができていた

    当初の目的は、PLATEAU建物への人口配置でした。

    しかし途中で気付きました。

    PLATEAUへ配分する前の人口データ自体が、岡崎市全体の政策分析基盤になる。

    PLATEAU建物への最終配分は、用途地域内を中心とした詳細分析です。

    一方、その前段階では、

    • 用途地域内
    • 用途地域外

    の双方を保持しています。

    つまり全市的な施策では、PLATEAU建物が整備されていない、用途地域外への建物へ無理に落とす必要はありません。

    例えば、

    防災

    人口
    ×
    洪水浸水想定
    ×
    避難所距離

    公共交通

    高齢人口
    ×
    バス停徒歩圏
    ×
    交通空白

    公園政策

    年少人口
    ×
    公園徒歩圏
    ×
    遊具配置

    福祉

    75歳以上人口
    ×
    医療アクセス
    ×
    地域包括支援圏域

    公共施設再編

    人口構成
    ×
    施設配置
    ×
    将来人口

    といった分析に展開できます。

    つまり、今回の成果は二層構造になります。

    【岡崎市全体】
    250mメッシュ
    ×
    用途地域人口密度

    全市政策分析基盤


    【詳細地区】
    用途地域内人口
    ×
    PLATEAU建物

    建物単位政策分析基盤

    この使い分けは、今後かなり重要になると考えています。


    9.そしてPLATEAU建物へ人口を配置した

    ここまで人口空間を整理した後、初めてPLATEAU建物を使いました。

    ここでの原則は明確です。

    PLATEAU建物から人口分布を決めない。

    PLATEAUは人口の発生源ではありません。

    建物が大きいから人口が多いとは限りません。

    工場、倉庫、商業施設、大規模公共施設もあります。

    そこで、

    250mメッシュ

    用途地域人口密度ウェイト

    親片人口を確定

    その後
    PLATEAU建物へ配置

    という順序を守りました。

    この順序により、仮に工業専用地域に巨大なPLATEAU建物が存在しても、上流でその空間に与えられた人口以上を吸収することはありません。

    これは、建物面積から直接人口を推定する方式との大きな違いです。


    10.PLATEAUの欠落は「エラー」なのか

    建物配分を進めると、用途地域内で人口はあるのにPLATEAU建物へ配置できない場所が出てきました。

    当初は処理ミスも疑いました。

    しかし、ArcGIS Proで可視化して確認すると、興味深い地点が見つかりました。

    約46人の未配置

    人口親片は存在するが、対応するPLATEAU建物がない。

    約102人の未配置

    今回確認した中で最大級でした。

    地図と現況を比較すると、区画整理等によるデータ時点差が疑われる場所でした。

    約35人の未配置

    人口は存在するが、PLATEAU建物整備が十分ではないと考えられる場所でした。

    ここで重要な判断をしました。

    これらの人口を、同じ250mメッシュ内の別建物へ移すことはできます。

    近隣建物へ吸収することもできます。

    しかし、それをすると何が起こるでしょうか。

    PLATEAUの未整備や時点差を、人口配分モデルが勝手に隠してしまう。

    そこで、未配置人口は残しました。

    最終的に用途地域内人口約334,592人のうち、

    • 建物配置人口:約333,631人
    • 未配置人口:約961人

    となりました。

    配置率は約99.71%です。

    100%ではありません。

    しかし、今回の検証を通じて私は、

    100%配置しないことの方が、モデルとして誠実である

    と判断しました。


    11.AIエージェントは何度も間違えた

    今回の分析では、AIエージェントとCLIを活用しました。

    しかし、一直線に成功したわけではありません。

    実際には、

    • 存在しないフィールド名を前提にする
    • PARENT_PART_IDPARENT_PART_KEY を混同する
    • 異なる世代の中間成果を接続しようとする
    • 2,483親片のキー体系を誤認する
    • 60年齢列の構造を誤解する
    • STEP5成果に保持されていない属性を要求する

    といった問題が何度も起きました。

    例えば、

    STOP_REASON:
    建物側 PARENT_PART_KEY 不存在

    別の段階では、

    STOP_REASON:
    親片キー集合不一致

    さらに、

    STOP_REASON:
    完全一致する実在属性組合せなし

    そして年齢人口では、

    STOP_REASON:
    5歳階級フィールドの年齢範囲を一意判定不能

    と停止しました。

    一見すると、AIを使うことでかえって手間が増えているようにも見えます。

    しかし、ここで重要だったのが停止規約と中間成果でした。


    12.「失敗しないAI」ではなく「壊さないAI」を目指す

    今回、最も役立ったルールは、AIに自由に続行させないことでした。

    例えば、

    必須フィールドがなければ停止
    キー集合が一致しなければ停止
    人口保存差が許容値を超えたら停止
    代替成果物を勝手に探索しない
    OBJECTIDへフォールバックしない
    同名成果物を別名で増殖させない
    成功済み中間成果を残す
    停止後はLAST_SUCCESS_OUTPUTから再開

