カテゴリー: 統計分析・EBPM

統計分析やEBPM(Evidence Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)に関する記事を掲載しています。

自治体が保有する各種データを活用し、客観的な分析による政策判断や事業評価の手法を紹介しています。

  • 公開データ・PLATEAU・OSM・生成AIを組み合わせた基本単位区5歳階級人口モデルの構築

    ~町丁目統計を基本単位区へ配分する人口モデルの構築~

    本記事は、生成AIとGISを活用した自治体業務の実証シリーズの第15回です。

    関連記事▶PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か

    第10回の記事では、250m人口メッシュを基に建物人口モデルを構築し、公開データを活用した建物単位の人口推計手法を紹介しました。しかし、人口メッシュを直接建物へ配分する方法では、工場や学校、商業施設など、実際には居住しない建物にも人口が配分される可能性がありました。また、250mメッシュでは建物単位の人口分布を表現するには精度にも限界があります。

    そこで本記事では、e-Statで公開されている統計データを組み合わせて基本単位区5歳階級人口を作成するとともに、OSMのPOIデータを活用して人口を付与すべき建物を抽出する手法を構築しました。

    建物データには、国土交通省が公開するPLATEAU建物モデルから作成した建物フットプリントを利用し、基本単位区人口を配分する対象としています。

    本記事では、使用した公開データの選定から人口配分モデルの構築、人口付与対象建物の抽出、そして人口保存の検証まで、一連の作成過程を紹介します。


    はじめに

    前回、第10回では、PLATEAU LOD1建物データと250m人口メッシュを利用し、公開データだけによる建物単位人口推計モデルを作成しました。

    その後、GIS上で結果を確認すると、一つの課題が見えてきました。

    250m人口メッシュでは、住宅だけでなく工場や学校、商業施設など、実際には居住していない建物にも人口が配分されてしまうケースがあったのです。

    この課題を改善するためには、人口を配分する建物を適切に判定するとともに、人口データそのものも見直す必要がありました。

    e-Statには国勢調査の人口データや境界データが公開されていますが、調査を進めると、建物人口モデルに必要な情報は一つのデータだけでは揃わないことが分かりました。

    例えば、建物への人口配分に適した基本単位区では5歳階級人口が公開されていません。一方、小地域(町丁・字等)では5歳階級人口が公開されています。

    そこで今回は、小地域の5歳階級人口を基本単位区へ配分し、その結果を建物人口モデルの基礎データとして利用することにしました。また、PLATEAU建物フットプリントとOSMのPOIデータ(OpenStreetMap(OSM)のPOI(Point of Interest:施設情報)データ)を組み合わせることで、人口を付与すべき建物を抽出する方法についても検討しました。

    本記事では、

    • e-Stat公開データの調査
    • 使用するデータの選定
    • GISデータと統計データの対応付け
    • 基本単位区5歳階級人口の作成
    • 人口を付与する建物の抽出

    までを、実際の作業手順に沿って紹介します。

    同じようにe-Statを利用した人口分析や建物人口モデルの作成に取り組む方が、公開データの選定やデータ整備で迷わないよう、実際につまずいた点や、その都度どのように判断したのかも含めて解説していきます。

    基本単位区へ男女別人口を付与する

    今回使用した主なデータは次のとおりです。

    • 基本単位区ポリゴン
    • 基本単位区男女別人口・世帯数
    • 町丁・字等別男女別5歳階級人口
    • PLATEAU建物フットプリント
    • OSM POIデータ

    このうち、基本単位区5歳階級人口の作成には、e-Statで公開されている最初の3つのデータを使用します。

    しかし、基本単位区ポリゴンには分析に必要な人口属性が十分に含まれていません。そのため、基本単位区コードを用いて男女別人口・世帯数を結合し、人口配分の基礎となるデータセットを作成しました。

    e-Stat公開データを調査する

    建物人口モデルを構築するためには、基本単位区ごとの年齢別人口が必要になります。しかし、e-Statで公開されている国勢調査データを確認すると、必要な情報は一つのデータセットにはまとまっていませんでした。

    まず調査したのは、基本単位区で公開されている人口データです。

    基本単位区では、男女別人口と世帯数は公開されていますが、建物人口モデルで必要となる5歳階級人口は公開されていません。

    一方、町丁・字等(小地域)では男女別5歳階級人口が公開されていますが、空間単位が大きいため、そのままでは建物単位へ人口を配分するには十分な精度が得られません。

    つまり、

    • 基本単位区には人口配分に適した細かな境界があるが、5歳階級人口がない。
    • 町丁・字等には5歳階級人口があるが、建物人口モデルには空間単位が大きすぎる。

    という、それぞれ長所と短所を持つデータであることが分かりました。

    そこで本モデルでは、両者を組み合わせることで、それぞれの長所を活かした人口配分モデルを構築することにしました。

    今回使用したe-Stat公開データは次の3種類です。

    データ用途
    基本単位区ポリゴン人口を配分する最小単位となる境界データ
    基本単位区男女別人口・世帯数基本単位区ごとの男女人口を取得
    町丁・字等別男女別5歳階級人口年齢構成を基本単位区へ配分するための基礎データ

    これら3つのデータをGIS上で対応付けることで、基本単位区ごとの男女別5歳階級人口を推計していきます。

    図1 使用データの関係図


    基本単位区人口データを作成する

    基本単位区ポリゴンには、位置や境界を表す空間情報は含まれていますが、人口配分に必要となる男女別人口や世帯数などの属性は十分に登録されていません。

    そのため、まず基本単位区コードを共通キーとして、基本単位区ポリゴン基本単位区男女別人口・世帯数を結合し、人口属性を持つ基本単位区データを作成しました。

    この処理により、各基本単位区について、

    • 男性人口
    • 女性人口
    • 総人口
    • 世帯数

    をGIS上で利用できるようになります。

    しかし、この時点では年齢別人口は含まれていません。

    建物人口モデルでは5歳階級人口が必要ですが、e-Statでは基本単位区単位の5歳階級人口は公開されていないためです。

    そこで次の工程では、町丁・字等で公開されている男女別5歳階級人口を利用し、基本単位区ごとの年齢構成を推計していきます。

    図2 基本単位区ポリゴンと男女別人口・世帯数の結合


    町丁・字等の5歳階級人口を基本単位区へ配分する

    基本単位区データに男女別人口を付与したことで、人口配分の基礎となるデータセットが完成しました。

    しかし、この時点では各基本単位区に年齢構成はありません。

    一方、e-Statでは町丁・字等単位で男女別5歳階級人口が公開されています。

    そこで本モデルでは、町丁・字等の5歳階級人口を、その内部に存在する基本単位区へ配分する方法を採用しました。

    ただし、町丁・字等の人口を単純に均等配分したり、面積だけで按分したりすると、実際の人口分布とかけ離れた結果になる可能性があります。

    例えば、同じ町丁目の中でも、基本単位区ごとに人口規模は大きく異なります。住宅が密集する区域もあれば、公園や道路、公共施設が多い区域もあり、同じ面積だからといって同じ人口が居住しているとは限りません。

    そこで今回は、既に付与した基本単位区の男女別人口を重みとして利用しました。

    具体的には、町丁・字等ごとの男性5歳階級人口は、基本単位区の男性人口比率で配分し、女性5歳階級人口は女性人口比率で配分します。

    この方法により、

    • 男女別人口
    • 年齢構成
    • 町丁・字等の総人口

    の整合性を保ったまま、基本単位区ごとの5歳階級人口を推計することができます。

    また、男女別に配分することで、男性と女性で人口分布が異なる地域でも、その特徴をできるだけ維持したまま年齢構成を基本単位区へ反映できます。

    この処理をすべての町丁・字等について実施することで、基本単位区単位の男女別5歳階級人口データを作成しました。

    図3 男女別人口比を利用した5歳階級人口の配分イメージ


    基本単位区5歳階級人口を作成する

    町丁・字等ごとの男女別5歳階級人口を基本単位区へ配分する考え方が決まったら、GIS上で実際に人口配分を行います。

    まず、町丁・字等ポリゴンと基本単位区ポリゴンを重ね合わせ、それぞれの基本単位区がどの町丁・字等に属するかを取得しました。

    次に、前章で求めた男女別人口比を利用し、町丁・字等で公開されているすべての5歳階級人口について、基本単位区ごとの人口を算出します。

    配分対象は0~4歳から85歳以上までの全5歳階級であり、男性・女性それぞれについて同じ処理を行いました。

    その結果、各基本単位区には、

    • 男女別人口
    • 世帯数
    • 男女別5歳階級人口

    が属性として付与され、建物人口モデルの基礎となる人口データが完成しました。

    図4は、町丁・字等の5歳階級人口が基本単位区へ配分され、最終的に基本単位区別5歳階級人口データが作成される流れを示しています。

    図4 基本単位区5歳階級人口データの作成フロー

    これらの処理は、ArcGIS Proの空間解析機能とテーブル結合機能を利用することで実現できます。本検証では、一連のGIS処理をMCP(Model Context Protocol)を介してAIエージェントに実行させ、処理結果を段階的に確認しながら基本単位区5歳階級人口データを作成しました。

    人口を付与する建物を抽出する

    基本単位区5歳階級人口が完成したことで、建物へ人口を配分するための基礎データが整いました。

    しかし、ここでもう一つ解決しなければならない課題があります。

    PLATEAU建物モデルには、住宅だけでなく、工場、学校、病院、商業施設、公共施設など、さまざまな用途の建物が含まれています。

    このすべての建物へ人口を配分すると、実際には人が居住していない建物にも人口が割り当てられてしまいます。

    そこで本モデルでは、OpenStreetMap(OSM)の施設情報(POI:Point of Interest)を利用し、建物の用途を判定することにしました。

    まず、PLATEAU建物フットプリントとOSMのPOIデータを空間的に対応付け、各建物に施設情報を付与します。

    次に、取得した施設情報を基に、

    • 工場
    • 学校
    • 商業施設
    • 医療施設
    • 公共施設
    • その他の非居住施設

    などを抽出し、人口配分の対象から除外しました。

    一方、POIが存在しない建物や住宅として利用されている建物については、人口を配分する対象として扱います。

    この処理により、建物用途を考慮した人口配分が可能となり、前回の250m人口メッシュモデルで課題となっていた「非居住建物への人口配分」を大幅に改善することができました。

    図5は、PLATEAU建物フットプリントとOSM施設情報を利用し、人口を付与する建物を抽出する流れを示しています。

    図5 OSM施設情報を利用した人口付与対象建物の抽出

    秘匿地域への対応

    国勢調査では、個人情報保護の観点から、一部の基本単位区について人口が秘匿されています。

    このような区域では人口値が公開されていないため、そのままでは5歳階級人口を配分することができません。

    しかし、e-Statでは秘匿された基本単位区の人口は、周辺の非秘匿基本単位区へ統合して公表されています。

    そのため、本モデルでは公開されている人口データの構成に従い、秘匿地域を独立した人口区域として扱うのではなく、統合先の基本単位区の一部として処理しました。

    この方法により、

    • 公開されている統計値との整合性を維持できること
    • 人口の二重計上や欠損が発生しないこと
    • 建物人口モデルへそのまま利用できること

    を確認しています。

    つまり、本モデルでは秘匿地域に対して独自の人口推計を行うのではなく、e-Statで公開されている統計体系を維持したまま人口配分を実施しています。

    図6 秘匿地域への対応


    作成した人口モデルを検証する

    建物人口モデルでは、人口を細かな単位へ配分していくため、元の人口が正しく保持されていることを確認する必要があります。

    本モデルでは、基本単位区5歳階級人口を建物へ配分した後、再び基本単位区単位で人口を集計し、元データとの比較を行いました。

    検証では、次の4点を確認しています。

    • 基本単位区人口と建物人口の合計が一致していること
    • 男女別人口が保持されていること
    • 5歳階級人口が保持されていること
    • 人口が存在しない基本単位区では、建物人口も0人となっていること

    図7は、基本単位区人口と建物人口を比較した結果の一例です。

    各基本単位区について、建物人口を再集計した結果は、元の基本単位区人口と一致しており、人口を増減させることなく建物へ配分できていることが確認できました。

    また、住宅が存在しない区域や人口が0人の基本単位区についても、新たな人口は作成されておらず、人口保存の条件が満たされていることを確認しています。

    このような検証を行うことで、人口配分アルゴリズムだけでなく、GIS処理やデータ結合に誤りがないことも同時に確認できます。

    今回の検証では、一連のGIS処理をMCP(Model Context Protocol)を介してAIエージェントに実行させましたが、処理結果は各工程で人が確認し、最終的な人口保存や整合性についても検証を行いました。

    その結果、建物人口モデルの基礎となる基本単位区5歳階級人口データを、公開データのみを利用して構築できることを確認しました。

    図7 基本単位区と建物人口の比較検証

    まとめ

    今回の記事では、e-Statで公開されている複数の統計データを組み合わせることで、基本単位区5歳階級人口を作成する方法を紹介しました。

    さらに、PLATEAU建物フットプリントとOpenStreetMap(OSM)の施設情報を利用して人口を付与する建物を抽出することで、前回の250m人口メッシュを用いたモデルよりも現実に近い建物人口モデルを構築しました。

    今回作成した基本単位区5歳階級人口データは、建物人口モデルだけでなく、避難シミュレーション、生活圏分析、公共施設配置の検討、都市計画、防災分野など、さまざまな空間分析へ応用することができます。

