自治体GIS×生成AI 実践シリーズの4回目です。
本記事では、岡崎市の人流カメラから蓄積されるデータを、PLATEAU建物人口、GISによる都市構造分析、生成AIによる地域魅力の評価と組み合わせ、政策立案や住民との合意形成に活用するGISダッシュボードの考え方を紹介します。
人流データは蓄積される。しかし…
岡崎市では、人流カメラから毎日データが収集され、ダッシュボードへ反映されます。
運用が始まれば、このデータは10年間蓄積されます。
しかし、
単にグラフが増えるだけでは、
「今日は人が多かった」
という確認に留まってしまいます。
本当に必要なのは、
人流データを都市構造と結び付け、政策へ活用すること
です。
本シリーズでは、そのための分析基盤を構築してきました。
そしてVol.4では、その成果をダッシュボードへ実装する考え方を紹介します。
1 分析は完成ではなくスタート
本シリーズでは、PLATEAU建物データ、GIS、生成AI、統計解析を組み合わせ、人流を説明するモデルを構築してきました。
しかし、本研究の目的は、人流を予測することではありません。
重要なのは、
人流に影響する都市要素を明らかにし、その成果を日常業務で活用できる形へ変えること
です。
分析結果が報告書で終わるのであれば、自治体業務は変わりません。
今回構築したモデルは、そのまま政策評価の指標として利用できます。
2 今回得られた成果
これまで構築してきた成果は次のとおりです。
- PLATEAU建物人口モデル
- GISによる400m到達圏分析
- AIによる魅力度指標
- 主成分分析による都市構造評価
- 重回帰による人流モデル
これらは個別の分析ではなく、一つのデータ基盤として連携しています。
図1:人流モデル構築の全体フロー

図1は、本シリーズ全体の分析フローをまとめたものです。
PLATEAUから建物人口を構築し、GISで400m到達圏の都市構造を集計します。
さらに生成AIによって魅力度や滞留性などの定性的な情報を数値化し、統計解析によって人流との関係をモデル化しました。
本研究では、これらを個別の分析ではなく、一連のデータ処理として構築した点が特徴です。
3 ダッシュボードへ組み込む
現在構築している岡崎市のダッシュボードでは、
- 時間帯別人流
- 年齢構成
- カメラ位置
などが表示されます。
ここへ今回作成した指標を追加すると、
従来
「人が多い」
だけだった画面が、
「なぜ人が多いのか」
まで理解できる画面になります。
例えば、
都市構造評価
- 都市集積性(FC1)
- 都市アクセス性(FC2)
- 商業・回遊性(FC3)
- 居住性(FC4)
AI評価
- Attraction Score(魅力度)
- Dwell Score(滞在性)
人流ポテンシャル
- 平日
- 休日
政策評価
- 改善余地
- 都市機能バランス
- 人流ポテンシャル
これらを同じ画面へ表示することで、
結果
だけではなく、
要因
まで確認できるようになります。
図2:人流ダッシュボードイメージ図

例えば、担当職員が地図上でカメラをクリックすると、
その地点の
- 実測人流
- 都市集積性
- 商業・回遊性
- 建物人口
- AI魅力度
が表示されます。
さらに、
実測人流とモデルによる予測値との差を比較することで、
「人が集まり過ぎている場所」
「本来もっと人が集まる可能性がある場所」
を把握できます。
4 政策評価指標として利用する
例えば、
実測人流は少ないものの、
都市構造評価は高い場所があったとします。
この場合、
現状では十分な魅力が発揮されていない可能性があります。
逆に、
人流は多いものの、
都市構造評価が低い場所は、
イベントなど一時的な要因で人が集まっている可能性があります。
このように、
単なる人流のランキングではなく、
都市構造と比較しながら評価できることが、
今回構築したモデルの特徴です。
表1 都市構造評価に基づく政策検討シナリオ
| ダッシュボードの評価 | 考えられる状況 | 政策検討例 |
|---|---|---|
| 都市構造評価:高人流:少 | 潜在力はあるが十分活用されていない | イベント開催、情報発信強化、歩行者動線の改善、休憩空間の整備 |
| 都市構造評価:低人流:多 | 一時的な集客に依存している可能性 | 継続的な滞在環境の整備、回遊ルート形成、周辺施設との連携 |
| 商業・回遊性(FC3)が低い | 回遊性が不足 | ベンチ、サイン、歩行空間、オープンカフェ等の滞留空間整備 |
| AI魅力度が低い | 景観・店舗情報などの魅力が不足 | 景観改善、ライトアップ、店舗誘致、SNS・観光情報発信 |
| 建物人口は多いが人流が少ない | 居住人口が回遊へつながっていない | 地域イベント、生活サービス充実、歩いて楽しめる仕掛けづくり |
ダッシュボードの目的は、施策を自動的に決定することではありません。都市構造評価や人流ポテンシャルを基に、改善余地のある地点を抽出し、どのような施策を優先的に検討すべきかを職員が判断するための支援ツールとして活用することです。
政策立案だけでなく、住民との合意形成にも活用
ダッシュボードの役割は、行政内部の政策立案を支援することだけではありません。
都市構造評価や人流分析の結果を地図やグラフで可視化することで、
「なぜこの場所を優先して整備するのか」
「なぜこのエリアで回遊性向上の施策を進めるのか」
といった行政の判断を、データに基づいて説明できるようになります。
例えば、
都市構造評価は高いものの人流が少ない地点では、潜在的な魅力が十分に発揮されていない可能性が考えられます。
そのような地点では、
- ベンチや滞留空間の整備
- イベントやマルシェなどの開催
- 歩行者サインや案内板の充実
- 夜間利用を促す街灯や景観照明の整備
- 周辺店舗や公共施設と連携した回遊ルートの形成
といった施策を検討する候補として位置付けることができます。