    といった規約です。

    その結果、処理は何度も止まりました。

    しかし、止まったからこそ、

    • 異なるキー体系
    • 中間成果の属性不足
    • PLATEAU欠落
    • 年齢列定義
    • 用途地域外混入

    を発見できました。

    これは以前から私が検証してきた「AIの回答をどう監査するか」という問題と直結します。

    今回得た知見は、

    複雑なGIS分析では、AIに正解を一発で出させることより、誤った前提で先へ進ませないことの方が重要

    というものでした。

    そして、一度正しい処理手順を中間成果と監査規約として固定できれば、次回からは同じ手順を再利用できます。

    ここにAIエージェント活用の実務的な価値があります。


    13.第1回の結論

    今回の試行錯誤から、PLATEAUへの人口配置について次の考え方に到達しました。

    1.高精度な元データでも、空間対応を説明できなければ使わない

    住基人口は詳細です。

    しかしe-Stat境界との対応が保証できなければ、無理な配分は「精密に見える誤差」を作ります。

    2.人口分布はPLATEAU建物から決めない

    建物面積や容積だけで人口を決めると、巨大工場や倉庫が人口を吸収する可能性があります。

    3.250mメッシュの局所的人口分布を保持する

    全市一括配分ではなく、狭い空間単位を維持することで地域差を残します。

    4.用途地域は人口分布を補正する都市構造情報として使う

    住宅系、商業系、工業系、用途地域外の違いを人口密度ウェイトへ反映します。

    5.PLATEAU未整備を人口モデルで隠さない

    配置できない人口は周辺建物へ吸収せず、未配置差分として保持します。

    6.AIエージェントには停止規約と中間成果が必要

    成功プロンプトよりも、誤ったときに壊さない設計が重要でした。


    次回:165,506棟へ人口・世帯・年齢構成を配置する

    第2回では、今回作成した人口空間基盤から、実際にPLATEAU建物へ人口を配置した工程を扱います。

    最終成果は、

    • 用途地域内総人口:約334,592人
    • 建物配置人口:約333,631人
    • 未配置人口:約961人
    • 総世帯数:約139,893世帯
    • 建物配置世帯:約139,524世帯
    • 最終建物ポリゴン:165,506棟
    • 5歳階級属性:60列
    • 用途地域外人口混入:0
    • 用途地域外建物混入:0
    • 最終監査:PASS

    となりました。

    さらに、

    • 年少人口
    • 生産年齢人口
    • 65歳以上人口
    • 75歳以上人口

    を建物単位で保持しています。

    しかし、第2回の本当のテーマは「人口を建物へ載せた」ことだけではありません。

    各建物には bldg_id があります。

    このIDを軸にすれば、

    建物人口
    ×
    人流カメラ
    ×
    防災
    ×
    公共交通
    ×
    公園
    ×
    福祉
    ×
    空間ID

    という展開が可能になります。

    さらに、PLATEAU MCPとArcGIS MCPを組み合わせれば、将来的にはAIエージェントに、

    「75歳以上人口が多く、避難所から遠く、浸水リスクが高い建物を抽出して」

    「子ども人口が多いのに、公園アクセスが弱い建物群を地図化して」

    「居住人口は少ないが、人流カメラで昼間人口が多い地域を比較して」

    と指示する世界も見えてきます。

    PLATEAUを3Dで見るためのデータから、自治体施策を横断する共通空間基盤へ。

    bldg_idが生み出す部門間データ連携の可能性

    建物単位の人口推計で重要なのは、単に「各建物に何人住んでいるか」を推計できることだけではありません。

    PLATEAU建物には、建物を識別するための bldg_id を持たせることができます。この建物IDを共通キーとして活用できれば、自治体内部に分散している複数部門の情報を、建物単位で結び付けられる可能性があります。

    例えば、

    • 福祉部門が保有する要援護者情報
    • 防災部門が保有する避難支援情報
    • 都市計画部門が保有する浸水想定区域や土地利用情報
    • 建築部門が保有する建物属性情報
    • 固定資産・家屋部門が保有する建物関連情報

    などです。

    ここで重要なのは、個人情報そのものを他部門へ渡す必要はないという点です。

    例えば福祉部門側で、

    「この建物には要援護者が存在する」

    という情報を、氏名・住所・生年月日などの個人識別情報を除いたうえで bldg_id に紐付けます。

    一方、都市計画・防災部門では、

    「この建物は浸水深3m以上の区域に含まれる」

    「この建物は土砂災害警戒区域に含まれる」

    「指定避難所まで一定距離以上離れている」

    といった空間リスクを、同じ bldg_id に紐付けます。

    すると、個人情報を直接共有しなくても、

    「要援護者が存在し、かつ浸水リスクが高い建物」

    「高齢人口が多く、避難所から遠い建物」

    「人口集中があり、複数の災害リスクが重なる建物」

    といった政策判断に必要な対象を、建物単位で抽出できる可能性があります。

    これは、従来の自治体GISで課題となってきた「部門ごとにデータが分断されている状態」を変える重要な考え方です。

    bldg_id は単なる建物番号ではありません。

    福祉、防災、都市計画、建築、インフラなど、異なる部門が保有するデータを、個人情報保護に配慮しながら建物という共通空間単位で接続するための「連携キー」になり得ます。

    つまり、建物人口モデルの本当の価値は、人口を細かく推計することだけではありません。

    「人口統計を建物単位へ落とし、bldg_idを介して自治体内部の分散データを安全に接続できる基盤をつくること」

    にあります。

    この意味で bldg_id は、自治体の縦割りを越えたデータ連携を実現するための切り札になり得ます。

    用途地域外を「捨てない」ことが、市域全体の政策判断を支える

    本モデルでは、用途地域人口密度ウェイトによる人口再配分の対象範囲を明確に管理し、用途地域内の分析結果に用途地域外の建物や人口が混入しないようにしています。

    しかし、これは用途地域外を分析対象から削除するという意味ではありません。

    むしろ重要なのは、用途地域外を OUTSIDE 等の明示的な区分として識別し、用途地域内と同じ分析体系の中で保持し続けることです。

    なぜなら、自治体の政策課題は用途地域の境界で終わらないからです。

    例えば防災分野を考えると

    河川氾濫、土砂災害、地震、孤立集落、避難所アクセスといった課題は、市街化された用途地域内だけで発生するものではありません。用途地域外には、山間部の集落、農村集落、市街地縁辺部の住宅地などが存在し、高齢者や要援護者が居住している場合もあります。