    また、一連の処理はArcGIS ProのGIS機能を用いて実現でき、今回はMCPを利用して処理の自動化と検証を行いました。今後は、このようなGISとAIエージェントを組み合わせたワークフローにより、これまで多くの手作業を必要としていた人口データ整備も、より効率的かつ再現性の高い方法で実施できるようになると考えています。

    あとがき ~MCPが果たした役割~

    今回紹介した人口モデルは、ArcGIS Proの標準機能を利用することで構築できます。

    しかし、本モデルの構築は、単にGISツールを順番に実行すれば完成するものではありませんでした。

    e-Statで公開されている多数の統計データを調査し、利用できるデータを選定し、人口配分方法を検討し、秘匿地域への対応を整理し、OSM施設情報による建物用途の判定方法を考え、さらに人口保存の検証を繰り返すなど、多くの試行錯誤を重ねています。

    このような作業を人の手だけで行うことは、現実には非常に困難です。

    GIS処理そのものよりも、

    「結果を確認し、問題点を見つけ、原因を考え、モデルを修正する」

    という試行錯誤に膨大な時間を要するためです。

    今回の検証では、MCP(Model Context Protocol)を利用してAIエージェントにArcGIS Proの操作や各種解析を実行させ、その結果を対話しながら何度も改善を重ねました。

    重要なのは、AIが自動的に正しいモデルを作成したわけではないという点です。

    GIS技術者が長年培ってきた知識や判断をAIへ伝え、その結果を検証しながらモデルを完成させていく。この「対話による試行錯誤」を高速に繰り返せたことが、MCPを活用した最大の成果でした。

    今回構築した人口モデルは一つの成果物ですが、それ以上に大きな成果は、この構築プロセス自体をAIが再利用できる知識として整理できたことです。

    今後は、こうした知見を蓄積していくことで、人口モデルだけでなく、都市計画、防災、公共施設管理など、さまざまなGIS業務においても、AIエージェントが実務を支援する時代が近づいていると考えています。

    生成AIによるOSM施設情報の分類

    OSMには施設情報(POI)が登録されていますが、人口配分に利用するためには、建物用途ごとに分類する必要があります。

    今回は、MCPを通じて生成AIへ次のような指示を与えました。

    STEP4 POI抽出

    OSM施設情報を抽出する。

    カテゴリ分類は付与してよい。

    行政、教育、医療、福祉、消防、警察、避難所、公園、緑地、駅、バス停、駐車場、商業施設、飲食店、コンビニ、スーパー、郵便局、金融機関、神社、寺院、その他POI

    OSM元属性は保持する。

    生成AIはOSMタグを解析し、施設用途を自動的に分類しました。

    その結果、5,636件のPOIが次のように整理されました。

    カテゴリ件数
    商業施設935
    駐車場585
    飲食店417
    公園433
    バス停381
    医療179
    教育184
    鉄道施設163
    スポーツ施設144
    総計5,636

    (表は主要カテゴリを抜粋)

    このような分類は、OSMタグの種類が非常に多く、人手で一件ずつ整理することは現実的ではありません

    一方で、生成AIによる分類結果をそのまま採用したわけではありません。

    GIS上で建物位置や航空写真を確認しながら分類結果を目視確認し、居住可能性の判定が適切であることを確認した上で、人口を付与する建物を抽出しました。

    つまり、本モデルでは、

    生成AIによる一次分類GISによる目視検証を組み合わせることで、人口配分対象建物を決定しています。

    今回の検証では、AIが正解を導いたわけではありません。

    GIS技術者が

    • モデルを考え
    • AIへ指示し
    • 結果を確認し
    • 修正する

    というサイクルを繰り返しました。

    しかし、その過程で得られた知見はMCPのプロンプトとして蓄積されます。

    つまり、一度確立した手順は次回以降ほぼ同じ品質で再利用できます。

    これは従来のGIS業務にはなかった大きな変化です。

    関連記事▶PLATEAU LOD1と生成AIで建物単位人口推計は可能か

  • Vol.4 人流ダッシュボードを政策評価へ活かす方法|GIS・PLATEAU・生成AIによる自治体DX

    自治体GIS×生成AI 実践シリーズの4回目です。

    本記事では、岡崎市の人流カメラから蓄積されるデータを、PLATEAU建物人口、GISによる都市構造分析、生成AIによる地域魅力の評価と組み合わせ、政策立案や住民との合意形成に活用するGISダッシュボードの考え方を紹介します。

    人流データは蓄積される。しかし…

    岡崎市では、人流カメラから毎日データが収集され、ダッシュボードへ反映されます。

    運用が始まれば、このデータは10年間蓄積されます。

    しかし、

    単にグラフが増えるだけでは、

    「今日は人が多かった」

    という確認に留まってしまいます。

    本当に必要なのは、

    人流データを都市構造と結び付け、政策へ活用すること

    です。

    本シリーズでは、そのための分析基盤を構築してきました。

    そしてVol.4では、その成果をダッシュボードへ実装する考え方を紹介します。

    1 分析は完成ではなくスタート

    本シリーズでは、PLATEAU建物データ、GIS、生成AI、統計解析を組み合わせ、人流を説明するモデルを構築してきました。

    しかし、本研究の目的は、人流を予測することではありません。

    重要なのは、

    人流に影響する都市要素を明らかにし、その成果を日常業務で活用できる形へ変えること

    です。

    分析結果が報告書で終わるのであれば、自治体業務は変わりません。

    今回構築したモデルは、そのまま政策評価の指標として利用できます。


    2 今回得られた成果

    これまで構築してきた成果は次のとおりです。

    • PLATEAU建物人口モデル
    • GISによる400m到達圏分析
    • AIによる魅力度指標
    • 主成分分析による都市構造評価
    • 重回帰による人流モデル

    これらは個別の分析ではなく、一つのデータ基盤として連携しています。

    図1:人流モデル構築の全体フロー

    図1は、本シリーズ全体の分析フローをまとめたものです。

    PLATEAUから建物人口を構築し、GISで400m到達圏の都市構造を集計します。

    さらに生成AIによって魅力度や滞留性などの定性的な情報を数値化し、統計解析によって人流との関係をモデル化しました。

    本研究では、これらを個別の分析ではなく、一連のデータ処理として構築した点が特徴です。


    3 ダッシュボードへ組み込む

    現在構築している岡崎市のダッシュボードでは、

    • 時間帯別人流
    • 年齢構成
    • カメラ位置

    などが表示されます。

    ここへ今回作成した指標を追加すると、

    従来

    「人が多い」

    だけだった画面が、

    「なぜ人が多いのか」

    まで理解できる画面になります。

    例えば、


    都市構造評価

    • 都市集積性(FC1)
    • 都市アクセス性(FC2)
    • 商業・回遊性(FC3)
    • 居住性(FC4)

    AI評価

    • Attraction Score(魅力度)
    • Dwell Score(滞在性)

    人流ポテンシャル

    • 平日
    • 休日

    政策評価

    • 改善余地
    • 都市機能バランス
    • 人流ポテンシャル

    これらを同じ画面へ表示することで、

    結果

    だけではなく、

    要因

    まで確認できるようになります。

    図2:人流ダッシュボードイメージ図

    例えば、担当職員が地図上でカメラをクリックすると、

    その地点の

    • 実測人流
    • 都市集積性
    • 商業・回遊性
    • 建物人口
    • AI魅力度

    が表示されます。

    さらに、

    実測人流とモデルによる予測値との差を比較することで、

    「人が集まり過ぎている場所」

    「本来もっと人が集まる可能性がある場所」

    を把握できます。


    4 政策評価指標として利用する

    例えば、

    実測人流は少ないものの、

    都市構造評価は高い場所があったとします。

    この場合、

    現状では十分な魅力が発揮されていない可能性があります。

    逆に、

    人流は多いものの、

    都市構造評価が低い場所は、

    イベントなど一時的な要因で人が集まっている可能性があります。

    このように、

    単なる人流のランキングではなく、

    都市構造と比較しながら評価できることが、

    今回構築したモデルの特徴です。

    表1 都市構造評価に基づく政策検討シナリオ

    ダッシュボードの評価考えられる状況政策検討例
    都市構造評価:高人流:少潜在力はあるが十分活用されていないイベント開催、情報発信強化、歩行者動線の改善、休憩空間の整備
    都市構造評価:低人流:多一時的な集客に依存している可能性継続的な滞在環境の整備、回遊ルート形成、周辺施設との連携
    商業・回遊性(FC3)が低い回遊性が不足ベンチ、サイン、歩行空間、オープンカフェ等の滞留空間整備
    AI魅力度が低い景観・店舗情報などの魅力が不足景観改善、ライトアップ、店舗誘致、SNS・観光情報発信
    建物人口は多いが人流が少ない居住人口が回遊へつながっていない地域イベント、生活サービス充実、歩いて楽しめる仕掛けづくり

    ダッシュボードの目的は、施策を自動的に決定することではありません。都市構造評価や人流ポテンシャルを基に、改善余地のある地点を抽出し、どのような施策を優先的に検討すべきかを職員が判断するための支援ツールとして活用することです。

    政策立案だけでなく、住民との合意形成にも活用

    ダッシュボードの役割は、行政内部の政策立案を支援することだけではありません。

    都市構造評価や人流分析の結果を地図やグラフで可視化することで、

    「なぜこの場所を優先して整備するのか」

    「なぜこのエリアで回遊性向上の施策を進めるのか」

    といった行政の判断を、データに基づいて説明できるようになります。

    例えば、

    都市構造評価は高いものの人流が少ない地点では、潜在的な魅力が十分に発揮されていない可能性が考えられます。

    そのような地点では、

    • ベンチや滞留空間の整備
    • イベントやマルシェなどの開催
    • 歩行者サインや案内板の充実
    • 夜間利用を促す街灯や景観照明の整備
    • 周辺店舗や公共施設と連携した回遊ルートの形成

    といった施策を検討する候補として位置付けることができます。

    また、再開発や交通規制、歩行者空間の再編など、住民の理解を得ることが重要となる施策についても、人流データや都市構造評価を客観的な資料として示すことで、行政の考え方を分かりやすく説明する材料になります。

    もちろん、最終的な政策決定には地域特性や住民意見、財政面など様々な要素を考慮する必要がありますが、本研究で提案したダッシュボードは、その議論を支える共通の情報基盤として活用できる可能性があります。


    5 カメラ位置が変わっても活用できる

    今回の分析では17地点を対象にモデルを構築しました。

    しかし、

    このモデルは17地点専用ではありません。

    評価しているのは

    カメラ周辺400mの都市構造

    だからです。

    新たなカメラを設置した場合でも、

    GISで400m到達圏を作成し、

    建物人口や道路、AI魅力度などを再集計することで、

    同じ評価モデルを適用できます。

    つまり、

    モデルを作り直す必要はなく、

    評価対象だけを更新すればよい仕組みとなっています。

    これは、実際に岡崎市でカメラ配置を見直した際にも同じ考え方で対応できることを確認しました。


    6 データが蓄積されるほど価値が高まる

    ダッシュボードには毎日人流データが蓄積されます。

    その結果、

    季節

    曜日

    イベント

    社会情勢

    などの変化も分析できるようになります。

    モデルも定期的に更新することで、

    政策評価指標はより精度の高いものへ発展していきます。

    これは、一度作って終わる分析ではなく、

    運用しながら育てる分析基盤と言えます。

    運用イメージ

    例えば、

    休日に大型イベントを開催した場合、

    ダッシュボードには

    当日の人流が自動的に反映されます。

    さらに、

    モデルによる予測値と比較することで、

    イベントによる効果を定量的に評価できます。

    また、

    翌年に同じイベントを開催した場合も、

    前年との比較が容易になります。

    10年間蓄積されたデータは、

    単なる履歴ではなく、

    都市施策を検証するための資産になります。

    近年はデジタルツインの活用が注目されています。しかし、都市を3Dで表現するだけでは政策立案には十分ではありません。本研究で示したように、人流や都市構造を継続的に分析し、評価指標としてダッシュボードへ実装することで、デジタルツインは「見る」ための技術から、「判断する」ための基盤へ発展します。

    7 地域特性に応じた横展開

    本研究の特徴は、PLATEAUや人流カメラといった個々の技術にあるのではありません。

    それらを組み合わせ、地域固有の魅力を説明変数として取り込み、人流との関係を分析するフレームワークを構築したことにあります。

    岡崎市では、QURUWAエリアの飲食店や商業施設、回遊拠点、歴史・文化資源などをAIで整理・評価し、人流モデルの説明変数として活用しました。

    つまり、岡崎市で構築したのは**「岡崎市専用のモデル」ではなく、「地域の魅力をデータ化して人流と結び付ける方法論」**です。

    そのため、他都市へ展開する場合も、地域固有の情報をAIで整理・構造化することで、同じ分析フレームワークを適用できます。

    例えば、横浜みなとみらい21であれば、

    • ウォーターフロント
    • 大規模オフィス
    • 商業施設
    • MICE施設
    • ランドマーク
    • イベント空間
    • 観光資源

    など、その地域を特徴付ける要素をAIで整理し、GIS上で説明変数として構築することで、岡崎市と同じ分析プロセスを適用できます。

    説明変数は都市ごとに変わりますが、

    • PLATEAUによる建物人口
    • GISによる空間集計
    • AIによる地域資源の構造化
    • 統計解析による人流モデル
    • ダッシュボードによる政策評価

