◎ 本記事のポイント 本分析では、 AIカメラとGISを用いてイベント会場を分析した結果、
「人が多い場所」が最も賑わっているのではなく、
・通行が活発 ・滞在が発生 ・視認性が高い
といった「量」と「構造」の組み合わせが、 賑わいに影響していることが分かりました。
これは、 自治体イベントや公共空間活用において、 配置計画や導線設計の重要性を示しています。
■ イベントの賑わいは「人数」では決まらない
本分析の対象となった実証事例
本記事で紹介する分析は、横浜市・みなとみらい21地区で開催された 「みなとみらい Christmas Market」における屋外イベント人流分析をもとにしています。
本実証では、IoTカメラとAIによる人物検出、GISによる可視化、 統計分析を組み合わせ、イベント会場における来場規模、混雑状況、通過・滞留の関係を定量的に把握しました。
イベントの評価は、これまで「来場者数(人数)」で行われることが一般的でした。
しかし現場では、
・人は多いが、賑わっていない ・混雑しているが、滞在されていない ・通過しているだけで、売上や回遊につながらない
といった状況が発生します。
つまり、
「人数=賑わい」とは限らない
という課題があります。
本記事では、実際のイベントデータをもとに、 賑わいを構造的に捉える分析手法を解説します。
■ AI×GIS分析で分かった イベントの賑わいは「人数」だけでは決まらない理由
イベント会場では、同じ人数でも状況は大きく異なります。
例えば、
・会場の外を通過する人が多い状態 ・会場内部に入り、滞在・回遊している状態
では、見た目の印象も実際の効果も全く異なります。
重要なのは、
「どれだけ人がいるか」ではなく 「どのように人が動いているか」
です。
つまり、賑わいは「量」ではなく「構造」で決まります。
■ 本分析で導入した指標
図:会場内流動性(inside_ratio)と賑わいの関係
本分析では、賑わいは直線的に増加するのではなく、 一定のポイントで最大となる「山型(非線形)構造」であることが確認されました。
これは、通過と滞在が適度に混在している状態が、 最も賑わいとして認識されることを示しています。
■ 最重要ポイント
分析の結果、
最も賑わって見える状態は、
inside_ratio ≈ 0.44
であることが分かりました。
つまり、
通行人と滞在者が適度に混在している状態
が最も賑わいとして認識されることを意味します。
■ なぜこの結果が重要か
この結果は、イベント運営の考え方を大きく変えます。
これまでのように、
「とにかく人を増やす」
のではなく、
・滞在を促す導線設計 ・回遊性を高める配置 ・通過と滞在のバランス調整
が重要であることを示しています。
つまり、
賑わいは「設計できる」ものです。
■ さらに分かったこと(信頼性)
本分析では、他にも以下の点が確認されました。
・天候は来場者数に影響する(有意差あり) ・人流構造(内側化率)は天候に左右されにくい ・エリアごとに人の動き方が異なる
これにより、
イベントの評価を感覚ではなく、 データで説明できる状態が実現されます。
■ みなとみらい21地区で実施した人流分析の概要
本分析は、みなとみらい21地区で開催されたクリスマスマーケットを対象に、 屋外イベントにおける賑わいを、AIカメラとGISを用いて定量的に把握したものです。
観測期間は2025年12月15日から12月25日までの11日間、 観測時間は各日11:00から21:30までとし、 会場内外に設置した5台の可動式IoTカメラを用いてデータを取得しました。
上図の5台のカメラには、それぞれ異なる役割を持たせています。
・F1:会場内側導線の通過量を把握 ・F2:会場外縁部の通過量を把握 ・C1、C2、C3:会場内部の賑わい・滞留状況を把握
このように、入口や外縁部を通る人の流れと、 会場内で滞在・回遊する人の状況を分けて観測することで、 単なる人数計測では把握できない 「イベント空間の使われ方」を分析しました。
■ 毎分スナップショットとAI解析による観測方式
本実証では、各カメラから毎分スナップショット画像を取得し、 AIによる人物検出を行いました。
取得したデータは、5分単位および15分単位で集計し、 ArcGISを用いたマップ・ダッシュボード上で可視化しました。
この仕組みにより、
・時間帯ごとの賑わいの変化 ・会場内のエリア別の混雑傾向 ・外縁を通過する人と内部へ入る人の構造 ・曜日や天候による違い
を継続的に把握できます。
また、本分析では個人を特定する追跡は行わず、 静止画像から人数と空間的な集積状況を把握する方式としました。 公共空間でのイベント評価において、 プライバシーに配慮しながら運営改善に必要なデータを取得する方法です。
■ 人数ではなく「量」と「構造」で賑わいを見る
本分析では、イベントの賑わいを次の2つの視点から評価しました。
賑わい量
C1、C2、C3の3つの賑わい観測エリアで検出された人数を集計し、 会場内部にどの程度人が集まっていたかを把握する指標です。
この値は、ユニーク来場者数ではなく、 特定エリアにおける人の集積や滞留の厚みを示します。
内側化率(inside_ratio)※会場内への流入割合
会場外縁部を通る人流に対して、 どの程度の人が会場内部の導線へ入り込んでいるかを示す構造指標です。
inside_ratio = F1 ÷(F1 + F2)
この指標により、 外縁部を通過するだけの人が多い状態と、 会場内部に入り、滞在・回遊する人が多い状態を区別できます。
