― 主成分分析で見えた都市の魅力と休日の人流モデル―
自治体GIS×生成AI 実践シリーズの3回目です。
平日は都市構造に規定されていた。
前回の記事では、平日の人流について、駅からの距離、建物人口、就業者、道路構造、駐車場など、都市の物理的・機能的な構造との関係を分析しました。
その結果、平日の人の動きは、比較的明瞭に都市構造によって説明できることが分かりました。
朝は駅や職場へ向かい、昼は業務や買い物のために動き、晩は再び駅や駐車場へ戻っていく。
もちろん一人ひとりの行動目的は異なりますが、全体として見れば、平日の人流は、
- 駅がどこにあるか
- 職場や建物がどこに集積しているか
- どの道路が歩きやすいか
- 駐車場がどこに配置されているか
といった都市構造に沿って形成されていました。
そこで、次の問いが生まれます。
平日は「駅に近い」「職場がある」といった都市構造に従順な動きをする人々が、休日にはその構造を離れ、どこへ向かうのか。
休日には通勤や通学という強い制約がありません。
人は自ら目的地を選び、食事をし、買い物をし、公園で過ごし、イベントに参加し、街を歩きます。
平日の人流が都市構造によって規定されるとすれば、休日の人流は、人の意志によって形成されるのでしょうか。
今回の分析では、この**「都市構造」と「人の意志」**という対立軸から、休日の賑わいを説明するモデルの構築を試みました。
しかし、実際に分析を始めると、休日の人流を説明することは、平日よりもはるかに難しいことが分かりました。
※「本稿では、岡崎市QURUWAエリアに設置された人流計測地点を対象に、休日の朝・昼・晩の人流を目的変数としました。各地点から徒歩400メートルで到達できる範囲をGISで作成し、その圏内に存在する施設、道路、建物人口、駐車場などを説明変数として検討しています。」
休日モデルで最も難しかったのは、回帰分析の計算そのものではありませんでした。人がその場所へ「行きたい」と思う理由を、どのような説明変数として表現するかです。施設を数えるだけでは足りず、AIで施設の意味を数値化しても足りませんでした。本稿では、説明変数を作り、捨て、組み替えながら、一定のモデルへたどり着くまでの過程を紹介します。
休日の賑わいを何で説明するのか
平日の人流であれば、説明変数の候補は比較的見つけやすいものです。

駅からの距離、就業人口、建物人口、道路延長、交差点数、駐車場数など、通勤や業務活動と関係する客観的な都市構造データを用意できます。
一方、休日には、人がその場所を訪れる理由そのものが多様になります。
例えば、
- 飲食店が多い
- 買い物ができる
- 公園や広場で休める
- 図書館や文化施設がある
- 歩いて楽しめる街並みがある
- イベントが開催されている
- 写真を撮りたくなる場所がある
- その街を訪れる明確な目的がある
といった要素が考えられます。
ところが、これらは人口や道路延長のように、既存の統計データから簡単に取得できるものではありません。
飲食店を1件、商業施設を1件と数えることはできます。しかし、同じ1件でも、人を遠方から呼び込む店と、近隣住民が日常的に利用する店とでは、休日の人流への影響は異なります。
また、公園や広場についても、単に存在するだけでは人が集まるとは限りません。滞在できる空間なのか、イベントが開かれるのか、周辺施設と回遊できるのかによって、その意味は変わります。
つまり、休日モデルでは、最初の段階から、
何を説明変数として数値化すれば、人がその場所を選ぶ理由を表現できるのか
という問題に直面しました。
図2:休日人流を説明する候補となる要素(説明変数の検討)

既存の施設データだけでは説明できなかった
当初は、OpenStreetMapなどから取得した施設データを用い、各カメラ地点の徒歩圏内に存在する施設数を集計しました。
飲食店、小売店、公園、公共施設などを分類し、それぞれの件数と休日人流との関係を確認しました。
しかし、結果は十分ではありませんでした。
理由の一つは、施設データの分類が、今回の分析目的に合っていなかったことです。
一般的なPOIデータには、店舗や公共施設だけでなく、行政サービス、設備、案内施設なども含まれます。これらを機械的に集計しても、「休日に人が訪れたくなる場所」を表しているとは限りません。
また、店舗数が多い場所ほど人流が多いという単純な関係も確認できませんでした。
店舗が多数存在していても、日常利用型の店が中心であれば、休日の目的地としての吸引力は高くない可能性があります。一方、施設数が少なくても、図書館、広場、ランドマーク、人気店など、強い目的性を持つ場所があれば、人が集まることがあります。
施設を単に「数える」だけでは、休日の賑わいを説明できなかったのです。
※これはOpenStreetMapの精度が低いという意味ではありません。OSMは幅広い施設情報を取得できる優れたデータですが、今回必要だったのは、一般的な施設分類ではなく、「休日にその場所を訪れる理由」に近い分類でした。
QURUWA公式情報から、街の機能を捉え直す