    という分析の流れは共通です。

    つまり、本研究で提案したのは、特定の都市だけに通用する分析手法ではなく、地域特性に応じて説明変数を柔軟に組み替えられる汎用的な分析フレームワークと言えます。


    8 まとめ

    今回構築したモデルは、

    人流を予測するためだけのものではありません。

    GIS、AI、統計解析によって得られた都市構造評価を、

    そのまま人流ダッシュボードへ組み込むことで、

    職員は

    「人が集まっている」

    だけではなく、

    「なぜ集まるのか」

    「改善するには何を優先すべきか」

    まで把握できるようになります。

    分析結果を政策評価指標として日常業務へ取り込み、継続的に改善へ活用することこそ、本研究が目指す最終的な姿です。

    本シリーズで紹介した内容は、岡崎市の事例を用いて構築した分析フレームワークです。

    しかし、その考え方は特定の自治体だけに限定されるものではありません。

    人流カメラ、PLATEAU、GIS、AIを組み合わせた分析手法は、説明変数を地域特性に応じて再構成することで、

    他都市へも展開できる可能性があります。

    岡崎市で検証した一連のプロセスは、人流データを政策へ活用する実務フレームワークとして整理したものであり、地域特性に応じて説明変数を見直すことで、他都市への展開も期待できます。

    おわりに

    本シリーズでは、PLATEAU、GIS、生成AI、統計解析を組み合わせ、都市データを政策へつなげる一連のプロセスを紹介しました。

    岡崎市で構築したモデルは、人流を分析するためだけのものではありません。

    人流カメラから日々蓄積されるデータを都市構造と結び付け、ダッシュボード上で継続的に評価することで、都市の変化を把握し、施策の効果を検証し、その結果を次の政策へ反映していくことができます。

    このような運用を継続することで、データが蓄積されるほどダッシュボードの価値は高まり、自治体の意思決定を支える基盤へと成長していきます。

    本シリーズが提案したのは、単なる分析手法ではありません。

    「分析が日常業務の中で循環する仕組み」

    を構築することです。

    GIS、PLATEAU、生成AI、統計解析を連携させ、分析結果をダッシュボードへ実装し、日々蓄積されるデータを継続的な政策立案へ結び付けていく――。

    それこそが、本シリーズで提案する自治体GIS活用の姿です。

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  • Vol.3 AIだけでは説明できない。GISと組み合わせて初めて見えた休日の賑わい

    ― 主成分分析で見えた都市の魅力と休日の人流モデル―

    自治体GIS×生成AI 実践シリーズの3回目です。

    平日は都市構造に規定されていた。

    前回の記事では、平日の人流について、駅からの距離、建物人口、就業者、道路構造、駐車場など、都市の物理的・機能的な構造との関係を分析しました。

    その結果、平日の人の動きは、比較的明瞭に都市構造によって説明できることが分かりました。

    朝は駅や職場へ向かい、昼は業務や買い物のために動き、晩は再び駅や駐車場へ戻っていく。

    もちろん一人ひとりの行動目的は異なりますが、全体として見れば、平日の人流は、

    • 駅がどこにあるか
    • 職場や建物がどこに集積しているか
    • どの道路が歩きやすいか
    • 駐車場がどこに配置されているか

    といった都市構造に沿って形成されていました。

    そこで、次の問いが生まれます。

    平日は「駅に近い」「職場がある」といった都市構造に従順な動きをする人々が、休日にはその構造を離れ、どこへ向かうのか。

    休日には通勤や通学という強い制約がありません。

    人は自ら目的地を選び、食事をし、買い物をし、公園で過ごし、イベントに参加し、街を歩きます。

    平日の人流が都市構造によって規定されるとすれば、休日の人流は、人の意志によって形成されるのでしょうか。

    今回の分析では、この**「都市構造」と「人の意志」**という対立軸から、休日の賑わいを説明するモデルの構築を試みました。

    しかし、実際に分析を始めると、休日の人流を説明することは、平日よりもはるかに難しいことが分かりました。

    ※「本稿では、岡崎市QURUWAエリアに設置された人流計測地点を対象に、休日の朝・昼・晩の人流を目的変数としました。各地点から徒歩400メートルで到達できる範囲をGISで作成し、その圏内に存在する施設、道路、建物人口、駐車場などを説明変数として検討しています。」

    休日モデルで最も難しかったのは、回帰分析の計算そのものではありませんでした。人がその場所へ「行きたい」と思う理由を、どのような説明変数として表現するかです。施設を数えるだけでは足りず、AIで施設の意味を数値化しても足りませんでした。本稿では、説明変数を作り、捨て、組み替えながら、一定のモデルへたどり着くまでの過程を紹介します。


    休日の賑わいを何で説明するのか

    平日の人流であれば、説明変数の候補は比較的見つけやすいものです。

    駅からの距離、就業人口、建物人口、道路延長、交差点数、駐車場数など、通勤や業務活動と関係する客観的な都市構造データを用意できます。

    一方、休日には、人がその場所を訪れる理由そのものが多様になります。

    例えば、

    • 飲食店が多い
    • 買い物ができる
    • 公園や広場で休める
    • 図書館や文化施設がある
    • 歩いて楽しめる街並みがある
    • イベントが開催されている
    • 写真を撮りたくなる場所がある
    • その街を訪れる明確な目的がある

    といった要素が考えられます。

    ところが、これらは人口や道路延長のように、既存の統計データから簡単に取得できるものではありません。

    飲食店を1件、商業施設を1件と数えることはできます。しかし、同じ1件でも、人を遠方から呼び込む店と、近隣住民が日常的に利用する店とでは、休日の人流への影響は異なります。

    また、公園や広場についても、単に存在するだけでは人が集まるとは限りません。滞在できる空間なのか、イベントが開かれるのか、周辺施設と回遊できるのかによって、その意味は変わります。

    つまり、休日モデルでは、最初の段階から、

    何を説明変数として数値化すれば、人がその場所を選ぶ理由を表現できるのか

    という問題に直面しました。

    図2:休日人流を説明する候補となる要素(説明変数の検討)


    既存の施設データだけでは説明できなかった

    当初は、OpenStreetMapなどから取得した施設データを用い、各カメラ地点の徒歩圏内に存在する施設数を集計しました。

    飲食店、小売店、公園、公共施設などを分類し、それぞれの件数と休日人流との関係を確認しました。

    しかし、結果は十分ではありませんでした。

    理由の一つは、施設データの分類が、今回の分析目的に合っていなかったことです。

    一般的なPOIデータには、店舗や公共施設だけでなく、行政サービス、設備、案内施設なども含まれます。これらを機械的に集計しても、「休日に人が訪れたくなる場所」を表しているとは限りません。

    また、店舗数が多い場所ほど人流が多いという単純な関係も確認できませんでした。

    店舗が多数存在していても、日常利用型の店が中心であれば、休日の目的地としての吸引力は高くない可能性があります。一方、施設数が少なくても、図書館、広場、ランドマーク、人気店など、強い目的性を持つ場所があれば、人が集まることがあります。

    施設を単に「数える」だけでは、休日の賑わいを説明できなかったのです。

    ※これはOpenStreetMapの精度が低いという意味ではありません。OSMは幅広い施設情報を取得できる優れたデータですが、今回必要だったのは、一般的な施設分類ではなく、「休日にその場所を訪れる理由」に近い分類でした。


    QURUWA公式情報から、街の機能を捉え直す

    行政施設分類は「何の施設か」を示します。一方、QURUWAの分類は「そこで何ができるか」を示しています。休日人流を説明するうえでは、施設の名称よりも、飲食、買い物、滞在、学び、回遊といった行動との関係が重要です。そこで本稿では、施設そのものではなく、施設が来訪者に提供する機能を捉えることにしました。

    そこで、一般的な施設データではなく、QURUWAの公式サイトに掲載されているスポット情報を利用することにしました。

    QURUWA公式サイトは、単なる施設一覧ではありません。

    街を訪れる人の視点から、

    • 食べる
    • 買い物をする
    • 憩う
    • 学ぶ
    • 街を歩く
    • QURUWA拠点

    という形で、場所の役割が整理されています。

    これは行政施設分類や業種分類とは異なり、人がその場所で何をするのかに近い分類です。

    公式サイトから123件のスポット情報を取得し、名称、カテゴリ、位置情報、公式サイト、Instagram、イベント情報などを整理しました。

    次に、各カメラ地点から道路ネットワークに沿った徒歩400メートル到達圏を作成し、その内部に含まれるQURUWAスポットを集計しました。

    ここで重要なのは、単純な半径400メートルの円ではなく、実際の道路ネットワークに沿って到達可能な範囲を用いたことです。

    川、橋、道路の接続、街区形状によって、直線距離では近くても歩いて到達しにくい場所があります。

    休日の回遊を扱う以上、「近くにあるか」ではなく、実際に歩いて行けるかを捉える必要があります。

    この部分は、施設情報を理解するAIだけでは扱えません。GISによるネットワーク解析が必要になります。


    施設数を増やしても、モデルは良くならなかった

    QURUWAの6分類について、

    • FOOD
    • SHOP
    • RELAX
    • LEARN
    • WALK
    • HUB

    の件数を各到達圏で集計しました。

    ところが、これらをそのまま重回帰分析へ投入しても、安定したモデルにはなりませんでした。

    中心市街地では、飲食店が多い場所には買い物施設も多く、憩いの空間や拠点施設も近接しています。

    つまり、それぞれの変数が独立しているのではなく、都市の中心性や施設集積を共通して表していました。

    変数を増やせば説明力が上がるように見えますが、実際には説明変数同士の相関が強くなり、どの変数がどの程度影響しているのか分からなくなります。

    これは多重共線性の問題です。

    休日の賑わいを詳しく説明しようとして施設分類を増やすほど、モデルが不安定になるという逆説が生じました。

    この段階で必要だったのは、説明変数を増やすことではなく、複数の施設情報の背後にある共通した性格を見つけることでした。


    AIが作成した説明変数を、そのまま使わなかった理由

    生成AIにより、各スポットについて誘引力や滞在性など複数の評価指標を作成しました。しかし、これらをそのまま重回帰分析へ投入したわけではありません。

    その理由は、これらの説明変数同士が強く相関しているためです。

    例えば、誘引力が高い施設は滞在性も高い傾向があり、高評価施設数とも関係しています。このような変数をそのまま重回帰分析へ用いると、多重共線性が発生し、モデルの安定性が低下する可能性があります。

    そこで本研究では、休日人流を一切用いず、AIが作成した説明変数だけを対象として主成分分析を実施しました。

    ここで重要なのは、この段階では目的変数である休日人流を見ていないことです。

    つまり、「人流をよく説明するように主成分を作った」のではなく、施設が持つ特徴だけから、共通する性質を抽出しています。


    表1 FAC2_1(第2主成分)を構成する主な変数

    AIで作成した説明変数主成分負荷量解釈
    ATTRACTION_SCORE5_COUNT0.930AIが最高評価したスポット数
    ATTRACTION_SCORE4UP_COUNT0.852高評価スポットの集積
    ATTRACTION_RAW_MAX0.577エリア内で最も高い誘引力
    DWELL_MEAN0.441平均滞在性
    ATTRACTION_RAW_MEAN0.428平均誘引力

    回転後成分行列(Varimax回転)より作成。


    FAC2_1は「休日人流を説明するため」に作られた指標ではない

    表1から分かるように、第2主成分(FAC2_1)は、高評価スポット数や最大誘引力に強く反応する成分でした。

    つまりFAC2_1は、

    人流データから作られた指標ではなく、施設が持つ潜在的な魅力や目的地としての性格を表した合成指標

    と解釈できます。

    ここでは休日人流を一切利用していないため、AIが施設情報から抽出した「場所の特徴」だけが反映されています。


    最後に初めて休日人流との関係を検証した

    主成分分析によって得られたFAC2_1は、その後の重回帰分析に説明変数として投入しました。

    その結果、徒歩圏道路延長、建物人口、駐車場数とともに、FAC2_1は休日人流を説明する主要な説明変数として採用されました。

    つまり、

    AIが施設情報から抽出した潜在的な場所の性格が、休日人流と統計的な関係を持つことが確認された

    ことになります。

    これは、AIが人流を予測したのではありません。

    AIは施設情報から意味を抽出し、主成分分析はその意味を少数の潜在指標へ整理しました。そして最後に、重回帰分析によって、その潜在指標が休日人流とどのような関係を持つのかを検証しています。

    AIによって「施設の性格」を数値化する

    しかし、施設数だけでは、その場所が持つ目的地としての強さや滞在性を表現できません。

    そこで、QURUWA公式サイトに掲載された各スポットの説明文、施設カテゴリ、位置関係、イベント情報などをもとに、生成AIを使って施設の性格を評価しました。

    具体的には、各施設について、

    • 目的地として人を呼び込む力
    • 公共空間としての利用可能性
    • イベントとの関係
    • 滞在しやすさ
    • ランドマーク性
    • SNSで共有されやすい性格

    などを整理し、説明変数の候補を作成しました。

    また、施設ごとの誘引力や滞在性を表す指標として、

    • 誘引力スコアの合計
    • 誘引力スコアの平均
    • 最大誘引力
    • 高評価施設数
    • 滞在性スコアの合計
    • 滞在性スコアの平均