    仮に用途地域内だけを分析対象とした場合、

    「浸水想定区域内に何人いるか」

    「土砂災害リスクの高い場所に高齢者がどれだけ居住しているか」

    「避難所まで遠い住民がどこに集中しているか」

    といった分析で、市域の一部が最初から見えなくなります。

    特に防災では、人口が少ない地域ほど行政支援の優先度が低いとは限りません。

    例えば、用途地域外の山間集落に20人しか居住していなくても、その多くが高齢者で、最寄り避難所まで遠く、さらに豪雨時に道路が寸断される可能性があるなら、その20人は極めて重要な政策対象となります。

    用途地域外でデータを保持していれば、

    「人口は少ないが、土砂災害リスクが高く、避難所アクセスも悪い建物群」

    「高齢人口が集中し、災害時に孤立する可能性がある集落」

    「河川氾濫時に避難経路が限定される市街地縁辺部」

    といった対象を、市域全体から抽出できます。

    公共交通計画でも同様です。

    路線バス、地域バス、デマンド交通、乗合タクシーなどの必要性は、用途地域内の人口密度だけでは判断できません。

    例えば用途地域外に、

    「高齢者が一定数居住している」

    「鉄道駅から遠い」

    「既存バス停まで800m以上ある」

    「自家用車を利用しにくい世帯が存在する」

    「医療機関や商業施設へのアクセスが悪い」

    といった条件が重なる地域があれば、そこはデマンド交通や地域交通の重要な候補地となります。

    人口密度だけを見れば需要が小さく見える地域でも、

    高齢人口 × バス停距離 × 医療機関アクセス × 地形条件

    を重ねることで、行政が支援すべき「移動困難地域」が見えてきます。

    ここで用途地域外を削除してしまえば、まさに地域公共交通政策が対象とすべき住民が分析から消えてしまいます。

    さらに重要なのは、市街地と郊外・農村・山間部を分断せず、同じ分析体系で比較できることです。

    例えば市域全体について、

    • 建物人口
    • 5歳階級人口
    • 高齢者人口
    • 要援護者の有無
    • 浸水深
    • 土砂災害リスク
    • 避難所までの距離
    • バス停までの距離
    • 医療機関までのアクセス
    • bldg_id

    といった情報を共通構造で保持できれば、用途地域内外をまたいだ政策分析が可能になります。

    用途地域外は「分析できなかった残り」ではありません。

    用途地域人口密度ウェイトを適用できない領域として明確に区別しながら、市域全体の政策判断のために保持し続けるべき重要な分析対象です。

    用途地域内の精密な人口再配分と、用途地域外を含む市域全体の俯瞰。

    この二つを同時に成立させることで、建物人口モデルは単なる人口推計から、防災、福祉、公共交通、都市計画を横断する自治体政策基盤へ発展する。

    次回は、165,506棟への人口配置と、その先にある bldg_id、空間ID、人流、MCP連携まで紹介します。

    関連記事

    ▶ 第1回:自治体GISとAIの融合
    ▶第2回:ArcGIS Onlineと生成AIを連携した人口統計分析の実証
    ▶第3回:生成AIとGISで健康遊具の優先整備地区を抽出してみた
    ▶第4回:自治体の人材不足はGIS AIで解決できるのか
    ▶第5回:e-Stat APIとGISを結合するときの落とし穴
    ▶第6回:PLATEAU MCPは自治体GISを変えるのか
    ▶第7回:健康遊具はどこに整備すべきか?生成AIとGISで検証
    ▶第8回:AIの回答は信用できるのか(検証と説明責任)
    ▶第9回:自治体GISにおける人口統計データの構造要件を生成AIで検証する
    ▶第10回:PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か
    ▶第11回:PLATEAU建物人口から見る浸水リスク
    ▶第12回:建物単位人口で見る避難所シミュレーション
    ▶第14回:PLATEAUを「人口を持つ都市」へ

  • 建物単位人口で見る避難所シミュレーション

    ~高解像度な人口基盤を「命を守る」政策へつなげる~

    本記事は、生成AIとGISを活用した自治体業務の実証シリーズの第12回です。

    関連記事

    ▶ 第1回:自治体GISとAIの融合
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    ▶第9回:自治体GISにおける人口統計データの構造要件を生成AIで検証する
    ▶第10回:PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か
    ▶第11回:PLATEAU建物人口から見る浸水リスク
    ▶第13回:PLATEAUの建物に人口を配置する
    ▶第14回:PLATEAUを「人口を持つ都市」へ