つまり、イベントの賑わいは 「どれだけ人がいたか」という量だけでなく、 「人がどのように会場を利用していたか」という構造とあわせて 評価することが重要です。
■ 11日間の観測で確認された主な結果
1. 内部滞在が強い日ほど、賑わい規模も大きい傾向
11日間の日別データを分析した結果、 内側化率が高い日ほど推定延べ入場者数も多くなる傾向が確認されました。
両者の間には中程度の正の相関 (相関係数 r = 0.62)が認められています。
これは、単に会場周辺を通る人を増やすだけでなく、 来場者が内部へ入り、滞在・回遊しやすい空間をつくることが、 イベントの賑わい形成に関係することを示唆しています。
2. 平日と休日では、賑わう時間帯が異なる
休日は、平日に比べて日中から夕方にかけて 会場内部の賑わい量が高くなる傾向が確認されました。
一方、18時以降は休日の減少幅が比較的大きく、 休日は日中から夕方に来場が集中し、 夜間は早い時間帯から減少する行動特性が見られました。
この結果は、スタッフ配置や誘導計画を 曜日・時間帯別に検討する必要性を示しています。
3. 雨天時には賑わい量が有意に低下
降雨時と非降雨時の賑わい量を比較した結果、 Wilcoxon順位和検定において 統計的に有意な差が確認されました(p = 0.0004)。
降雨は、会場内部に集まる人の規模を低下させる要因として 明確に確認されました。
一方、内側化率については、 降雨時と非降雨時で統計的に有意な差は確認されませんでした。
この結果から、来場規模は天候に影響を受ける一方で、 内部へ入り込む人流構造は、 賑わい量とは別の視点で評価する必要があることが分かります。
■ GISで明らかになったエリアごとの役割
会場内部のC1、C2、C3を比較した結果、 各エリアには異なる賑わい特性があることが確認されました。
C1とC2は強い相関を示し、 会場内の主要な賑わい変化をほぼ同時に捉えるエリアでした。
一方、C3はC1・C2に対して15分から30分程度遅れて 賑わいが高まる傾向が確認されました。
これは、主動線を通過した来場者が、 時間差を伴って別の場所に滞留する構造を示しています。
また、時間帯別に見ると、
・平日はC2が安定した主動線的エリア ・休日の夕方以降はC3で賑わいが集中しやすい ・C1は全体人流の分散に関係する補助的エリア
という特徴が確認されました。
このような違いは、会場全体の人数だけでは把握できません。 GIS上で場所と時間を重ねて確認することで、 重点的に監視・誘導すべき場所を 曜日や時間帯に応じて検討できるようになります。
■ 可視化情報は来場者向け情報提供にも活用可能
本実証では、AI解析により取得した賑わいデータを ArcGISによる「にぎわい度MAP」として可視化しました。
にぎわい度MAPの閲覧数と推定延べ入場者数の関係を分析した結果、 両者の間には中程度の正の相関 (相関係数 r = 0.43)が確認されました。
閲覧数だけで来場行動を説明することはできませんが、 混雑や賑わいの可視化情報が、 来訪者への情報提供手段として一定の可能性を持つことが示されました。
今後、Webサイト、SNS、現地サイネージなどと連携することで、 混雑回避や回遊促進、来場判断支援への展開も考えられます。
■ 実証データの信頼性と利用上の留意点
本分析では、観測開始後の2日間についてデータ欠損状況を確認しました。
・総レコード数:6,310件 ・欠損レコード数:470件 ・欠損率:7.45%
欠損は特定のカメラだけで発生したものではなく、 API取得側の一時的な影響によるものと整理されています。
本分析は瞬間的な人数の断定ではなく、 5分単位・15分単位での傾向把握や相対比較を重視しているため、 日別・時間帯別の傾向解釈への影響は限定的と評価されました。
なお、本分析で扱う賑わい量や推定延べ入場者数は、 個人を識別して厳密な実来場者数を集計したものではありません。 イベント運営、安全管理、空間改善の判断材料として、 人流の変化と構造を説明可能にするための指標です。
■ 行政にとっての価値
本分析は、 イベント評価だけでなく、
・回遊性の改善 ・滞留空間の設計 ・公共空間活用
にも応用可能です。
特に自治体においては、
◎ 説明責任(EBPM)
を果たすうえで重要な基盤となります。
■ まとめ
みなとみらい21地区のクリスマスマーケットにおける本実証では、 5台のIoTカメラ、AI人物検出、GIS可視化、統計分析を組み合わせ、11日間にわたってイベント空間の賑わい構造を分析しました。
その結果、イベント評価では、単なる人数の多さだけでなく、
・会場内部へ人が入り込んでいるか ・どの場所に滞在が生じているか ・曜日や時間帯によって混雑構造がどう変化するか ・天候によって来場規模がどう変わるか
をあわせて把握することが重要であると確認されました。
特に、内側化率と賑わい量を組み合わせることで、 「人は多いが通過中心の状態」と 「内部で滞在・回遊が生まれている状態」を 区別して説明できるようになります。
また、GISによる可視化により、 平日と休日で重点的に確認すべきエリアや時間帯が異なることも 運営判断に活用できる形で整理されました。
AIカメラとGISを活用した人流分析は、 イベントの効果検証だけでなく、 誘導計画、安全対策、公共空間の改善、 次年度イベント設計の根拠づくりにも展開可能です。
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