    なども作成しました。

    図3:徒歩圏(400m到達圏)でのスポット集計とカテゴリ件数の把握

    ここでAIは、統計的な答えを直接出したわけではありません。

    AIが担ったのは、文章として記載された施設の特徴を読み取り、これまで数値として存在しなかった場所の意味を、分析可能な候補変数へ変換することです。

    ただし、AIが作った変数が、そのまま正しい説明変数になるわけではありません。

    AIの評価には判断が含まれます。スコアの根拠を確認し、地図上の位置関係と照合し、統計的な妥当性を検証する必要があります。

    この過程は、AIに一度質問して終わるものではありませんでした。

    分類方法を見直し、スコアを作り直し、施設数との関係を確認し、相関を調べ、モデルへ投入しては外すという作業を繰り返しました。


    図4:生成AIを活用した休日説明変数の構築

    ※AIによる評価では、施設ごとに同じ評価項目と判定基準を適用しました。また、スコアだけでなく、評価理由を記録し、人が確認できる形で整理しました。これはAIの判断を正解として採用するためではなく、文章情報を一定の手順で候補変数へ変換し、その後の統計分析とGISで検証できる状態にするためです。

    主成分分析で、背後の構造を探る

    施設関連の変数は、互いに強く相関していました。

    例えば、誘引力の高い施設が多い場所では、滞在性の合計も高くなります。施設数が多い場所では、誘引力の合計も大きくなりやすくなります。

    これらをすべて重回帰へ投入すれば、同じ性質を重複して評価することになります。

    そこで主成分分析を用い、複数の施設変数を少数の潜在的な軸へまとめました。

    ここで捉えようとしたのは、個別の施設数ではなく、複数の施設が組み合わさって形成する場所の性格です。

    分析の過程では、

    • 多数の施設や滞在機能が面的に集まる性格
    • 強い目的地や拠点が存在する性格
    • 飲食、買い物、憩いなどが複合する性格

    といった潜在的な要素が現れました。

    ただし、因子や主成分は、計算すれば自動的に意味が決まるものではありません。

    どの変数が強く寄与しているかを確認し、実際の地図と照らし合わせながら、因子が何を表しているのかを解釈する必要があります。

    数値上は同じような得点でも、現地では商店街、図書館、公園、橋の周辺など、異なる都市空間が含まれます。

    このため、統計表だけで判断せず、因子得点をGIS上に表示し、その空間分布を確認しました。

    統計分析で見つけた潜在因子を、GISで現実の街へ戻して確認する。

    この往復を繰り返すことで、ようやく休日の賑わいを表す説明変数として利用できる形になりました。


    「人の意志」だけでも、休日は説明できなかった

    分析を始めた時点では、休日には通勤や業務の制約が弱まり、人は施設の魅力や目的性によって自由に移動すると考えていました。

    しかし、AIによって作成した誘引力や滞在性の変数だけでは、休日人流を十分に説明できませんでした。

    人を引きつける施設があっても、そこへ至る歩行ネットワークが弱ければ、回遊は生まれにくくなります。

    施設が集積していても、周辺に人が存在せず、アクセス手段が乏しければ、賑わいは限定されます。

    逆に、建物人口や道路延長が大きいだけでも、休日に訪れる目的がなければ、人流は形成されません。

    休日の人流は、都市構造を無視した人の自由な行動ではありませんでした。

    かといって、平日のように都市構造だけで決まるものでもありません。

    分析から見えてきたのは、

    人を引きつける場所の性格と、人がそこへ到達し、回遊し、滞在できる都市構造の組み合わせ

    です。


    最終モデルへたどり着くまで

    休日モデルでは、多数の組み合わせを検討しました。
    表2 休日モデルの検討過程

    段階主な説明変数結果・課題
    施設数モデルOSM施設件数、カテゴリ件数施設の意味を十分に表せない
    AI指標モデル誘引力、滞在性、ランドマーク性意味は捉えるが空間構造を説明できない
    統合モデル第2因子、道路延長、建物人口、駐車場場所の性格と都市構造を同時に説明

    施設分類の件数、AIによる誘引力・滞在性指標、主成分得点、道路延長、建物人口、駐車場、駅距離などを入れ替えながら、朝・昼・晩それぞれについてモデルを検証しました。

    変数を増やせば決定係数が高くなる場合もあります。しかし、説明変数同士の相関が強く、係数の符号が不安定になるモデルは採用できません。

    一方で、変数を減らしすぎれば、休日の多様な行動を捉えられません。

    今回は、

    • 統計的な有意性
    • モデル全体の説明力
    • 多重共線性
    • 係数の方向
    • GIS上で見た空間分布
    • 都市行動として説明可能か

    を確認しながら、モデルを絞り込みました。

    最終的には、朝・昼・晩に共通して、

    • 第2因子得点
    • 徒歩圏内道路延長
    • 建物人口の対数値
    • 駐車場ポイント数

    を用いる4変数モデルを採用しました。

    第2因子得点は、AIによって整理した施設の誘引力や滞在性を含む複数の変数を統合した、休日の場所の性格を表す指標です。

    一方、徒歩圏内道路延長、建物人口、駐車場数は、その場所を支える都市構造を表しています。

    つまり最終モデルそのものが、

    人の目的地選択を表す変数と、それを受け止める都市構造の変数

    の組み合わせになっています。

    最終モデルの信頼性を数値で確認する

    表3 休日人流最終モデルの概要

    時間帯調整済みR²モデル全体のp値最大VIF観測地点数
    0.5950.4610.02011.98717
    0.6610.5480.00811.98717
    0.6220.4960.01411.98717

    最終モデルでは、朝・昼・晩ともモデル全体は5%水準で有意でした。説明力は昼が最も高く、調整済みR²は0.548、朝は0.461、晩は0.496でした。一方、最大VIFは3モデル共通で11.987となっており、特にFAC2_1と他の都市構造変数との間に強い共線性が残っています。

    ※一般的にはVIFが10を超えると多重共線性が強い可能性があるとされます。本モデルでもその傾向は残りましたが、都市構造上相互に関連する変数を扱っていることから、その限界を認識した上で解釈しています。

    最終モデルでは、朝・昼・晩に共通して、第2主成分得点(FAC2_1)、徒歩圏内道路延長、建物人口の対数値、駐車場ポイント数の4変数を用いました。

    モデル全体の有意性を確認すると、朝はp=0.020、昼はp=0.008、晩はp=0.014であり、3つの時間帯すべてで5%水準の有意なモデルとなりました。

    調整済み決定係数は、朝が0.461、昼が0.548、晩が0.496でした。特に昼モデルでは、地点間の人流差の約55%を4つの説明変数によって説明しています。

    一方、多重共線性を示すVIFの最大値は、3モデルとも11.987でした。一般的な目安では高い値であり、このモデルには説明変数間の強い関連が残っています。

    ただし、FAC2_1は、施設の誘引力や高評価スポットの集積を複数の変数からまとめた主成分得点です。また、徒歩圏内道路延長や建物人口も、中心市街地の集積性と関係します。そのため、これらが一定程度相関することは、都市構造上も不自然ではありません。

    したがって本稿では、VIFが高いことを無視して「精度の高いモデル」と断定するのではなく、

    モデル全体には統計的な説明力が確認された一方、説明変数間には強い関連が残る探索的モデル

    として位置づけます。

    本モデルは17地点という限られた観測地点を対象としています。数値は一般法則を示すものではなく、QURUWAエリア内において、施設の目的地性と都市構造が休日人流とどのように関係するかを確認するためのものです。

    多重共線性が示した、もう一つの意味

    一方で、この結果は統計上の課題だけを示しているわけではありません。

    FAC2_1、徒歩圏内道路延長、建物人口、駐車場ポイント数は、それぞれ独立した要素ではなく、実際の都市では互いに関係しながら街の魅力を形成しています。

    そのため、例えば駐車場だけを整備しても、人流が大きく増えるとは限りません。 駐車場があっても、目的となる施設の魅力が不足していたり、安全で快適に歩ける空間がなければ、人は回遊せず滞在時間も伸びません。

    逆に、魅力的な施設が整備されても、アクセスや歩行環境が十分でなければ、その効果は限定的になります。

    つまり、多重共線性は「説明変数として分離しにくい」という統計的な特徴であると同時に、現実の都市では、それらの要素が一体となって賑わいを生み出していることを示しているとも考えられます。

    自治体のまちづくりにおいても、駐車場整備、道路空間の改善、施設の魅力向上、人口集積をそれぞれ個別施策として進めるのではなく、相互に組み合わせた総合的な都市施策として計画・評価することの重要性を、この分析結果は示唆しています。


    回帰式をGISに実装する

    最終モデルでは、朝・昼・晩について、それぞれ異なる非標準化係数が得られました。

    これらの係数をArcGIS Proのフィールド演算へ実装し、各カメラ地点の徒歩400メートル到達圏について、人流ポテンシャルを算出しました。

    Y^=1590.38050.708F20.018W191.317P+11.549C\widehat{Y}_{朝} =1590.380 -50.708F_2 -0.018W -191.317P +11.549CY朝​=1590.380−50.708F2​−0.018W−191.317P+11.549C

    Y^=4150.821139.422F20.052W500.327P+26.247C\widehat{Y}_{昼} =4150.821 -139.422F_2 -0.052W -500.327P +26.247CY昼​=4150.821−139.422F2​−0.052W−500.327P+26.247C

    Y^=670.09521.622F20.010W80.771P+10.163C\widehat{Y}_{晩} =670.095 -21.622F_2 -0.010W -80.771P +10.163CY晩​=670.095−21.622F2​−0.010W−80.771P+10.163C

    ここで、

    • F2F_2​:第2因子得点
    • WW:徒歩圏内道路延長
    • PP:建物人口の対数値
    • CC:駐車場ポイント数
    • Y^\widehat{Y}:各時間帯の推定人流量

    です。

    回帰式をGISへ実装することで、係数表だけでは捉えにくかった時間帯別の空間分布を、地図として確認できるようになりました。

    ※なお、各係数の符号は、その変数単独の効果を意味するものではありません。他の説明変数を一定とした条件下での関係を示しています。また、因子得点は因子の向きによって符号が反転するため、「負だから魅力が低い」と直接読むことはできません。


    地図にして初めて見えたもの

    人流ポテンシャルをGIS上に可視化した結果、数値表だけでは把握しにくかった時間帯ごとの特徴が明確になりました。

    まず、朝は桜城橋北・桜城橋南が最も高いポテンシャルを示しました。一方で、東康生通り1・2は下位に位置しており、休日の朝は橋周辺が人流の中心となる傾向が確認できます。

    昼になると様相は大きく変わります。東康生通り1が最も高いポテンシャルとなり、東康生通り2も上位へ移動しました。 一方、朝に上位であった桜城橋周辺は順位を下げており、人の流れの中心が商業エリアへ移る様子が読み取れます。

    晩になると、再び通り沿いの地点が上位を占めるものの、昼とは順位が入れ替わり、通り沿い全体へ人流が分散する傾向が見られました。特に東康生通り2は最上位となり、東康生通り4も上位を維持しており、夜間の回遊性を反映した結果と考えられます。

    図5:重回帰式の結果をGISで表示

    これは、同じ休日であっても都市構造がすべての時間帯で同じように作用しているわけではないことを示しています。

    朝には朝の目的があり、昼には昼の回遊があり、晩には晩の滞在や帰宅行動があります。

    同じ道路、同じ建物、同じ施設であっても、時間帯によってその意味は変わります。

    AIが作成した説明変数とGISによる空間可視化を組み合わせることで、「どこに人が集まりやすいか」だけでなく、「時間帯によって賑わいの中心がどのように移動するか」まで把握できることが分かりました。

    これは係数表やランキングだけでは読み取れません。

    AIが施設の意味を数値へ変換し、統計分析が変数間の関係を整理し、GISがその結果を都市空間へ戻す。

    つまり、同じ都市構造でも時間帯によって果たす役割が変化することが、GISによる可視化によって初めて確認できました。

    この三つを組み合わせることで初めて、休日の賑わいの空間構造が見えるようになりました。


    休日の人流は「都市構造 vs 人の意志」ではなかった

    今回の分析では、当初、

    • 平日=都市構造に規定される
    • 休日=人の意志によって動く

    という対立を想定していました。

    しかし、分析結果は、それほど単純ではありませんでした。

    休日の人は、平日よりも自由に目的地を選びます。

    その意味では、施設の魅力、滞在性、イベント、街歩きの楽しさなど、「人の意志」に関係する要素が重要になります。

    一方で、その目的地へ行けるか、周辺を歩けるか、滞在できるかは、道路、人口、駐車場などの都市構造に支えられています。

    したがって、休日の賑わいは、

    都市構造か、人の意志か

    という二者択一ではありません。

    人の意志を引き出す都市機能と、その行動を可能にする都市構造が重なった場所に、休日の賑わいが生まれる

    と考える方が適切です。


    AIだけでは説明できない

    今回、AIは重要な役割を果たしました。

    公式サイトの記事や施設説明を読み、施設の誘引力、滞在性、ランドマーク性など、従来のGISデータには存在しなかった意味情報を分析可能な変数へ変換しました。

    しかし、AIが作った変数だけでは、休日人流を説明できませんでした。

    図6:休日の人流にはAIとGISの統合が必要

    AIには、道路ネットワークに沿った到達圏を計算することも、施設の空間的な重なりを正確に集計することもできません。

    また、AIが作ったスコアが現実の街のどこに分布し、都市構造とどう重なるのかを確認するには、GISが必要です。

    逆に、GISだけでは、公式サイトに記載された施設の魅力や滞在性を、そのまま数値化することは困難です。

    今回のモデルは、

    • AIによる意味の抽出
    • 統計分析による関係性の整理
    • GISによる空間的な検証と実装

    を繰り返すことで構築されました。

    図7:多数の変数を少数の潜在因子へ

    したがって本稿の結論は、AIが休日の賑わいを説明した、ということではありません。

    AIだけでは説明できなかった休日の賑わいが、GISと組み合わせることで、一定のモデルとして見えるようになった

    ということです。


    まだ「因果」を説明したわけではない

    今回構築したモデルは、休日の人流と都市機能・都市構造との関係を説明するものです。

    本研究で行った一連の分析手順を図8にまとめます。

    図8:休日モデル構築フロー

    ただし、重回帰分析によって得られた関係は、直ちに因果関係を意味するものではありません。

    例えば、駐車場が多いから人が集まるのか、人が集まる場所だから駐車場が整備されているのかは、この分析だけでは区別できません。

    また、道路延長や建物人口の係数の符号についても、単独の効果として読むのではなく、他の変数を一定とした条件下での関係として解釈する必要があります。

    今回は17地点という限られた観測地点を対象としたモデルであり、一般化には慎重さが必要です。

    それでも、施設数を単純に集計する段階から始め、AIによる意味情報の変数化、主成分分析、重回帰分析、GISによる空間検証を経て、一定の説明モデルまで到達した意義はあります。