行政施設分類は「何の施設か」を示します。一方、QURUWAの分類は「そこで何ができるか」を示しています。休日人流を説明するうえでは、施設の名称よりも、飲食、買い物、滞在、学び、回遊といった行動との関係が重要です。そこで本稿では、施設そのものではなく、施設が来訪者に提供する機能を捉えることにしました。
そこで、一般的な施設データではなく、QURUWAの公式サイトに掲載されているスポット情報を利用することにしました。
QURUWA公式サイトは、単なる施設一覧ではありません。
街を訪れる人の視点から、
- 食べる
- 買い物をする
- 憩う
- 学ぶ
- 街を歩く
- QURUWA拠点
という形で、場所の役割が整理されています。
これは行政施設分類や業種分類とは異なり、人がその場所で何をするのかに近い分類です。
公式サイトから123件のスポット情報を取得し、名称、カテゴリ、位置情報、公式サイト、Instagram、イベント情報などを整理しました。
次に、各カメラ地点から道路ネットワークに沿った徒歩400メートル到達圏を作成し、その内部に含まれるQURUWAスポットを集計しました。
ここで重要なのは、単純な半径400メートルの円ではなく、実際の道路ネットワークに沿って到達可能な範囲を用いたことです。
川、橋、道路の接続、街区形状によって、直線距離では近くても歩いて到達しにくい場所があります。
休日の回遊を扱う以上、「近くにあるか」ではなく、実際に歩いて行けるかを捉える必要があります。
この部分は、施設情報を理解するAIだけでは扱えません。GISによるネットワーク解析が必要になります。
施設数を増やしても、モデルは良くならなかった
QURUWAの6分類について、
- FOOD
- SHOP
- RELAX
- LEARN
- WALK
- HUB
の件数を各到達圏で集計しました。
ところが、これらをそのまま重回帰分析へ投入しても、安定したモデルにはなりませんでした。
中心市街地では、飲食店が多い場所には買い物施設も多く、憩いの空間や拠点施設も近接しています。
つまり、それぞれの変数が独立しているのではなく、都市の中心性や施設集積を共通して表していました。
変数を増やせば説明力が上がるように見えますが、実際には説明変数同士の相関が強くなり、どの変数がどの程度影響しているのか分からなくなります。
これは多重共線性の問題です。
休日の賑わいを詳しく説明しようとして施設分類を増やすほど、モデルが不安定になるという逆説が生じました。
この段階で必要だったのは、説明変数を増やすことではなく、複数の施設情報の背後にある共通した性格を見つけることでした。
AIが作成した説明変数を、そのまま使わなかった理由
生成AIにより、各スポットについて誘引力や滞在性など複数の評価指標を作成しました。しかし、これらをそのまま重回帰分析へ投入したわけではありません。
その理由は、これらの説明変数同士が強く相関しているためです。
例えば、誘引力が高い施設は滞在性も高い傾向があり、高評価施設数とも関係しています。このような変数をそのまま重回帰分析へ用いると、多重共線性が発生し、モデルの安定性が低下する可能性があります。
そこで本研究では、休日人流を一切用いず、AIが作成した説明変数だけを対象として主成分分析を実施しました。
ここで重要なのは、この段階では目的変数である休日人流を見ていないことです。
つまり、「人流をよく説明するように主成分を作った」のではなく、施設が持つ特徴だけから、共通する性質を抽出しています。
表1 FAC2_1(第2主成分)を構成する主な変数
| AIで作成した説明変数 | 主成分負荷量 | 解釈 |
|---|---|---|
| ATTRACTION_SCORE5_COUNT | 0.930 | AIが最高評価したスポット数 |
| ATTRACTION_SCORE4UP_COUNT | 0.852 | 高評価スポットの集積 |
| ATTRACTION_RAW_MAX | 0.577 | エリア内で最も高い誘引力 |
| DWELL_MEAN | 0.441 | 平均滞在性 |
| ATTRACTION_RAW_MEAN | 0.428 | 平均誘引力 |
回転後成分行列(Varimax回転)より作成。
FAC2_1は「休日人流を説明するため」に作られた指標ではない
表1から分かるように、第2主成分(FAC2_1)は、高評価スポット数や最大誘引力に強く反応する成分でした。
つまりFAC2_1は、
人流データから作られた指標ではなく、施設が持つ潜在的な魅力や目的地としての性格を表した合成指標
と解釈できます。
ここでは休日人流を一切利用していないため、AIが施設情報から抽出した「場所の特徴」だけが反映されています。
最後に初めて休日人流との関係を検証した
主成分分析によって得られたFAC2_1は、その後の重回帰分析に説明変数として投入しました。
その結果、徒歩圏道路延長、建物人口、駐車場数とともに、FAC2_1は休日人流を説明する主要な説明変数として採用されました。
つまり、
AIが施設情報から抽出した潜在的な場所の性格が、休日人流と統計的な関係を持つことが確認された
ことになります。
これは、AIが人流を予測したのではありません。
AIは施設情報から意味を抽出し、主成分分析はその意味を少数の潜在指標へ整理しました。そして最後に、重回帰分析によって、その潜在指標が休日人流とどのような関係を持つのかを検証しています。