また、再開発や交通規制、歩行者空間の再編など、住民の理解を得ることが重要となる施策についても、人流データや都市構造評価を客観的な資料として示すことで、行政の考え方を分かりやすく説明する材料になります。
もちろん、最終的な政策決定には地域特性や住民意見、財政面など様々な要素を考慮する必要がありますが、本研究で提案したダッシュボードは、その議論を支える共通の情報基盤として活用できる可能性があります。
5 カメラ位置が変わっても活用できる
今回の分析では17地点を対象にモデルを構築しました。
しかし、
このモデルは17地点専用ではありません。
評価しているのは
カメラ周辺400mの都市構造
だからです。
新たなカメラを設置した場合でも、
GISで400m到達圏を作成し、
建物人口や道路、AI魅力度などを再集計することで、
同じ評価モデルを適用できます。
つまり、
モデルを作り直す必要はなく、
評価対象だけを更新すればよい仕組みとなっています。
これは、実際に岡崎市でカメラ配置を見直した際にも同じ考え方で対応できることを確認しました。
6 データが蓄積されるほど価値が高まる
ダッシュボードには毎日人流データが蓄積されます。
その結果、
季節
曜日
イベント
社会情勢
などの変化も分析できるようになります。
モデルも定期的に更新することで、
政策評価指標はより精度の高いものへ発展していきます。
これは、一度作って終わる分析ではなく、
運用しながら育てる分析基盤と言えます。
運用イメージ
例えば、
休日に大型イベントを開催した場合、
ダッシュボードには
当日の人流が自動的に反映されます。
さらに、
モデルによる予測値と比較することで、
イベントによる効果を定量的に評価できます。
また、
翌年に同じイベントを開催した場合も、
前年との比較が容易になります。
10年間蓄積されたデータは、
単なる履歴ではなく、
都市施策を検証するための資産になります。
近年はデジタルツインの活用が注目されています。しかし、都市を3Dで表現するだけでは政策立案には十分ではありません。本研究で示したように、人流や都市構造を継続的に分析し、評価指標としてダッシュボードへ実装することで、デジタルツインは「見る」ための技術から、「判断する」ための基盤へ発展します。
7 地域特性に応じた横展開
本研究の特徴は、PLATEAUや人流カメラといった個々の技術にあるのではありません。
それらを組み合わせ、地域固有の魅力を説明変数として取り込み、人流との関係を分析するフレームワークを構築したことにあります。
岡崎市では、QURUWAエリアの飲食店や商業施設、回遊拠点、歴史・文化資源などをAIで整理・評価し、人流モデルの説明変数として活用しました。
つまり、岡崎市で構築したのは**「岡崎市専用のモデル」ではなく、「地域の魅力をデータ化して人流と結び付ける方法論」**です。
そのため、他都市へ展開する場合も、地域固有の情報をAIで整理・構造化することで、同じ分析フレームワークを適用できます。
例えば、横浜みなとみらい21であれば、
- ウォーターフロント
- 大規模オフィス
- 商業施設
- MICE施設
- ランドマーク
- イベント空間
- 観光資源
など、その地域を特徴付ける要素をAIで整理し、GIS上で説明変数として構築することで、岡崎市と同じ分析プロセスを適用できます。
説明変数は都市ごとに変わりますが、
- PLATEAUによる建物人口
- GISによる空間集計
- AIによる地域資源の構造化
- 統計解析による人流モデル
- ダッシュボードによる政策評価
という分析の流れは共通です。
つまり、本研究で提案したのは、特定の都市だけに通用する分析手法ではなく、地域特性に応じて説明変数を柔軟に組み替えられる汎用的な分析フレームワークと言えます。
8 まとめ
今回構築したモデルは、
人流を予測するためだけのものではありません。
GIS、AI、統計解析によって得られた都市構造評価を、
そのまま人流ダッシュボードへ組み込むことで、
職員は
「人が集まっている」
だけではなく、
「なぜ集まるのか」
「改善するには何を優先すべきか」
まで把握できるようになります。
分析結果を政策評価指標として日常業務へ取り込み、継続的に改善へ活用することこそ、本研究が目指す最終的な姿です。
本シリーズで紹介した内容は、岡崎市の事例を用いて構築した分析フレームワークです。
しかし、その考え方は特定の自治体だけに限定されるものではありません。
人流カメラ、PLATEAU、GIS、AIを組み合わせた分析手法は、説明変数を地域特性に応じて再構成することで、
他都市へも展開できる可能性があります。
岡崎市で検証した一連のプロセスは、人流データを政策へ活用する実務フレームワークとして整理したものであり、地域特性に応じて説明変数を見直すことで、他都市への展開も期待できます。
おわりに
本シリーズでは、PLATEAU、GIS、生成AI、統計解析を組み合わせ、都市データを政策へつなげる一連のプロセスを紹介しました。
岡崎市で構築したモデルは、人流を分析するためだけのものではありません。
人流カメラから日々蓄積されるデータを都市構造と結び付け、ダッシュボード上で継続的に評価することで、都市の変化を把握し、施策の効果を検証し、その結果を次の政策へ反映していくことができます。
このような運用を継続することで、データが蓄積されるほどダッシュボードの価値は高まり、自治体の意思決定を支える基盤へと成長していきます。
本シリーズが提案したのは、単なる分析手法ではありません。
「分析が日常業務の中で循環する仕組み」
を構築することです。
GIS、PLATEAU、生成AI、統計解析を連携させ、分析結果をダッシュボードへ実装し、日々蓄積されるデータを継続的な政策立案へ結び付けていく――。
それこそが、本シリーズで提案する自治体GIS活用の姿です。
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