    建物単位人口モデルが支えた休日モデル

    本研究で用いた建物人口は、250mメッシュ人口をそのまま利用したものではありません。

    前回までの研究で構築したPLATEAU建物単位人口モデルにより、用途地域や建物規模を考慮して人口を各建物へ配分し、徒歩400m到達圏内の居住人口を建物単位で集計しています。

    休日の人流は、施設の魅力だけでなく、その周辺に「実際にどれだけの人が生活しているか」という居住実態にも影響されます。建物単位人口モデルを用いることで、400m到達圏内の人口分布を実態に近い形で把握でき、休日人流モデルの安定性と解釈性の向上につながりました。

    つまり、本研究は単独の分析ではありません。

    建物人口モデルによる基盤データの整備、AIによる施設の意味の抽出、統計分析による変数の整理、そしてGISによる空間検証が連携して初めて成立した、一連の都市分析システムとして位置付けられます。

    おわりに

    平日の人流は、駅、職場、人口、道路といった都市構造によって比較的説明しやすいものでした。

    一方、休日の人流では、人がその場所へ行きたいと思う理由を、説明変数としてどのように表すかが最大の課題となりました。

    一般的な施設データを数えるだけでは足りませんでした。

    QURUWA公式情報を収集し、AIによって施設の意味を整理し、主成分分析・因子分析によって潜在的な場所の性格を抽出し、GISによる道路到達圏や都市構造データと組み合わせる必要がありました。

    その結果、休日の賑わいは、人の意志だけでも、都市構造だけでも説明できないことが見えてきました。

    行きたいと思わせる目的地があり、そこへ到達し、歩き、滞在できる都市構造がある。

    この複数の条件が重なることで、休日の賑わいが生まれます。

    次回は、このモデルから得られた知見を、実際の都市政策へどのようにつなげることができるのかを考えます。

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  • Vol.2 平日の人流構造を読み解く GISと統計による都市分析

    ― 主成分分析で見えた4つの都市構造と平日の人流モデル―

    自治体GIS×生成AI 実践シリーズの2回目です。

    1. 多重共線性を解決するため、主成分分析を実施

    コラム:「主成分分析」と「因子分析」の違い

    人流分析では、道路延長、交差点数、人口、商業施設数など、多くの説明変数を扱います。しかし、これらの変数は互いに強く関連していることが多く、そのまま重回帰分析を行うと多重共線性の問題が生じます。

    そこで、本研究では**主成分分析(PCA)**を用いて、複数の説明変数を相互に独立した少数の指標へ要約しました。

    一方、因子分析は似た変数の背後にある「共通因子」を推定する手法です。

    両者は似ていますが、目的が異なります。

    主成分分析(PCA)因子分析
    情報を効率よく要約する背後にある潜在因子を推定する
    予測モデルや回帰分析との相性が良い心理学・社会学などで多く利用される
    変数の情報をできるだけ保持する共通因子の解釈を重視する

    本シリーズでは、人流を説明・予測することを目的としているため、主成分分析を採用しました。

    主成分分析によって都市構造を表す少数の指標を作成し、その指標を重回帰分析へ利用することで、安定した人流モデルを構築しています。

    前回は、GISを用いて11種類の説明変数を整備しました。

    GISだからできたこと

    今回使用した11変数はすべてGIS上で作成しています。

    • 建物人口
    • 就業人口
    • 歩行ネットワーク延長
    • 駅までの距離
    • 商業地域
    • 駐車場
    • ゲート
    • プロムナード

    これらは単なる統計データではなく、

    400m到達圏ごとに空間集計した都市構造データです。

    つまり、

    GISで都市構造を数値化し、

    統計でその構造を整理したことが

    今回の分析の特徴です。

    しかし、人口が多い場所には店舗や道路も集中するなど、多くの説明変数は互いに強い相関を持っています。

    このまま重回帰分析を行うと、多重共線性により係数が不安定になる可能性があります。

    そこで今回は、説明変数を少数の潜在因子へ整理するため、主成分分析(バリマックス回転)による主成分分析を実施しました。

    表1 主成分分析に用いた説明変数

    変数名(SPSS)日本語名称内容
    LOG_BUILD_POP建物人口(対数変換)到達圏内の推定建物人口を対数変換した値
    LOG_WORKER_POP就業人口(対数変換)到達圏内の就業人口を対数変換した値
    TARGET_COUNT目的地数到達圏内に存在する目的地(POI)の件数
    WALK_LEN歩行ネットワーク延長到達圏内の歩行可能道路延長(m)
    COMMERCIAL_DUMMY商業地域ダミー商業系用途地域を示すダミー変数
    PROMENADE_DUMMYプロムナードダミープロムナード(歩行者空間)の有無
    FACILITY_DUMMY主要施設ダミー公共施設・集客施設の有無
    GATE_DUMMYゲートダミーQURUWAエリアの入口・結節点を示すダミー変数
    LIVING_DUMMY居住地域ダミー住宅系地域を示すダミー変数
    MIN_Station_Length駅までの最短距離対象地点から最寄り鉄道駅までの最短歩行距離
    parking_point駐車場数到達圏内の駐車場ポイント数

    ※人口関連変数(建物人口、就業人口)は分布の歪みを緩和するため対数変換を行った。一方、歩行ネットワーク延長および最寄り駅までの歩行距離は、実際の都市構造やアクセシビリティを直接表す指標であることから、解釈性を優先して実測値を用いた。

    図1 分析フロー


    GISで11説明変数作成
            │
            ▼
        主成分分析
            │
            ▼
       4つの潜在因子
            │
            ▼
       重回帰分析

    2. 主成分分析の結果

    11項目の説明変数から4つの因子が抽出され、累積寄与率は96.5%となりました。

    表2:主成分分析結果

    項目結果
    説明変数数11
    抽出因子数4
    累積寄与率96.53%
    抽出法主成分分析
    回転法バリマックス回転

    図2:因子のスクリーンプロット

    これは11種類の説明変数が持つ情報のほとんどを4つの因子で説明できることを意味します。

    表3:回転後成分行列

    説明変数第1因子第2因子第3因子第4因子
    建物人口(LOG_BUILD_POP)0.7710.2340.5280.184
    就業人口(LOG_WORKER_POP)-0.441-0.696-0.455-0.312
    目的地数(TARGET_COUNT)0.794-0.5710.0150.016
    歩行ネットワーク延長(WALK_LEN)-0.2930.936-0.031-0.088
    商業地域(COMMERCIAL_DUMMY)0.450-0.2830.668-0.515
    プロムナード(PROMENADE_DUMMY)0.084-0.109-0.975-0.120
    主要施設(FACILITY_DUMMY)0.0290.9940.027-0.028
    ゲート(GATE_DUMMY)-0.975-0.0660.133-0.001
    居住地域(LIVING_DUMMY)0.146-0.0780.0970.976
    駅までの最短距離(MIN_Station_Length)0.854-0.0210.4280.258
    駐車場数(parking_point)-0.7540.5100.0470.078

    3. 回転後成分行列

    表4: 回転後成分行列(主要負荷量)

    因子主な変数
    FAC1建物人口・目的地数・駅距離
    FAC2道路延長・主要施設
    FAC3商業地区・遊歩道
    FAC4居住地区

    表5:各分析地点の因子得点

    No.カメラ地点FAC1FAC2FAC3FAC4
    1東康生通り10.076-0.3040.734-0.513
    2東康生通り20.500-0.4870.540-0.655
    3東康生通り30.506-0.4350.493-0.658
    4東康生通り40.633-0.2860.588-0.636
    5連尺通り10.541-0.1880.792-0.445
    6連尺通り20.552-0.1450.831-0.421
    7連尺通り30.450-0.2140.762-0.461
    8連尺通り40.443-0.2720.756-0.448
    9中央緑道10.411-0.136-1.530-0.077
    10中央緑道20.306-0.139-1.588-0.119
    11中央緑道3-0.060-0.251-1.849-0.319
    12中央緑道4-0.066-0.237-1.853-0.324
    13図書館10.1133.8590.103-0.107
    14桜城橋北-2.393-0.2990.3230.002
    15桜城橋南-2.789-0.0510.384-0.005
    16八幡通10.385-0.1970.2492.588
    17八幡通20.392-0.2190.2662.597

    :FAC1~FAC4は主成分分析(バリマックス回転)により算出した因子得点である。正の値ほど各因子の特徴を強く有し、負の値ほどその特徴が弱いことを示す。


    4. 4つの都市構造を命名

    そこで都市構造として解釈すると、

    第1因子

    都市集積性

    建物人口

    目的地

    駅への近接

    などが高く、

    都市活動が集積する中心市街地を表しています。

    図3:第1因子(都市集積性)の空間分布

    因子得点をGIS上に可視化したところ、第1因子は東康生通り周辺で最も高く、桜城橋南で最も低い値を示した。この分布は、建物人口や目的地数が中心市街地に集中する実際の都市構造と一致しており、第1因子を「都市集積性」と解釈した妥当性を支持する結果となりました。

    ※主成分分析は統計処理ですが、GIS上に可視化することで都市構造として妥当かどうかを空間的に検証できます。このように統計結果をGISで確認できることは、空間分析ならではの利点です。


    第2因子:都市アクセス性

    道路延長

    主要施設

    が強く、

    アクセス性や移動性を表しています。


    第3因子:商業・回遊性

    商業地区

    遊歩道

    がまとまり、

    歩いて楽しめる都市空間を示しています。


    第4因子:居住性

    住宅系土地利用が高く、

    生活空間としての性格を表しています。


    各因子のまとめ

    FAC1(都市集積性)

    • 最高:東康生通り4(0.633)
    • 最低:桜城橋南(-2.789)

    ※東康生通り周辺は建物人口、目的地数、駅アクセスが集積するQURUWAの中心市街地であります。一方、桜城橋南は河川を挟み都市機能の集積が比較的小さい地区であり、因子得点の空間分布は実際の都市構造とよく一致しました。

    FAC2(都市アクセス性・公共施設性)

    • 図書館1が突出(3.859

    図書館では

    ※公共施設ダミーが強く作用し、道路ネットワークも充実しているため、都市アクセス性を代表する地点となっています。

    FAC3(商業・回遊性)

    • 最高:連尺通り2(0.831)
    • 最低:中央緑道4(-1.853)

    中央緑道

    遊歩道

    歩いて楽しむ空間と想定できます。

    ※中央緑道では負の値、連尺通りでは正の値となったことから、単なる歩行空間ではなく、商業施設と遊歩道が一体となった回遊性を表す因子と解釈しました。

    FAC4(居住性)

    • 八幡通1・2が突出(2.588、2.597

    八幡通

    住宅

    生活空間と想定できます。

    ※八幡通1・2で突出したことから、住宅系土地利用を代表する因子と考えられます。

    図4:因子の模式図


    5. 平日の人流を説明できるか

    抽出した4因子を説明変数として、

    2025年10月および2026年6月の午前・昼・夜について重回帰分析を実施しました。


    表6:モデル要約

    時間帯調整済R²判定
    2025午前0.8380.784
    2025昼0.4890.318
    2025夜0.4530.271
    2026午前0.8720.830
    2026昼0.5560.408
    2026夜0.6290.506

    (モデル全体の有意確率も併記)


    図5:R²比較グラフ


    4つの都市構造因子だけを説明変数とした重回帰分析の結果。午前は高い説明力(R²=0.838、0.872)を示した一方、昼・夜は時間依存要因の影響により説明力が低下しました。

    5-2. 平日の人流モデル

    本研究では、多重共線性を解消するため11種類の都市構造指標を主成分分析により4つの因子(FAC1~FAC4)へ整理し、その因子得点を説明変数として重回帰分析を実施しました。したがって、以下の回帰式は個々の説明変数ではなく、「都市集積性」「都市アクセス性」「商業・回遊性」「居住性」という4つの都市構造が平日の人流へ与える影響を表しています。


    2026年 平日午前モデル

    平日午前人流
    
    =36.338
    
    −29.916×FAC1(都市集積性)
    
    − 6.644×FAC2(都市アクセス性)
    
    +12.929×FAC3(商業・回遊性)
    