    はじめに

    前回の記事では、PLATEAUの3D都市モデル(LOD1)と国勢調査を利用し、建物単位人口推計モデルを構築しました。

    建物高さや用途地域を考慮しながら人口を建物単位へ再配分することで、

    「どの建物に、どれだけの人が居住しているのか」

    を推定できるようになりました。

    前回の分析は、建物そのものに着目した比較的ミクロな分析でした。

    今回は、その高解像度な人口基盤を利用し、

    「誰が、どこへ避難するのか」

    という、より面的な防災分析へ発展させます。

    建物単位人口という基盤が整備されたことで、浸水リスク、避難所、避難距離といった複数のデータを横断的に結び付けることが可能となりました。

    今回の分析は、前回構築した建物単位人口モデルがあって初めて実現できた分析であると言えます。

    図1:建物人口 → 浸水区域 → 要避難支援建物 → 避難所シミュレーションの全体イメージ


    使用データ

    今回使用したデータは次のとおりです。

    データ内容
    PLATEAU建物データLOD1建物モデル
    建物単位人口前回作成成果
    浸水継続時間ESRI Living Atlas
    避難所データ和泉市指定避難所(39施設)

    浸水継続時間データには、ESRIが提供する全国の洪水浸水継続時間データを利用しました。

    AIエージェントによるデータ探索

    今回の分析を開始するにあたり、まず検討したのは、

    「浸水継続時間データを分析に利用できるのか」

    という点でした。

    浸水継続時間はESRI Living Atlasで公開されていますが、

    • ArcGIS Onlineアカウントが必要なのか
    • 商用利用や分析利用が可能なのか
    • フィーチャサービスとして利用できるのか
    • 建物データとの空間解析に利用できるのか

    は事前に確認する必要がありました。

    そこで、ArcGIS MCP環境を利用し、生成AIエージェントに次のような自然言語で指示を行いました。

    プロンプト例

    ESRI Living Atlasで公開されている浸水継続時間データを調査してください。
    
    確認したい内容は次のとおりです。
    
    1. ArcGIS Onlineアカウントが必要か
    2. 公開レイヤとして利用できるか
    3. ArcGIS Proで空間解析に利用できるか
    4. 建物ポリゴンとのIntersect解析に利用できるか
    5. 全国データとして利用できるか
    
    分析利用に適しているか評価してください。
    

    その結果、AIエージェントから、

    • 全国を対象とした公開データであること
    • ArcGIS Onlineアカウントがなくても閲覧可能であること
    • ArcGIS Proから解析利用可能であること
    • フィーチャサービスとして空間解析に利用できること

    が確認できました。

    このように、生成AIエージェントを利用することで、

    「分析に使えるデータを探す」

    という従来は時間を要していた作業も効率化できる可能性があります。

    今回の検証では、データ探索から分析、結果の評価まで、一連のプロセスにAIを活用することができました。


    ArcGIS Proによる探索的分析とMCPによる自動化

    今回の分析では、まずArcGIS Proを利用して分析ロジックを構築しました。

    具体的には、

    • 浸水区域内建物の抽出
    • 浸水継続時間の付与
    • 高齢者人口条件の検討
    • 推定階数条件の検討
    • 最寄り避難所分析

    などを地図を確認しながら試行錯誤し、分析条件の妥当性を検証しました。

    一方、同じ分析をMCP環境で実施した場合、分析プロセス全体を再現可能なワークフローとして出力することができます。

    今回、MCPでは次の成果物を自動出力しました。

    図2:MCPによる自動生成成果物一覧

    入力・中間成果

    ファイル内容
    step0_flood_izumi_27219_raw.geojsonLiving Atlasから取得した浸水継続時間データ(元データ)
    step1_flood_izumi_27219.geojson解析対象範囲で抽出・加工した浸水継続時間データ
    step2_buildings_with_derived_fields.geojson建物人口、推定階数等を付与した建物データ
    step3_building_flood_intersections.geojson建物と浸水継続時間ポリゴンのIntersect結果
    step4_buildings_joined_flood_duration.geojson建物ごとに代表浸水継続時間を付与した最終建物データ

    出力成果

    ファイル内容
    izumi_evacuation_support_priority_candidates.csv要避難支援候補建物一覧
    izumi_evacuation_support_priority_candidates.geojson要避難支援候補建物レイヤ
    izumi_flood_duration_summary.csv浸水継続時間別集計結果
    izumi_flood_duration_summary.json浸水継続時間集計結果(機械可読形式)
    izumi_flood_duration_summary.md分析結果サマリー・監査レポート
    izumi_flood_duration_run_metadata.json解析実行条件・処理履歴メタデータ

    このように、MCPでは単に解析を実行するだけではなく、

    解析過程そのものを成果物として保存できる

    点が特徴です。

    従来のGIS解析では、分析を行った担当者しか処理内容を把握できないケースも少なくありません。

    一方、MCPでは、

    • 入力データ
    • 中間成果
    • 最終成果
    • 実行履歴
    • 監査レポート

    を自動的に記録できるため、

    「誰が実施しても同じ結果を再現できる分析」

    を構築できる可能性があります。

    今回の検証を通じて、

    ArcGIS Proで分析ロジックを構築し、MCPでその処理を再利用可能なツールとして実装する

    という、新しいGIS分析の姿も見えてきました。

    Step1 要避難支援建物を抽出する

    分析では、約75,000棟の建物のうち、

    約10,540棟

    が浸水区域内に存在することが分かりました。

    しかし、浸水するすべての建物が同じリスクを持つわけではありません。

    そこで今回は、

    浸水区域内
    AND
    高齢者人口 > 0
    AND
    推定階数 <= 1
    

    という条件を設定しました。

    GISでの処理内容は

    PLATEAU建物

    浸水継続時間ポリゴン

    Intersect

    最大重複面積を持つ
    浸水継続時間を建物へ付与

    これは、

    高齢者が居住し、かつ垂直避難が困難な低層住宅

    を抽出するためです。

    その結果、

    1,895棟

    の建物が抽出されました。

    これらの建物に居住する人口は、

    • 総人口:約2,066人
    • 75歳以上人口:約262人

    となりました。

    図2:要避難支援建物分布図(イメージ)


