自治体GISとAIの融合 ~自然言語でGISデータを活用する時代へ~

【自治体GIS×生成AIシリーズ】

本記事は、生成AIとGISを活用した自治体業務の実証シリーズの第1回です。

▶第2回:ArcGIS Onlineと生成AIを連携した人口統計分析の実証
▶第3回:生成AIとGISで健康遊具の優先整備地区を抽出してみた

はじめに

自治体では近年、GIS(地理情報システム)の活用が進み、多くの業務で位置情報を活用したデータ整備が行われています。

しかし実際には、

  • GISデータは整備されている
  • WebGISも導入されている
  • ダッシュボードも構築されている

にもかかわらず、

「GIS担当者しか使えない」

という課題を抱える自治体は少なくありません。

GISは本来、位置・空間・時間・属性を統合して分析できる強力な仕組みです。

しかし、その活用には専門知識やGISソフトウェアの操作スキルが必要でした。

今回、地域GIS研究所では ArcGIS Online と AI を連携し、自然言語によってGISデータを検索・分析・更新する検証を実施しました。

対象は和泉市で整備を進めている「遊具マップPOC」です。

検証の結果、従来はGIS担当者が実施していたデータ整備や分析業務を、自然言語によって実行できることを確認しました。


今回の検証環境

今回構築した仕組みは以下のとおりです。

職員
↓
自然言語
↓
AI(Codex)
↓
MCP Server
↓
ArcGIS Online
↓
WebMap・FeatureLayer

MCP(Model Context Protocol)は、AIと外部システムを接続する仕組みです。

これによりAIは、

  • ArcGIS Onlineの検索
  • レイヤ構造の確認
  • 属性更新
  • 空間分析

を実行できるようになります。


従来のGIS業務フロー

遊具不足公園の抽出

例えば、

「人口が多いのに遊具が少ない公園を抽出する」

という分析を行う場合、

従来は以下の作業が必要でした。

遊具レイヤ準備
↓
遊具数集計
↓
町丁目人口データ取得
↓
空間結合
↓
フィールド計算
↓
集計
↓
Excel出力
↓
職員確認
↓
ランキング作成

GIS担当者が ArcGIS Pro を操作しながら実施する典型的な業務です。


人口・世帯情報の付与

公園ポリゴンへ人口・世帯を付与する場合は、

公園ポリゴン
↓
町名ポリゴン
↓
Spatial Join
↓
フィールド追加
↓
フィールド計算
↓
目視確認
↓
エラー修正
↓
更新

が必要でした。

表記ゆれや空間誤差がある場合は、職員が個別に確認する必要があります。


市民問い合わせ対応

例えば、

「孫に逆上がりを教えたいので、近くに鉄棒のある公園はありますか?」

という問い合わせがあった場合、

遊具マップ(関連記事)の使用環境がある職員は

遊具マップ起動
↓
鉄棒を検索
↓
対象公園確認
↓
位置確認
↓
電話回答

という対応が可能です。

従来の紙台帳やExcel管理と比較すると、大幅な効率化が図られています。

しかし、この場合でも職員は、

逆上がり

鉄棒

という関係を頭の中で判断する必要があります。

また、

高鉄棒
低鉄棒
健康鉄棒

などの違いも理解した上で検索しなければなりません。


AIとGISによる検証結果

① 公園遊具の検索

AIに対して、

「青葉台1号公園の遊具を調べて」

と入力すると、

  • 遊具数
  • 遊具種別
  • 関連町丁目
  • 人口
  • 世帯数

を自動で集計して回答しました。


② 人口・世帯の自動補完

AIへ

「和泉市_都市公園レイヤに人口と世帯のフィールドを追加して、和泉市_町名レイヤから転記して」

と指示しました。

結果は、

  • 対象公園数:342件
  • 空間照合成功:341件
  • 表記ゆれ補完:1件
  • 未転記:0件

でした。

さらに、

府中町7丁目
↓
府中町七丁目

という表記ゆれも自動で判定し補完しました。


③ 公園ポリゴンへの人口付与

次に、

izumi_parkP ポリゴンレイヤに対して、

人口・世帯を付与する作業を実施しました。

結果は、

  • 対象:343件
  • 更新成功:343件
  • 未転記:0件
  • 複数町名にまたがる公園:79件

でした。

複数の町丁目にまたがる公園については、

AIが

公園ポリゴン
↓
町名ポリゴン
↓
重なり面積計算
↓
最大面積の町名を採用

という判断を行いました。

これは従来であれば、ArcGIS Proの空間解析によって実施していた処理です。


④ 遊具不足公園の抽出

さらに、

「人口が多いのに遊具が少ない公園を抽出して」

という自然文から、

人口・世帯・遊具数・遊具種別を統合し、

遊具整備優先度ランキングを作成しました。

これは単なる検索ではなく、政策判断支援に近い分析です。


市民の問い合わせにAIを活用した場合

AIに対して、

「孫に逆上がりを教えたい」

と入力すると、

AIは質問の意図を理解し、



幼児・小学校低学年

逆上がり

低鉄棒

と解釈します。

さらに、

  • 鉄棒の有無
  • 公園の位置
  • 利用しやすさ

などを考慮しながら候補公園を抽出できます。

つまり、

遊具の種類を検索する

のではなく、

市民がやりたいこと

から適切な公園を探せるようになります。

また、

「3歳の子どもを遊ばせたい」

という問い合わせに対しても、

  • 幼児用すべり台
  • スプリング遊具
  • 砂場

などを持つ公園を抽出できます。

これは遊具マップを市民自身が利用するだけでなく、

職員による問い合わせ対応支援としても活用できます。


GISとAIの組み合わせが生み出す価値

GISは、