    − 8.418×FAC4(居住性)

    調整済みR²=0.830

    モデル全体有意(p<0.001)


    2026年 平日昼モデル

    平日昼人流
    
    =36.488
    
    − 7.942×FAC1
    
    − 5.571×FAC2
    
    +12.520×FAC3
    
    −13.511×FAC4

    調整済みR²=0.408

    モデル全体有意(p=0.033)


    2026年 平日夜モデル

    平日夜人流
    
    =19.380
    
    − 8.677×FAC1
    
    − 3.285×FAC2
    
    + 5.296×FAC3
    
    − 3.279×FAC4

    調整済みR²=0.506

    モデル全体有意(p=0.012)


    この後に入れる説明

    この結果から、平日の人流は4つの都市構造因子だけでも一定程度説明できることが確認されました。特に午前は調整済みR²が0.830と高く、都市構造そのものが人流を強く規定していることが分かります。一方、昼・夜になると説明力は低下しており、飲食やイベント、曜日特性など、都市構造以外の要因が人流へ影響していることが示唆されました。

    6. 考察

    分析の結果、11種類の説明変数を4つの都市構造へ整理しても午前時間帯では都市構造のみで約84~87%の人流を説明できました。

    これは

    人流は偶然ではなく、

    都市構造によって

    大きく規定されていることを示しています。

    一方、

    昼・夜は

    イベントや飲食、天候や曜日特性など

    時間依存要因が加わるため、

    都市構造だけでは説明しきれないことも分かりました。

    つまり、

    都市構造は午前の人流を強く規定する一方、昼・夜になるほど人々の行動選択が多様化することが示唆されました。

    GISで都市構造を把握することは、

    人流予測の基礎となる一方、

    時間帯別には

    イベント情報など

    リアルタイムデータとの融合が重要になるということです。

    GISは単に地図を表示するツールではありません。都市構造を数値化し、統計で本質的な構造を抽出し、その結果を再び地図で検証する。この「GIS→統計→GIS」の循環こそが、データに基づく都市分析の大きな強みです。最後にこの章の全体の流れをイメージ図で示します。

    図6:Vol.2 全体の流れ


    7. 次回予告

    今回の分析では、平日の人流は11種類の説明変数を4つの都市構造へ整理し84~87%説明できることが分かりました。
     しかし、この規則性は休日にも当てはまるのでしょうか。それとも、人々は都市構造ではなく、別の魅力に引き寄せられるのでしょうか。次回は休日データを用いて、その違いを明らかにします。

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  • Vol.1 GISと統計で読み解く岡崎市QURUWAの人流構造

    ― オープンデータだけで人流はどこまで説明できるのか ―

    自治体GIS×生成AI 実践シリーズの1回目です。

    なぜ、この検証を始めたのか

    近年、人流データは都市計画や観光、防災、商業分析など、さまざまな分野で活用されています。しかし、多くの場合は「どこに人が多いのか」を可視化することに留まり、その人流がなぜ発生しているのかまで踏み込んで分析される事例は多くありません。

    今回の検証は、岡崎市が「データラボ」で公開している人流データと観測地点の位置情報を見たことから始まりました。

    公開されている人流データを眺めているうちに、一つの疑問が浮かびました。

    「この場所で観測される人流は、周辺のどのような都市構造によって説明できるのだろうか。」

    つまり、人流そのものを目的変数とし、人口や就業人口、道路ネットワーク、交差点密度、店舗集積、駐車場などの都市構造データを説明変数として統計的に検証すれば、「賑わい」を生み出している要因を客観的に明らかにできるのではないかと考えました。

    このような分析が実現できれば、

    • 都市整備や公共投資の優先順位を検討するためのEBPM(Evidence-Based Policy Making)
    • 商業施設やイベントの立地・集客戦略
    • 人流観測地点の適切な配置や見直し

    など、行政施策だけでなく民間のマーケティングにも活用できる可能性があります。


    QURUWAという実証フィールド

    本研究の対象としたのは、岡崎市中心市街地のQURUWA(クルワ)エリアです。

    QURUWAとは、名鉄東岡崎駅から岡崎城、乙川、中央緑道などを結ぶ約20ヘクタールの都市再生エリアの愛称であり、「歩いて楽しめるまちづくり」をコンセプトとして、公共空間の再編や民間投資を組み合わせながら回遊性の向上を目指しています。

    岡崎市では、このエリア内に複数の人流観測地点を設置し、歩行者数を継続的に計測しています。こうした高密度な観測データが公開されていることから、都市構造と人流との関係を検証するフィールドとして非常に適していると考えました。

    図1:対象エリア位置図(17地点)※東岡崎駅は除く

    「人流分析」と聞くと、多くの人はAIやビッグデータを思い浮かべるかもしれません。

    しかし、本当に人流を理解するために必要なのは、高価なデータではなく、自治体が既に保有しているオープンデータなのではないでしょうか。

    人口、道路、交差点、駐車場、店舗、公共空間。

    これらをGIS上で整理し、統計解析によって検証すれば、人の流れを説明できる可能性があります。

    本シリーズでは、岡崎市QURUWA地区を対象に、ArcGISとRを用いて行った検証を紹介します。

    第1回では、研究の出発点とデータ整備、そして分析モデルを構築するまでの過程を紹介します。

    最初の仮説

    人が集まる場所には、必ず何らかの理由があります。

    駅前だから人が多いのか、商業施設があるからなのか、それとも道路が多く交差し、歩きやすい都市構造だからなのか。私たちは日常生活の中で何気なく「人が集まる場所」を認識していますが、その理由を客観的なデータで説明する機会は意外に多くありません。

    そこで、まずは都市構造と人流の関係について、次のような素朴な仮説を立てました。

    • 人口が多い場所では、人流も多くなるのではないか。
    • 道路が発達している場所では、人流が集まりやすいのではないか。
    • 交差点が多い場所は、人の移動が集中するため人流も多くなるのではないか。
    • 商業施設や店舗が集積する場所では、人流が増加するのではないか。
    • 駐車場が多い場所では、自動車利用者の流入によって人流が増えるのではないか。

    これらはいずれも都市計画やマーケティングの現場では経験的に語られることが多い考え方です。しかし、その影響の大きさはどの程度なのか、あるいは本当に人流を説明できる要因なのかについては、実際に統計解析によって検証してみなければ分かりません。

    本研究では、人流データを目的変数、都市構造を表す各種オープンデータを説明変数として整理し、単回帰分析や重回帰分析、主成分分析などを用いて、それぞれの説明変数が人流にどのような影響を与えているのかを定量的に検証しました。

    さらに分析を進める中で、当初は有効だと考えていた説明変数が期待したほど寄与しないケースや、逆に交差点密度のように予想以上に説明力を持つ変数も見つかりました。また、平日と休日では人流を説明する要因が大きく異なることも明らかになっていきます。

    つまり、この研究は仮説を証明することが目的ではありません。

    「どの仮説が正しく、どの仮説が誤っていたのか」をデータに基づいて一つひとつ検証し、人流を生み出す都市構造を客観的に明らかにすることが、本研究の目的です。

    図2:研究全体フロー

    3.データ収集

    使用データ

    本研究では、人流に影響を与える都市構造を定量的に評価するため、国土交通省、総務省統計局、OpenStreetMap等が公開するオープンデータを組み合わせて利用しました。

    人流データを目的変数とし、人口、道路ネットワーク、交差点、駐車場、都市機能などを説明変数として整理しました。使用したデータの概要を表1のとおりです。
    表1:使用データ一覧

    項目データ出典
    人口2020年国勢調査 250m人口メッシュ・500m就業者メッシュe-Stat(政府統計の総合窓口)
    用途地域用途地域データ(都市計画基礎調査)国土数値情報
    建物3D都市モデル(CityGML)Project PLATEAU
    道路ネットワーク道路データOpenStreetMap
    交差点道路ネットワークから抽出したジャンクションOpenStreetMap
    駐車場OSMデータおよび生成AI(MCP)による補完抽出OpenStreetMap・MCP
    施設OSMデータおよび生成AI(MCP)による補完抽出OpenStreetMap・MCP
    QURUWAスポットQURUWA公式Webサイト掲載施設QURUWA ZONE
    人流データ歩行者通行量調査岡崎市オープンデータラボ

    人口データの整備

    人口については、政府統計の総合窓口(e-Stat)が公開する令和2年(2020年)国勢調査を利用しました。

    採用したデータは次の2種類です。

    • 250mメッシュ人口
    • 500mメッシュ就業者人口

    250mメッシュ人口は居住人口の空間分布を表し、500m就業者メッシュは昼間人口や就業集積を表す指標として利用しました。

    しかし、メッシュ単位では建物との対応が困難であるため、Project PLATEAUの建物モデルと用途地域を組み合わせ、建物単位へ人口を配分する人口モデルを独自に構築しました。

    人口配分では、

    1. 250m人口メッシュ
    2. 用途地域
    3. PLATEAU建物モデル

    を組み合わせ、住宅系用途地域では人口密度を高く、工業系用途地域では低く評価する用途地域係数を用いて人口を配分しました。

    さらに建物規模(延床面積)を考慮した配分モデルを適用し、建物単位人口を推定しました。

    人口データは、この建物人口モデルから400m到達圏内人口を集計した値を説明変数として利用しています。

    建物人口モデルの詳細な作成手順については、前の記事を参照願います。

    道路ネットワーク

    道路ネットワークはOpenStreetMapから取得しました。

    抽出した道路データをArcGIS Proでネットワークデータセット化し、岡崎市オープンデータラボにある人流カメラポイント(緯度経度付)より400m徒歩到達圏を作成しました。

    各到達圏内について

    • 総道路延長
    • ジャンクション数

    を算出し、都市構造を表す説明変数としました。

    3.4 駐車場データ

    駐車場についてはOpenStreetMapに登録されている駐車場データを利用しました。

    一方、OpenStreetMapには未登録施設も存在するため、本研究では生成AIとMCPを用いて追加候補を探索し、人手による確認を経て駐車場データを補完しています。

    最終的には400m徒歩到達圏内に存在する駐車場数を説明変数として利用しました。

    3.5 QURUWAスポット

    都市機能を表す説明変数として、QURUWA公式サイト(QURUWA ZONE)に掲載されている施設情報を収集しました。

    収集したスポットは

    • 飲食
    • 買い物
    • 憩い
    • 学び
    • 街歩き
    • QURUWA拠点

    の6分類に整理し、400m徒歩到達圏ごとの施設数を集計しました。


    3.6目的変数(人流データ)の取得と前処理

    (1)AIカメラ人流データの取得

    今回は、岡崎市QURUWA地区に設置されたAIカメラによる人流データを目的変数として利用しました。

    「オープンデータラボ」から取得した。各カメラについて1か月単位で公開されているCSV形式のデータを対象とし、解析対象期間となる直近1年間分(12か月)のデータをダウンロードしました。

    取得した各月のCSVデータは、カメラIDおよび観測日時をキーとして統合し、年間の人流データベースを作成しました。


    (2)解析対象データの抽出

    年間データには曜日や時間帯による変動が含まれるため、本研究では解析目的に応じて2025年5月、2026年6月の各1か月を次の条件でデータ抽出しました。

    • 平日
    • Morning:07:00~09:59(通勤・通学)
    • Day:10:00~15:59(日中活動)
    • Night:16:00~19:00(夜間活動)
    • 休日
    • Morning:09:00~10:59(休日は朝の立ち上がりが遅い)
    • Day:11:00~17:59(買物・観光・滞在)
    • Night:18:00~21:00(夕方~夜間)

    さらに、各カメラについて時間帯ごとの平均人流を算出し、代表値として利用しました。


    (3)目的変数の検討

    目的変数は一度に決定したものではなく、AIカメラデータの特性を踏まえて段階的に検討しました。

    第1段階

    休日・平日ともに

    7時~19時平均人流

    を目的変数として回帰分析を実施しました。

    しかし、休日モデルでは十分な説明力が得られず、人流を単一の平均値で表現することには限界があることが分かりました。


    第2段階

    平均時間帯を見直し、

    • 平日:7時~19時
    • 休日:9時~21時

    と設定して再解析を行いました。

    平日は一定の改善がみられたものの、休日モデルでは依然として説明力が十分ではありませんでした。


    第3段階

    AIカメラデータを詳細に確認するため、全カメラについて時間帯別のIN人数とOUT人数の推移を比較した。

    その結果、

    • カメラ設置方向の影響
    • 一方向流動の強い地点
    • 時間帯によりIN・OUTの関係が変化する地点

    が存在することが明らかとなりました。

    この知見を踏まえ、

    人流を単なる平均人数ではなく、

    • IN+OUT(賑わい)
    • IN−OUT(滞留)