    浸水継続時間が持つ意味

    今回の分析では、単に浸水するか否かだけではなく、浸水継続時間にも着目しました。

    短時間の浸水であれば、自宅内で待機できるケースも考えられます。

    しかし、

    12時間以上継続する浸水

    は、住民の孤立リスクを高める可能性があります。

    特に、

    • 高齢者が居住する
    • 1階建て住宅である
    • 長時間浸水が想定される

    という条件が重なる場合、単なる浸水被害ではなく、

    「生命リスク」

    そのものを意味します。

    浸水継続時間という「時間」の軸を考慮することで、

    どの建物を優先的に避難支援すべきか

    をより具体的に評価できることが確認できました。


    ArcGIS Proによる解析フロー

    ここではArcGIS Proを利用し、次のジオプロセシングを実施しました。

    要避難支援建物抽出
    ↓
    Generate Near Table
    ↓
    避難所属性結合
    ↓
    Summary Statistics
    ↓
    避難所別集計
    ↓
    マップ作成
    

    まず、Generate Near Tableを利用して、建物ごとの最寄り避難所を算出しました。

    その後、NEAR_FIDを利用して避難所名称を結合し、避難所別に人口を集計しました。

    図5 ArcGIS Pro「Generate Near Table」を用いた最寄り避難所解析設定画面

    今回の分析では、ArcGIS Pro の Generate Near Table ツールを利用し、要避難支援建物ごとに最寄り避難所を算出しました。

    主な設定は次のとおりである。

    設定項目内容
    入力フィーチャ要避難支援建物(1,895棟)
    近接フィーチャ和泉市指定避難所(39施設)
    方法平面距離
    距離単位メートル
    最近接フィーチャのみ検索ON
    位置出力ON
    検索範囲不明(最大距離の取得)

    本ツールにより、各建物について、

    • 最寄り避難所ID(NEAR_FID)
    • 直線距離(NEAR_DIST)
    • 建物座標
    • 避難所座標

    を取得しました。

    その後、NEAR_FIDを利用して避難所名称を結合し、建物人口データを付加したうえで、避難所別に75歳以上人口、総人口、平均避難距離、最大避難距離を集計しました。


    避難所別避難需要を分析する

    分析の結果、総人口約2,066人、75歳以上人口約262人が市内39施設の指定避難所のうち、

    23施設

    に避難需要が集中することが分かりました。

    対象となる避難需要は、

    • 総人口:約2,066人
    • 75歳以上人口:約262人

    でした。

    図6:避難所別避難需要マップ(イメージ)

    想定避難人口の多い順に並べると、次のようになります。

    表1 要避難支援者(75歳以上)を対象とした最寄り避難所別推計避難需要

    順位避難所想定避難人口75歳以上人口平均距離(m)最大距離(m)
    1国府小学校748994621,199
    2和気小学校200227841,293
    3北松尾小学校175175681,030
    4芦部小学校15215365767
    5和泉中学校13713418791
    6総合福祉会館12421336608
    7府立伯太高等学校839429595
    8いぶき野小学校819374731
    9北池田中学校695477871
    10光明台北小学校6897931,098

    ※本結果は公開データおよび建物単位人口推計モデルを用いた試算結果であり、自治体が定める正式な避難計画値ではない。
    避難行動は直線距離による最寄り避難所を仮定している。

    避難需要上位施設を見ると、国府小学校には約748人が集中し、そのうち約99人が75歳以上人口であった。
    一方、和気小学校では平均避難距離が約784m、最大距離は約1.3kmとなり、高齢者にとっては避難負担が大きい可能性が示唆された。
    また、北松尾小学校や光明台北小学校でも1kmを超える建物が存在しており、避難支援体制の検討が必要と考えられる。

    なお、今回の分析では、避難所ごとの想定避難者数を推計しましたが、避難所の収容人数に関する公開データが確認できなかったため、避難所ごとの収容余力や避難所不足の評価までは実施していません。