どこに何があるか

を管理する仕組みです。

一方でAIは、

何をしたいのか

を理解できます。

この二つを組み合わせることで、

位置情報

施設情報

利用目的

を結び付けた新しい行政サービスが可能になります。


MCP Inspectorによる説明責任

自治体業務では説明責任が重要です。

今回の検証では MCP Inspector を活用し、

  • どのツールを実行したか
  • どのデータを参照したか
  • どのような更新を行ったか

を確認しました。

AIが処理を実行しても、

その内容を追跡・検証できるため、

自治体業務に求められる透明性を確保できます。


GISとAIが変える自治体業務

GISデータは、

  • 位置
  • 空間
  • 時間
  • 属性

を持っています。

AIは自然言語を理解します。

この二つを組み合わせることで、

これまでGIS担当者だけが実施していた業務を、

より多くの職員が活用できる可能性があります。


今後の可能性

今回の検証は遊具管理を対象としましたが、

同じ考え方は、

  • 樹木管理
  • 公園施設管理
  • 街路灯管理
  • 防災施設管理
  • 道路台帳管理
  • 人流分析

などにも応用できます。

将来的には、

「人口が多いのに遊具が少ない地域は?」

「D判定の樹木が多い公園は?」

「高齢化が進む地域で健康遊具が不足している公園は?」

といった問いに対し、

位置・空間・時間・属性を持つGISデータを生成AIが理解し、

職員が自然文で問い合わせるだけで分析結果を得られる時代が到来すると考えています。

GISは専門職だけのツールから、組織全体の意思決定を支援する基盤へと進化していくでしょう。


まとめ

今回の検証では、

GISデータ作成
↓
データ整備
↓
問い合わせ対応
↓
政策判断

までを自然言語で支援できる可能性を確認しました。

これは単なるAIチャットではありません。

位置・空間・時間・属性を持つGISデータを、誰もが自然文で活用できる世界への第一歩です。

地域GIS研究所では、今後も自治体業務における AI × GIS の可能性を検証し、その成果を発信していきます。

業界動向と今回の検証

2026年5月には、アジア航測株式会社が生成AIエージェントを活用した行政向けGIS支援基盤「ALANDIS+GeAI(仮称)」を発表しました。

また、2026年6月には、株式会社インフォマティクスが提供する防災GISサービス「GC Navi」において、生成AIによるチャット機能の提供を開始しています。

このように、GISと生成AIを連携させる取り組みは、行政分野における新たな潮流となりつつあります。

今回の検証では、ArcGIS Onlineと生成AIを連携し、

・GISデータの検索
・属性情報の更新
・空間分析の実行
・問い合わせ対応支援
・政策判断支援

までを自然言語で実行できる可能性を確認しました。

GISは、位置・空間・時間・属性を持つ自治体の重要なデータ基盤です。

これまでGISは専門職が利用するシステムとして発展してきましたが、生成AIとの連携により、今後は職員が自然な文章でGISを活用できる環境へ発展していくことが期待されます。

地域GIS研究所では、GIS・統計・AIを組み合わせた自治体業務への活用について、引き続き検証と研究を進めています。

MCP Inspectorによる説明責任

自治体業務では、

  • なぜその結果になったのか
  • どのデータを使ったのか
  • どのような処理を行ったのか

を説明できることが重要です。

今回の検証では、MCP Inspectorを利用してAIが実行したGIS処理を確認しました。

例えば、

AIへ

「人口が多いのに遊具が少ない公園を抽出して」

と指示した場合、AIは単に文章を生成しているわけではありません。

実際にはArcGIS Online上のGISデータに対して検索処理を実行しています。


AIが実際に実行した処理

今回の例では、AIは以下の処理を行いました。

① 施設名レイヤ(Equipment_POC)を参照

② 人口1000人以上のレコードを抽出
(JINKO >= 1000)

③ 人口順に並べ替え
(JINKO DESC)

④ 公園名・遊具名・人口・世帯を取得

⑤ 結果を集計して回答

MCP Inspectorで確認した実行内容

実際にAIが実行した検索条件

使用ツール
query_layer_with_fields

検索レイヤ
Equipment_POC

検索条件
JINKO >= 1000

並び順
JINKO DESC

取得項目
公園名
遊具名
人口
世帯
町丁目

下図 MCP Inspectorによる実行内容確認例

(PCスクリーンショット)

①入力内容

②出力内容


AIはブラックボックスではない

今回の検証では、

AIが

人口1000人以上の遊具を抽出しました

と回答しただけではありません。

その裏側で、

  • どのレイヤを使ったのか
  • どの条件で検索したのか
  • どの結果を取得したのか

まで確認できました。

つまり、

AIの回答

実際のGIS処理

を追跡できます。


ArcGIS Proとの関係

従来のGIS業務では、

空間結合
フィールド演算
統計集計

などの処理内容を、

ArcGIS Proの「ジオプロセシング履歴」で確認していました。

MCP Inspectorは、

AIが実行したGIS処理について、

どのツールを使ったか
どのデータを参照したか
どのような結果を返したか

を確認できるため、

AI時代の「ジオプロセシング履歴」や「監査ログ」に近い役割を果たします。

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