    という流動特性を表す指標へ再定義しました。

    また、人流の時間特性を考慮し、

    • 夕方

    の時間帯別モデルについての検証に行きつきました。


    (4)最終的な目的変数

    以上の検討の結果、本研究では解析目的に応じて最も説明力が高かったモデルを採用しました。

    平日、休日モデルとも賑わい指標(IN+OUT)が比較的高い説明力を示し、最終モデルを決定しました。

    GISで説明変数を作る

    人流を説明するためには、「その場所の周囲にどのような施設があるか」を数値化する必要があります。

    しかし、単純に施設数を数えるだけでは、人が実際に歩いて利用できる範囲を表現できません。

    そこで本検証では、ArcGIS Network Analystを用いて道路ネットワーク上の400m到達圏を作成しました。

    400mは徒歩約5分程度の距離であり、各カメラ地点から実際に歩いて到達できる範囲を表しています。

    その到達圏内に存在する施設数を説明変数として集計しました。

    図3:各カメラからの400m到達圏とQURUWAスポットとOSM施設


    QURUWAスポットとOSM施設の比較

    施設データには2種類を用いました。

    • OpenStreetMap(OSM)の施設データ
    • 岡崎市QURUWA公式サイトから整理したQURUWAスポット

    OSMは網羅性に優れていますが、行政施設や金融機関など、回遊性との関係が弱い施設も数多く含まれています。

    一方、QURUWAスポットは

    • 飲食
    • 買い物
    • 街歩き
    • 学び
    • 憩い

    など、実際に回遊を促す施設を中心に整理されています。

    そのため、400m到達圏で集計すると、QURUWAスポットはQURUWA戦略で設定された主要回遊動線と非常に良く一致する結果となりました。図4を参照下さい。

    つまり、

    「人が歩きたくなる場所」

    を説明する変数としては、QURUWAスポットの方が適していることがGIS上でも確認できました。


    ArcGIS Network Analystによる説明変数生成

    分析の流れは非常にシンプルです。

    施設データ
          │
          ▼
    ArcGIS Network Analyst
          │
    400m到達圏を作成
          │
          ▼
    到達圏内の施設数を集計
          │
          ▼
    各カメラ地点の説明変数

    これにより、

    • 飲食店数
    • 買い物施設数
    • 街歩き施設数
    • 学び施設数
    • 憩い施設数

    などを、人流分析に利用できる説明変数として作成しました。


    図4:400m到達圏でクルワスポットとOSM施設を集計

    最初の壁 ― 説明変数を作れば終わりではなかった

    ArcGIS Network Analystを用いて400m到達圏を作成し、人口、道路、交差点、店舗数、QURUWAスポットなど、多くの説明変数を作成しました。

    これで人流分析の準備は整ったように思えました。

    しかし、実際にデータを確認すると、別の問題が見えてきました。

    多くの変数が同じような情報を持っていた

    例えば、

    • 人口が多い場所は道路も多い
    • 道路が多い場所は交差点も多い
    • 交差点が多い場所は店舗も集まりやすい

    という都市構造そのものの特徴により、多くの説明変数が強く相関していました。

    具体的には、

    • 道路延長
    • 交差点数
    • 人口
    • 建物数
    • 店舗数

    などは、それぞれ独立した指標ではなく、互いに似た情報を表していたのです。

    この状態で説明変数をすべて回帰分析へ投入すると、多重共線性と呼ばれる問題が発生します。


    「変数を増やせば精度が上がる」とは限らない

    分析を始める前は、

    説明変数をたくさん作れば、人流をより正確に説明できるのではないか

    と考えがちです。

    しかし実際には、

    似た変数を大量に投入すると、

    • 係数が不安定になる
    • 本当に効いている要因が分からなくなる
    • 解釈が難しくなる

    という問題が生じます。

    つまり、

    「説明変数は多いほど良い」

    のではなく、

    「情報が重複しない変数を使うこと」

    が重要になります。図5は17種の説明変数を総当たりで相関係数を比較し、相関が高い、低いものは色濃淡を付け、目立つように表示するヒートマップ図です。

    図5:相関行列ヒートマップ

    GISだけでは解決できない

    GISは、

    • 人口を集計する
    • 道路延長を計算する
    • 店舗数を集計する
    • 400m到達圏を作る

    ことは得意です。

    一方で、

    「どの変数が本質的に同じ情報を表しているのか」

    「似た変数をどう整理すればよいのか」

    までは判断してくれません。

    ここで初めて、

    GISによる空間分析だけではなく、

    統計解析によって説明変数を整理する必要性

    が見えてきました。

    次回予告

    そこでどうしたか、互いに強く相関する多数の説明変数を、そのまま利用するのではなく、

    共通する特徴を少数の潜在因子へ要約する「主成分分析」

    を実施しました。

    これにより、

    数十種類の説明変数を、

    「都市のにぎわい」「歩きやすさ」「居住性」といった解釈可能な指標へ整理し、人流との関係を分析できるようになりました。

    統計解析によって

    似た説明変数を整理し、

    本当に人流を説明している要因を見つけます。

    さらに、

    平日と休日で

    まったく異なる都市構造が見えてきます。

    ▶次の記事はこちら「Vol.2はこちら

    ▶「Vol.3はこちら

    ▶「Vol.4はこちら

  • 窓口DXはサービス低下なのか?

    ~ 統計分析で実証したセルフ型窓口の効果 ~

    ■ 背景(課題)

    自治体窓口では以下の課題がある
    
    ・待ち時間の長さ
    ・窓口業務の属人化
    ・職員負担の増大
    
    一方で、
    
    「非対面化するとサービスが低下するのではないか」
    
    という懸念が存在している

    ■ 実施内容

    豊島区において

    ・建築
    ・道路
    ・都市計画

    の3分野を統合し、

    GISタッチパネルによるセルフ型窓口を導入

    ■ 導入効果

    • 来庁者が自ら必要情報を取得可能
    • 待ち時間の削減
    • 窓口業務の効率化
    • 職員負担の軽減

    ■ 本分析の目的

    窓口DXにおいて最も重要な問い「サービスは本当に低下していないのか?」これをアンケートデータと統計分析で検証

    ■ 結論

    • 満足度は高水準(88%)
    • 非対面化によるサービス低下は確認されず
    • 満足度を決めるのは「接遇」ではなく「DX」

    ◎ システム品質が最も重要

    ■ 満足度の決定要因

    従来の考え方:
    職員の対応(接遇)が重要

    分析結果:
    ・接遇 → 影響は小さい
    ・DX(操作性・待ち時間)→ 影響が大きい

    ◎満足度は「仕組み」で決まる

    ■ 利用者は4タイプに分かれる

    さらに分析では、利用者は以下の4タイプに分類できることが分かりました。

    ① DX推進派(約71%)
    → システムに満足している

    ② DX肯定派(約17%)
    → 便利だが改善を求める

    ③ DX消極派(約11%)
    → 仕方なく使っている

    ④ DX否定派(1%未満)
    → そもそも受け入れない

    ■ 改善の方向性

    重要なのは

    「どこに投資するか」

    分析結果より

    ・職員増員 → 効果が小さい
    ・システム改善 → 効果が大きい

    ◎ DX投資の優先順位を明確化できる

    ■ 実際の施策

    来庁者満足度を分析した結果、
    「接遇」ではなく「DX(処理スピード)」が評価を左右していることが判明

    特に図面取得時の待ち時間がボトルネックであったため、

    プロッターを2台→3台に増設し、
    待ち時間を分散

    その結果、
    DX評価が向上し、総合満足度も改善

    ■ 当社の強み

    ・自治体実務経験
    ・GIS導入実績
    ・統計分析(因子分析・回帰分析)

    ◎ 導入だけでなく
    「効果検証・改善提案」まで実施可能

    ▶ 本分析の詳細(因子分析・回帰分析・クラスタ分析)
    調査レポート(PDF)をダウンロード

  • 統計で証明する行政DX― 総合窓口のタッチパネル化は本当に効果があったのか?

    自治体DXの現場では、
    「導入したが効果が見えない」という声が多く聞かれます。

    ・窓口をデジタル化した
    ・システムを導入した
    ・業務を効率化した

    しかし――
    それが本当に“成果”なのかを説明できているでしょうか。

    本記事では、実際の自治体窓口で実施された
    統計学に基づくアンケート分析をもとに、
    行政DXの「効果を証明する方法」を解説します。

    なぜ行政DXは「評価できない」のか

    多くの自治体では、導入後の評価が次のようになりがちです。

    ・「便利になったと思う」
    ・「満足度は高い」
    ・「問題は特にない」

    ◎ これはすべて“主観”です。

    行政に求められるのは
    説明責任(EBPM:証拠に基づく政策立案)

    つまり

    ✔ 数値で説明
    ✔ 統計で裏付け
    ✔ 根拠を示す

    これが必要になります。

    本調査は一般的なアンケートとは異なり、
    以下の統計設計に基づいて実施されています。

    • 無作為抽出
    • 回収率 95%以上
    • サンプル数 約400件
    • 信頼率95%・誤差5%で設計
    • クロス集計分析
    • 統計的仮説検定(ノンパラメトリック検定)

    ここまで実施している自治体調査は極めて稀です。

    つまりこれは
    **「感想」ではなく「科学的評価」**です。

    結論①:満足度は高い(約88%)

    総合満足度は約88%と高い結果となりました。

    これは

    ・窓口の効率化
    ・セルフサービス化
    ・情報取得の迅速化

    が評価された結果といえます。

    結論②:しかし“全員が満足”ではない

    ここが非常に重要なポイントです。

    利用者を2つのグループに分けると

    ・初回利用者
    ・従来の対面窓口利用者(リピーター)

    ◎ この2つで満足度に差が出ました。

    リピーターの満足度は統計的に有意に低い

    これは偶然ではなく、
    統計的検定により「有意差あり」と証明されています。

    なぜこの差が生まれるのか

    理由は明確です。

    ・初回利用者 → 他自治体との比較
    ・リピーター → 過去の窓口と比較

    つまり

    「評価基準が違う」

    DXは「改善」でも「劣化」と評価されることがある

    これは行政DXにおいて非常に重要な視点です。

    結論③:年代では差は出ない

    よくある仮説として

    ・高齢者は使いにくい
    ・若年層は満足度が高い

    がありますが、

    ◎ 統計的には差は確認されませんでした。

    「なんとなくの仮説」は間違っている可能性がある

    結論④:最大の課題は“待ち時間”

    満足度が最も低かったのは

    待ち時間

    さらに曜日別分析では

    ・月曜・金曜 → 満足度低下
    ・水曜 → 高い

    ◎ 混雑と満足度が連動していることが確認されました。

    ここから見える行政DXの本質

    この分析から見えるポイントは以下です。

    • DXは「導入」ではなく「運用」が重要
    • ユーザー層によって評価が変わる
    • 仮説は統計で検証すべき
    • 待ち時間など“現場要因”が支配的

    統計分析ができる行政DXコンサルの価値

    多くのDX支援は

    ・ツール導入
    ・システム構築
    ・業務フロー改善

    に留まります。

    しかし本当に重要なのは
    ◎「効果を証明できること」です

    当社では以下を提供しています。

    • アンケート設計(統計前提)
    • データ収集設計
    • クロス集計・分析
    • 統計的検定
    • ダッシュボード可視化
    • EBPM対応レポート作成

    まとめ

    行政DXは「導入して終わり」ではありません。

    効果を測り、説明できて初めて意味があります。

    「なんとなく良くなった」から
    「統計的に効果があった」へ

    その一歩を支援するのが
    地域GIS研究所の役割です。

    より詳細な分析内容については、
    以下のレポートをご参照ください。

  • 【調査レポート概要】イベントの賑わいは「人数」では決まらない理由

    ◎ 本記事のポイント
    本分析では、
    AIカメラとGISを用いてイベント会場を分析した結果、

    「人が多い場所」が最も賑わっているのではなく、

    ・通行が活発
    ・滞在が発生
    ・視認性が高い

    といった「量」と「構造」の組み合わせが、
    賑わいに影響していることが分かりました。

    これは、
    自治体イベントや公共空間活用において、
    配置計画や導線設計の重要性を示しています。

    ■ イベントの賑わいは「人数」では決まらない

    本分析の対象となった実証事例

    本記事で紹介する分析は、横浜市・みなとみらい21地区で開催された
    「みなとみらい Christmas Market」における屋外イベント人流分析をもとにしています。

    本実証では、IoTカメラとAIによる人物検出、GISによる可視化、
    統計分析を組み合わせ、イベント会場における来場規模、混雑状況、通過・滞留の関係を定量的に把握しました。

    イベントの評価は、これまで「来場者数(人数)」で行われることが一般的でした。

    しかし現場では、

    ・人は多いが、賑わっていない
    ・混雑しているが、滞在されていない
    ・通過しているだけで、売上や回遊につながらない

    といった状況が発生します。

    つまり、

    「人数=賑わい」とは限らない

    という課題があります。

    本記事では、実際のイベントデータをもとに、
    賑わいを構造的に捉える分析手法を解説します。

    ■ AI×GIS分析で分かった
    イベントの賑わいは「人数」だけでは決まらない理由

    イベント会場では、同じ人数でも状況は大きく異なります。

    例えば、

    ・会場の外を通過する人が多い状態
    ・会場内部に入り、滞在・回遊している状態

    では、見た目の印象も実際の効果も全く異なります。

    重要なのは、

    「どれだけ人がいるか」ではなく
    「どのように人が動いているか」

    です。

    つまり、賑わいは「量」ではなく「構造」で決まります。

    ■ 本分析で導入した指標

    図:会場内流動性(inside_ratio)と賑わいの関係

    本分析では、賑わいは直線的に増加するのではなく、
    一定のポイントで最大となる「山型(非線形)構造」であることが確認されました。

    これは、通過と滞在が適度に混在している状態が、
    最も賑わいとして認識されることを示しています。

    ■ 最重要ポイント

    分析の結果、

    最も賑わって見える状態は、

    inside_ratio ≈ 0.44

    であることが分かりました。

    つまり、

    通行人と滞在者が適度に混在している状態

    が最も賑わいとして認識されることを意味します。

    ■ なぜこの結果が重要か

    この結果は、イベント運営の考え方を大きく変えます。

    これまでのように、

    「とにかく人を増やす」

    のではなく、

    ・滞在を促す導線設計
    ・回遊性を高める配置
    ・通過と滞在のバランス調整

    が重要であることを示しています。

    つまり、

    賑わいは「設計できる」ものです。

    ■ さらに分かったこと(信頼性)