    今後、避難所収容人数データを組み合わせることができれば、

    「どの避難所が不足するのか」
    「避難所の再配置が必要な地域はどこか」

    といった、より具体的な避難計画の検討も可能になると考えています。

    ※本分析における避難距離は建物重心から最寄り避難所までの直線距離です。


    避難需要は均等ではない

    市内には39施設の避難所が整備されています。

    しかし、今回抽出した要避難支援建物の避難需要は23施設に集中しました。

    ※浸水区域が市北西部に集中しているため、内陸部や丘陵部の避難所には需要が発生しなかった。

    これは、

    避難所が市内全域に配置されていても、実際の避難需要は一部施設へ偏在する

    ことを示しています。

    従来の町丁目単位分析では、

    「避難所は足りているか」

    を評価することはできても、

    「どの避難所に何人集まるのか」

    を把握することは困難でした。

    今回の分析では、

    「誰が、どこへ避難し、その避難所にどの程度の負荷がかかるのか」

    を建物単位で把握できることが確認できました。

    今回の分析結果は、

    • 避難所配置計画
    • 避難所運営体制
    • 福祉避難所配置
    • 避難所収容能力の見直し

    などの政策判断に活用できる可能性があります。

    今回の分析結果は、避難所配置だけでなく、
    避難所収容能力の見直しや福祉避難所の配置検討を行う際の
    基礎資料としても活用できる可能性があります。


    AIエージェントによる解析支援

    今回の解析はArcGIS Proを利用して実施しました。

    ただし、分析過程では生成AIエージェントを活用し、

    • 分析条件の検討
    • ジオプロセシングフロー設計
    • 結果の妥当性確認
    • 政策評価

    を支援させました。

    実際の空間計算はGISが担います。

    一方、

    「どのような分析を行うか」

    というロジック設計はGIS技術者が担う必要があります。

    今回も、GISで分析ロジックを設計し、その妥当性を確認しながら解析を進めました。


    MCPによる将来像

    一度分析ロジックが確立されれば、

    建物抽出

    最寄り避難所解析

    属性結合

    統計集計

    品質保証(妥当性検証)

    監査レポート作成

    といった一連の処理は定型化できます。

    今回の検証では、Near解析、属性結合、統計集計、さらには距離値の妥当性検証までをMCPツールとして実装し、GIS分析フローの自動化を確認することができました。

    今後、これらの処理をMCPツールとして整備していけば、

    「浸水区域内の高齢者が居住する低層住宅について、最寄り避難所を分析してください」

    といった自然言語による指示だけで、建物抽出から避難需要集計、品質確認、レポート作成までを自動的に実施できる可能性があります。

    今回の検証を通じて、

    GISで分析ロジックを設計し、AIエージェントが繰り返し処理と品質確認を支援する

    という、新しい自治体GISの姿も見えてきました。


    今後の展開

    今回の分析では、建物重心から避難所までの直線距離を利用して最寄り避難所を推定しました。

    この方法でも、要避難支援者が「誰が、どこへ避難し、その避難所にどの程度の負荷がかかるのか」を建物単位で把握できることが確認できました。

    一方で、より現実に近い避難行動を評価するためには、道路ネットワークデータセットを利用した解析が有効です。

    例えば、道路距離や徒歩時間を考慮した最寄り避難所解析を実施することで、

    ・避難所までの徒歩時間評価
    ・避難困難地域の抽出
    ・避難所サービス圏の評価
    ・避難所配置の最適化

    など、より実態に即した避難行動シミュレーションが可能になります。

    また、今回利用したPLATEAUデータはLOD1であったが、将来的にLOD2データを利用すれば、建物高さだけでなく屋根形状も考慮した分析も期待できます。

    例えば、

    ・浸水深と建物高さを考慮した垂直避難可能性の評価
    ・屋上避難が可能な建物の抽出
    ・地域内避難候補建物の選定

    など、3次元都市モデルを活用した新たな防災分析への発展も考えられます。

    今回構築した分析フローは、こうした高度な防災分析をAIエージェントが支援するための基礎となるものであり、今後の自治体GISの新たな活用方法の一つになると期待しています。

    おわりに

    今回の分析では、

    「誰が、どこへ避難し、その避難所にどの程度の負荷がかかるのか」

    を建物単位で把握できることが確認できました。

    建物単位の推計人口という高解像度な基盤を、

    「命を守る」

    という行政の最重要課題へ直接接続できたことは、大きな成果であると考えています。

    また、今回利用したPLATEAUデータはLOD1でしたが、将来的にLOD2データを利用できれば、屋根形状や建物形状を考慮した、より高精度な人口推計も期待できます。

    今回の検証は、

    「データ整備によって行政を変える」

    一つの事例になったのではないかと考えています。

    関連記事

    ▶ 第1回:自治体GISとAIの融合
    ▶第2回:ArcGIS Onlineと生成AIを連携した人口統計分析の実証
    ▶第3回:生成AIとGISで健康遊具の優先整備地区を抽出してみた
    ▶第4回:自治体の人材不足はGIS AIで解決できるのか
    ▶第5回:e-Stat APIとGISを結合するときの落とし穴
    ▶第6回:PLATEAU MCPは自治体GISを変えるのか
    ▶第7回:健康遊具はどこに整備すべきか?生成AIとGISで検証
    ▶第8回:AIの回答は信用できるのか(検証と説明責任)
    ▶第9回:自治体GISにおける人口統計データの構造要件を生成AIで検証する
    ▶第10回:PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か
    ▶第11回:PLATEAU建物人口から見る浸水リスク
    ▶第13回:PLATEAUの建物に人口を配置する
    ▶第14回:PLATEAUを「人口を持つ都市」へ

  • PLATEAU建物人口から見る浸水リスク

    ~建物単位人口が変える洪水リスク分析~

    本記事は、生成AIとGISを活用した自治体業務の実証シリーズの第11回です。

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    ▶ 第1回:自治体GISとAIの融合
    ▶第2回:ArcGIS Onlineと生成AIを連携した人口統計分析の実証
    ▶第3回:生成AIとGISで健康遊具の優先整備地区を抽出してみた
    ▶第4回:自治体の人材不足はGIS AIで解決できるのか
    ▶第5回:e-Stat APIとGISを結合するときの落とし穴
    ▶第6回:PLATEAU MCPは自治体GISを変えるのか
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    ▶第8回:AIの回答は信用できるのか(検証と説明責任)
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    ▶第10回:PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か
    ▶第12回:建物単位人口で見る避難所シミュレーション
    ▶第13回:PLATEAUの建物に人口を配置する
    ▶第14回:PLATEAUを「人口を持つ都市」へ