    本分析では、他にも以下の点が確認されました。

    ・天候は来場者数に影響する(有意差あり)
    ・人流構造(内側化率)は天候に左右されにくい
    ・エリアごとに人の動き方が異なる

    これにより、

    イベントの評価を感覚ではなく、
    データで説明できる状態が実現されます。

    ■ みなとみらい21地区で実施した人流分析の概要

    本分析は、みなとみらい21地区で開催されたクリスマスマーケットを対象に、
    屋外イベントにおける賑わいを、AIカメラとGISを用いて定量的に把握したものです。

    観測期間は2025年12月15日から12月25日までの11日間、
    観測時間は各日11:00から21:30までとし、
    会場内外に設置した5台の可動式IoTカメラを用いてデータを取得しました。

    上図の5台のカメラには、それぞれ異なる役割を持たせています。

    ・F1:会場内側導線の通過量を把握
    ・F2:会場外縁部の通過量を把握
    ・C1、C2、C3:会場内部の賑わい・滞留状況を把握

    このように、入口や外縁部を通る人の流れと、
    会場内で滞在・回遊する人の状況を分けて観測することで、
    単なる人数計測では把握できない
    「イベント空間の使われ方」を分析しました。

    ■ 毎分スナップショットとAI解析による観測方式

    本実証では、各カメラから毎分スナップショット画像を取得し、
    AIによる人物検出を行いました。

    取得したデータは、5分単位および15分単位で集計し、
    ArcGISを用いたマップ・ダッシュボード上で可視化しました。

    この仕組みにより、

    ・時間帯ごとの賑わいの変化
    ・会場内のエリア別の混雑傾向
    ・外縁を通過する人と内部へ入る人の構造
    ・曜日や天候による違い

    を継続的に把握できます。

    また、本分析では個人を特定する追跡は行わず、
    静止画像から人数と空間的な集積状況を把握する方式としました。
    公共空間でのイベント評価において、
    プライバシーに配慮しながら運営改善に必要なデータを取得する方法です。

    ■ 人数ではなく「量」と「構造」で賑わいを見る

    本分析では、イベントの賑わいを次の2つの視点から評価しました。

    賑わい量

    C1、C2、C3の3つの賑わい観測エリアで検出された人数を集計し、
    会場内部にどの程度人が集まっていたかを把握する指標です。

    この値は、ユニーク来場者数ではなく、
    特定エリアにおける人の集積や滞留の厚みを示します。

    内側化率(inside_ratio)※会場内への流入割合

    会場外縁部を通る人流に対して、
    どの程度の人が会場内部の導線へ入り込んでいるかを示す構造指標です。

    inside_ratio = F1 ÷(F1 + F2)

    この指標により、
    外縁部を通過するだけの人が多い状態と、
    会場内部に入り、滞在・回遊する人が多い状態を区別できます。

    つまり、イベントの賑わいは
    「どれだけ人がいたか」という量だけでなく、
    「人がどのように会場を利用していたか」という構造とあわせて
    評価することが重要です。

    ■ 11日間の観測で確認された主な結果

    1. 内部滞在が強い日ほど、賑わい規模も大きい傾向

    11日間の日別データを分析した結果、
    内側化率が高い日ほど推定延べ入場者数も多くなる傾向が確認されました。

    両者の間には中程度の正の相関
    (相関係数 r = 0.62)が認められています。

    これは、単に会場周辺を通る人を増やすだけでなく、
    来場者が内部へ入り、滞在・回遊しやすい空間をつくることが、
    イベントの賑わい形成に関係することを示唆しています。

    2. 平日と休日では、賑わう時間帯が異なる

    休日は、平日に比べて日中から夕方にかけて
    会場内部の賑わい量が高くなる傾向が確認されました。

    一方、18時以降は休日の減少幅が比較的大きく、
    休日は日中から夕方に来場が集中し、
    夜間は早い時間帯から減少する行動特性が見られました。

    この結果は、スタッフ配置や誘導計画を
    曜日・時間帯別に検討する必要性を示しています。

    3. 雨天時には賑わい量が有意に低下

    降雨時と非降雨時の賑わい量を比較した結果、
    Wilcoxon順位和検定において
    統計的に有意な差が確認されました(p = 0.0004)。

    降雨は、会場内部に集まる人の規模を低下させる要因として
    明確に確認されました。

    一方、内側化率については、
    降雨時と非降雨時で統計的に有意な差は確認されませんでした。

    この結果から、来場規模は天候に影響を受ける一方で、
    内部へ入り込む人流構造は、
    賑わい量とは別の視点で評価する必要があることが分かります。

    ■ GISで明らかになったエリアごとの役割

    会場内部のC1、C2、C3を比較した結果、
    各エリアには異なる賑わい特性があることが確認されました。

    C1とC2は強い相関を示し、
    会場内の主要な賑わい変化をほぼ同時に捉えるエリアでした。

    一方、C3はC1・C2に対して15分から30分程度遅れて
    賑わいが高まる傾向が確認されました。

    これは、主動線を通過した来場者が、
    時間差を伴って別の場所に滞留する構造を示しています。

    また、時間帯別に見ると、

    ・平日はC2が安定した主動線的エリア
    ・休日の夕方以降はC3で賑わいが集中しやすい
    ・C1は全体人流の分散に関係する補助的エリア

    という特徴が確認されました。

    このような違いは、会場全体の人数だけでは把握できません。
    GIS上で場所と時間を重ねて確認することで、
    重点的に監視・誘導すべき場所を
    曜日や時間帯に応じて検討できるようになります。

    ■ 可視化情報は来場者向け情報提供にも活用可能

    本実証では、AI解析により取得した賑わいデータを
    ArcGISによる「にぎわい度MAP」として可視化しました。

    にぎわい度MAPの閲覧数と推定延べ入場者数の関係を分析した結果、
    両者の間には中程度の正の相関
    (相関係数 r = 0.43)が確認されました。

    閲覧数だけで来場行動を説明することはできませんが、
    混雑や賑わいの可視化情報が、
    来訪者への情報提供手段として一定の可能性を持つことが示されました。

    今後、Webサイト、SNS、現地サイネージなどと連携することで、
    混雑回避や回遊促進、来場判断支援への展開も考えられます。

    ■ 実証データの信頼性と利用上の留意点

    本分析では、観測開始後の2日間についてデータ欠損状況を確認しました。

    ・総レコード数:6,310件
    ・欠損レコード数:470件
    ・欠損率:7.45%

    欠損は特定のカメラだけで発生したものではなく、
    API取得側の一時的な影響によるものと整理されています。

    本分析は瞬間的な人数の断定ではなく、
    5分単位・15分単位での傾向把握や相対比較を重視しているため、
    日別・時間帯別の傾向解釈への影響は限定的と評価されました。

    なお、本分析で扱う賑わい量や推定延べ入場者数は、
    個人を識別して厳密な実来場者数を集計したものではありません。
    イベント運営、安全管理、空間改善の判断材料として、
    人流の変化と構造を説明可能にするための指標です。

    ■ 行政にとっての価値

    本分析は、
    イベント評価だけでなく、

    ・回遊性の改善
    ・滞留空間の設計
    ・公共空間活用

    にも応用可能です。

    特に自治体においては、

    ◎ 説明責任(EBPM)

    を果たすうえで重要な基盤となります。

    ■ まとめ

    みなとみらい21地区のクリスマスマーケットにおける本実証では、
    5台のIoTカメラ、AI人物検出、GIS可視化、統計分析を組み合わせ、11日間にわたってイベント空間の賑わい構造を分析しました。

    その結果、イベント評価では、単なる人数の多さだけでなく、

    ・会場内部へ人が入り込んでいるか
    ・どの場所に滞在が生じているか
    ・曜日や時間帯によって混雑構造がどう変化するか
    ・天候によって来場規模がどう変わるか

    をあわせて把握することが重要であると確認されました。

    特に、内側化率と賑わい量を組み合わせることで、
    「人は多いが通過中心の状態」と
    「内部で滞在・回遊が生まれている状態」を
    区別して説明できるようになります。

    また、GISによる可視化により、
    平日と休日で重点的に確認すべきエリアや時間帯が異なることも
    運営判断に活用できる形で整理されました。

    AIカメラとGISを活用した人流分析は、
    イベントの効果検証だけでなく、
    誘導計画、安全対策、公共空間の改善、
    次年度イベント設計の根拠づくりにも展開可能です。

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  • 自治体イベント市場の規模は?2〜3億円と試算した理由【データ分析】

    なぜ自治体イベントの市場規模を出す必要があるのか

    自治体向けの提案において、必ず問われるのが「市場規模」です。

    ・なぜこの分野に取り組むのか
    ・どれくらいの案件が見込めるのか
    ・どの程度の売上になるのか

    しかし実際には、自治体イベント市場については明確な統計が存在せず、多くの場合、

    「感覚」や「過去事例」

    に基づいて説明されているのが実態です。

    本記事では、自治体公式Webサイトのデータをもとに、市場規模を定量的に試算した結果を公開します。

    なぜ自治体イベントにデータ分析が必要なのか

    自治体イベントは、観光振興や地域活性化、防災訓練など多くの目的を持つ重要な施策です。

    しかし現場では、

    ・来場者数が正確に把握できない
    ・混雑状況が分からない
    ・施策の効果を説明できない

    といった課題が多く存在します。

    その結果、

    ◎ 「イベントを実施した」という事実はあっても
    ◎ 「どれだけ効果があったか」は分からない

    状態になっています。

    データ分析によって何が変わるのか

    イベントにおいて人流データを取得・分析することで、以下が可能になります。

    ・来場者数の定量把握
    ・時間帯別の混雑状況の可視化
    ・導線や滞留の分析
    ・施策効果の説明(EBPM)

    これにより、

    ◎ 感覚ではなくデータに基づく評価

    が可能になります。

    市場規模はどのように算出したのか

    本記事で示す市場規模は、こうした「イベントの効果を可視化するためのデータ分析サービス」が、どの程度の広がりを持つかを示したものです。
    今回の試算は、以下のステップで行っています。

    ① 自治体公式サイトからイベント情報を取得
    ② イベント関連語彙の出現回数をカウント
    ③ 出現回数をイベント開催回数に変換
    ④ 1イベントあたりの単価を設定
    ⑤ 売上として積み上げ

    ポイントは、「実データを起点にしている」点です。

    単なるアンケートや推定ではなく、公開情報をもとに再現可能な形で構築しています。

    イベント回数への変換ロジック

    イベント語彙の出現回数は、そのままでは売上に直結しません。

    理由は、

    ・同じイベントが複数ページに掲載される
    ・告知・報告などで重複する
    ・単語数=開催回数ではない

    ためです。

    そこで、営業現場で説明可能なルールとして、以下の変換を採用しました。

    ■ 1〜9回 → 年1回
    ■ 10〜20回 → 年2回
    ■ 21回以上 → 年3回

    このルールは、

    ・過大評価を避ける
    ・営業説明がしやすい
    ・初年度導入の現実性

    を考慮して設計しています。

    なぜ「最大3回」に設定したのか

    実際には、大都市では年間10回以上のイベントが存在します。

    しかし本試算では、

    ・人員体制
    ・自治体の予算制約
    ・初年度導入のハードル

    を考慮し、

    ◎ 1自治体あたり最大3回

    に制限しています。

    これは「理論最大」ではなく、

    ◎ 実際に取りに行ける現実的な上限

    を示しています。

    人口を掛け算しない理由

    市場規模を算出する際に、よくあるのが「人口×単価」という考え方です。

    しかし本分析では、この方法は採用していません。

    理由は明確です。

    ・人口が多くてもイベントが少ない自治体がある
    ・人口が少なくてもイベントが活発な自治体がある

    そのため人口は、

    ◎ 市場規模ではなく「優先順位」

    として使用しています。

    これにより、営業現場で使いやすいモデルになっています。

    市場規模は2〜3億円と試算

    上記のロジックに基づき、関東・中部・関西の自治体を対象に試算した結果、

    ◎ 約2〜3億円規模

    と算出されました。

    この数値は、

    ・初年度導入
    ・実証中心
    ・限定エリア

    という前提に基づいた、保守的な試算です。

    つまり、

    ◎ 現実的に取りに行ける市場

    を示しています。

    この分析が自治体DXに与える意味

    この市場分析は、単なる売上試算ではありません。

    ・どの自治体にアプローチすべきか
    ・どの規模で提案すべきか
    ・どの分野で展開できるか

    といった、営業戦略そのものに直結します。

    また、

    ・人流データ
    ・イベント分析
    ・可視化

    といったデータ活用は、自治体DXの中核になります。

    つまり本分析は、

    ◎ 市場分析 × DX戦略

    をつなぐ基盤となります。

    自治体イベント市場は、これまで感覚的に捉えられてきました。

    しかし、

    ・Webデータ
    ・イベント語彙
    ・人口情報

    を組み合わせることで、

    ◎ 定量的に説明可能な市場

    へと変わります。

    地域GIS研究所では、このようなデータ分析をもとに、自治体DXの支援を行っています。

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