    はじめに

    前回構築した建物単位人口データを利用し、今回は洪水浸水想定区域と重ね合わせることで、浸水リスクを建物単位で評価してみました。

    図1:従来の浸水想定区域イメージ

    従来の浸水想定区域図では
    「どこが浸水するのか」

    は把握できます。

    しかし、

    「どれだけの人が影響を受けるのか」
    「高齢者がどこに居住しているのか」
    「どの建物を優先的に支援すべきなのか」

    までは分かりませんでした。

    そこで今回は、

    • 建物単位人口
    • 高齢者人口
    • 建物推定階数
    • 浸水継続時間

    を組み合わせることで、建物単位の浸水リスク分析を行いました。

    図2:建物人口 × 浸水継続時間のイメージ


    使用データ

    今回使用したデータは次のとおりです。

    • PLATEAU LOD1建物データ
    • 建物単位人口データ(第10回で作成したデータ)
    • 洪水浸水想定区域(浸水継続時間:公開データ)
      出典:ArcGIS Living Atlas(ESRIジャパン 災害情報マップ)
      原典:国土交通省 国土数値情報・ハザードマップポータルサイト
    • 建物推定階数 (第10回で作成したデータ)
    • 建物別高齢者人口(第10回で作成したデータ)

    浸水ポリゴンと建物を重ね合わせ、複数の浸水区域と重複する場合は、最も重複面積が大きい浸水継続時間を採用しました。

    Step1 浸水継続時間レイヤが分析に利用できるかを検証

    まず、浸水継続時間ポリゴンが建物単位分析に利用できる品質かを確認しました。

    AIエージェントには次のように指示しました。

    洪水浸水継続時間ポリゴンが建物単位分析に利用可能か検証してください。

    確認項目:
    ・ポリゴンの重複有無
    ・欠損値の有無
    ・浸水継続時間区分
    ・建物との重なり状況
    ・分析利用上の問題点

    結果をレポートしてください。

    Step2 建物人口と浸水継続時間を結合

    次に、建物単位人口データと浸水継続時間ポリゴンを重ね合わせました。

    建物単位人口データと浸水継続時間ポリゴンを空間結合してください。

    条件:
    ・建物ジオメトリは変更しない
    ・gml_idを維持する
    ・複数ポリゴンと重複する場合は
    最大重複面積の浸水継続時間を採用する

    出力:
    建物ごとの浸水継続時間属性

    これにより、

    建物単位人口と浸水継続時間を同時に扱うことが可能となりました。

    を作成しました。

    Step3 浸水継続時間別の人口構成を集計

    最後に、建物人口を浸水継続時間ごとに集計しました。

    浸水継続時間ごとに次の項目を集計してください。

    ・建物数
    ・総人口
    ・高齢者人口
    ・1階建住宅人口

    結果は表形式で出力してください。

    その結果、

    • 浸水区域内建物数
    • 浸水区域内人口
    • 高齢者人口
    • 1階建住宅人口

    を把握することができました。

    Step4 避難支援が必要な建物の抽出

    さらに、

    次の条件を満たす建物を抽出してください。

    ・浸水継続時間 >= 12時間
    ・推定階数 <= 1
    ・高齢者人口 > 0

    出力:
    ・建物数
    ・総人口
    ・高齢者人口
    ・位置図

    と指示することで、

    長時間浸水し、高齢者が居住する低層住宅

    を抽出することができました。


    浸水継続時間別人口の推計

    分析の結果、浸水継続時間別人口構成は次のようになりました。

    浸水継続時間建物数総人口高齢者人口1階建住宅人口
    12時間未満10,533棟29,009人7,134人5,141人
    12時間以上24時間未満7棟5人2人1人

    (図:浸水継続時間別人口構成)

    浸水区域内には約29,000人が居住しており(これは市総人口の約16%に相当します。)そのうち約7,100人が高齢者、約5,100人が1階建住宅に居住していることが分かりました。


    建物単位だから分かるリスク

    今回の分析では、

    • 浸水継続時間
    • 高齢者人口
    • 建物階数

    を組み合わせることで、

    従来のメッシュ単位分析では困難であった
    建物単位の避難リスク評価を行いました。

    具体的には、

    • 12時間以上浸水
    • 1階建住宅
    • 高齢者が居住

    という条件を満たす建物を抽出したところ、
    3棟

    が避難支援優先候補として抽出されました。

    (図:避難支援優先候補建物)

    これらの建物には合計約0.7人、高齢者約0.3人が居住していると推計されました。

    図3:建物単位人口を用いた避難支援優先候補抽出(イメージ)


    ※本図は分析結果を模式的に表現したイメージ図です。
    建物位置、抽出結果等は説明用に再構成しており、
    実際の位置情報とは一致しません。

    建物単位人口だからできる分析

    従来の町丁目単位や250mメッシュ単位の分析では、

    「地域全体として危険」

    という評価に留まっていました。

    一方、建物単位人口データを利用することで、

    「どの建物に、どのような支援が必要なのか」

    を具体的に検討できるようになります。

    これは、

    • 個別避難計画
    • 避難行動要支援者支援
    • 地域防災計画

    などに活用できる可能性があります。


    AIエージェントによる解析支援

    今回の分析でも生成AIエージェントを活用しました。

    従来、建物単位の浸水リスク分析を実施するためには、GIS技術者が多数のジオプロセシングツールを組み合わせながら、分析条件を試行錯誤する必要があります。

    例えば、今回の分析では、ArcGIS Pro上で次のような処理フローを実施しました。

    建物単位人口データ
           +
    浸水継続時間ポリゴン
           ↓
    【Intersect】
    建物と浸水ポリゴンの重複領域作成
           ↓
    【Calculate Geometry】
    建物ごとの重複面積算出
           ↓
    【Summary Statistics】
    建物ごとの最大重複面積抽出
           ↓
    【Join Field】
    代表浸水継続時間を建物へ付与
           ↓
    【Select Layer By Attribute】
    低層住宅抽出
    (推定階数≦1)
           ↓
    【Select Layer By Attribute】
    高齢者居住建物抽出
           ↓
    【Summary Statistics】
    浸水継続時間別人口集計
           ↓
    避難支援優先候補抽出
    

    このような解析は、GISに精通した技術者であっても、多くの処理手順と検証作業を必要とします。

    今回は、生成AIエージェントに対し、

    「浸水継続時間レイヤが建物単位分析に利用可能か検証してください」

    「建物人口と浸水継続時間を重ね合わせ、浸水継続時間別に人口、高齢者人口、1階建住宅人口を集計してください」

    「浸水継続時間が12時間以上で、推定階数が1階、高齢者人口が存在する建物を抽出してください」

    といった自然言語による指示を行いました。

    その結果、AIエージェントが必要な空間結合、属性集計、条件抽出、監査処理を実施し、地図、集計表、監査レポートとして出力することができました。

    特に今回の分析では、

    • 浸水継続時間レイヤが建物単位分析に利用できるか
    • どの浸水継続時間を代表値として採用すべきか
    • どの条件で避難支援優先候補を抽出すべきか

    といった探索的な検討を繰り返し行いました。

    従来であれば、分析条件を変更するたびにジオプロセシングを再実行し、その結果を確認する必要がありましたが、AIエージェントを活用することで、

    「仮説を立てる → 指示する → 結果を確認する → 条件を修正する」

    という分析サイクルを短時間で繰り返すことができました。

    AIエージェントが分析結果そのものを保証するわけではありません。しかし、人間が政策的な仮説を立て、AIが大量のGIS処理と監査作業を支援することで、従来よりもはるかに短時間で政策立案に必要な分析を実施できる可能性を確認することができました。サイクルを大幅に短縮できる可能性を確認できました。


    おわりに

    今回の分析を通じて、

    建物単位人口データは、防災分野において極めて有効な政策支援データとなる

    ことを改めて実感しました。

    建物単位人口と浸水継続時間を組み合わせることで、浸水リスクをより詳細に把握できるだけでなく、優先的な避難支援が必要となる建物を抽出できることも確認できました。

    特に、従来の町丁目単位や250mメッシュ単位の分析では困難であった、

    「どの建物に、どのような支援が必要なのか」

    という視点からの分析が可能になったことは、大きな成果であると考えています。

    一方、建物単位人口データの活用可能性は、防災分野だけに留まりません。

    例えば、

    • 防災部門では、個別避難計画策定や避難所配置の検討
    • 福祉部門では、高齢者見守りや地域包括ケアの支援対象把握
    • 空き家対策部門では、低利用建物や空き家候補の抽出
    • 都市計画部門では、居住誘導区域や公共施設配置の評価
    • 公園・道路部門では、人口分布を考慮した施設整備優先順位の検討
    • 教育部門では、通学路や学校施設配置の見直し

    など、自治体の多くの部署での活用が期待できます。

    これまで自治体では、人口統計は町丁目やメッシュ単位で利用されることが一般的でした。しかし、建物単位人口データを利用することで、より実態に近い地域分析や政策立案が可能になります。

    さらに、PLATEAUや各種オープンデータ、自治体が保有する台帳データを組み合わせることで、従来は困難であった政策シミュレーションも現実的なものになりつつあります。

    今回の検証は、その第一歩に過ぎません。

    今後も、生成AIエージェントとGISを組み合わせることで、自治体に蓄積された多様なデータを政策立案へ活用する手法について検証を進めていきたいと考えています。

    次回予告

    次回は、

    「建物単位人口を利用した避難所シミュレーション」

    をテーマに、今回構築した建物単位人口データをさらに活用してみたいと思います。

    自治体では、避難所計画を策定する際、町丁目単位や小学校区単位の人口を用いるケースが一般的です。しかし、実際の避難行動は建物単位で発生するため、より詳細な分析が求められています。

    次回は、

    • 建物単位人口データ
    • 指定避難所データ
    • 避難所収容人数
    • 浸水継続時間
    • 高齢者人口

    を組み合わせることで、

    「どの避難所に、どれだけの避難者が集中するのか」

    を建物単位でシミュレーションしてみます。

    具体的には、

    • 避難所ごとの想定避難者数
    • 避難所収容能力との比較
    • 避難所不足地域の抽出
    • 浸水区域内避難所の影響評価
    • 避難距離を考慮した避難所再配置の検討

    などを行う予定です。

    建物単位人口データを利用することで、従来の町丁目単位では把握できなかった、

    「本当にその避難所配置で十分なのか」

    という視点から、防災計画を見直すことができるかもしれません。

    次回も、PLATEAU、ArcGIS、生成AIエージェントを組み合わせた新しい防災分析の可能性について検証していきます。

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