AIによって「施設の性格」を数値化する
しかし、施設数だけでは、その場所が持つ目的地としての強さや滞在性を表現できません。
そこで、QURUWA公式サイトに掲載された各スポットの説明文、施設カテゴリ、位置関係、イベント情報などをもとに、生成AIを使って施設の性格を評価しました。
具体的には、各施設について、
- 目的地として人を呼び込む力
- 公共空間としての利用可能性
- イベントとの関係
- 滞在しやすさ
- ランドマーク性
- SNSで共有されやすい性格
などを整理し、説明変数の候補を作成しました。
また、施設ごとの誘引力や滞在性を表す指標として、
- 誘引力スコアの合計
- 誘引力スコアの平均
- 最大誘引力
- 高評価施設数
- 滞在性スコアの合計
- 滞在性スコアの平均
なども作成しました。
図3:徒歩圏(400m到達圏)でのスポット集計とカテゴリ件数の把握

ここでAIは、統計的な答えを直接出したわけではありません。
AIが担ったのは、文章として記載された施設の特徴を読み取り、これまで数値として存在しなかった場所の意味を、分析可能な候補変数へ変換することです。
ただし、AIが作った変数が、そのまま正しい説明変数になるわけではありません。
AIの評価には判断が含まれます。スコアの根拠を確認し、地図上の位置関係と照合し、統計的な妥当性を検証する必要があります。
この過程は、AIに一度質問して終わるものではありませんでした。
分類方法を見直し、スコアを作り直し、施設数との関係を確認し、相関を調べ、モデルへ投入しては外すという作業を繰り返しました。
図4:生成AIを活用した休日説明変数の構築

※AIによる評価では、施設ごとに同じ評価項目と判定基準を適用しました。また、スコアだけでなく、評価理由を記録し、人が確認できる形で整理しました。これはAIの判断を正解として採用するためではなく、文章情報を一定の手順で候補変数へ変換し、その後の統計分析とGISで検証できる状態にするためです。
主成分分析で、背後の構造を探る
施設関連の変数は、互いに強く相関していました。
例えば、誘引力の高い施設が多い場所では、滞在性の合計も高くなります。施設数が多い場所では、誘引力の合計も大きくなりやすくなります。
これらをすべて重回帰へ投入すれば、同じ性質を重複して評価することになります。
そこで主成分分析を用い、複数の施設変数を少数の潜在的な軸へまとめました。
ここで捉えようとしたのは、個別の施設数ではなく、複数の施設が組み合わさって形成する場所の性格です。
分析の過程では、
- 多数の施設や滞在機能が面的に集まる性格
- 強い目的地や拠点が存在する性格
- 飲食、買い物、憩いなどが複合する性格
といった潜在的な要素が現れました。
ただし、因子や主成分は、計算すれば自動的に意味が決まるものではありません。
どの変数が強く寄与しているかを確認し、実際の地図と照らし合わせながら、因子が何を表しているのかを解釈する必要があります。
数値上は同じような得点でも、現地では商店街、図書館、公園、橋の周辺など、異なる都市空間が含まれます。
このため、統計表だけで判断せず、因子得点をGIS上に表示し、その空間分布を確認しました。
統計分析で見つけた潜在因子を、GISで現実の街へ戻して確認する。
この往復を繰り返すことで、ようやく休日の賑わいを表す説明変数として利用できる形になりました。
「人の意志」だけでも、休日は説明できなかった
分析を始めた時点では、休日には通勤や業務の制約が弱まり、人は施設の魅力や目的性によって自由に移動すると考えていました。
しかし、AIによって作成した誘引力や滞在性の変数だけでは、休日人流を十分に説明できませんでした。
人を引きつける施設があっても、そこへ至る歩行ネットワークが弱ければ、回遊は生まれにくくなります。
施設が集積していても、周辺に人が存在せず、アクセス手段が乏しければ、賑わいは限定されます。
逆に、建物人口や道路延長が大きいだけでも、休日に訪れる目的がなければ、人流は形成されません。
休日の人流は、都市構造を無視した人の自由な行動ではありませんでした。
かといって、平日のように都市構造だけで決まるものでもありません。
分析から見えてきたのは、
人を引きつける場所の性格と、人がそこへ到達し、回遊し、滞在できる都市構造の組み合わせ
です。
最終モデルへたどり着くまで
休日モデルでは、多数の組み合わせを検討しました。
表2 休日モデルの検討過程
| 段階 | 主な説明変数 | 結果・課題 |
|---|---|---|
| 施設数モデル | OSM施設件数、カテゴリ件数 | 施設の意味を十分に表せない |
| AI指標モデル | 誘引力、滞在性、ランドマーク性 | 意味は捉えるが空間構造を説明できない |
| 統合モデル | 第2因子、道路延長、建物人口、駐車場 | 場所の性格と都市構造を同時に説明 |
施設分類の件数、AIによる誘引力・滞在性指標、主成分得点、道路延長、建物人口、駐車場、駅距離などを入れ替えながら、朝・昼・晩それぞれについてモデルを検証しました。
変数を増やせば決定係数が高くなる場合もあります。しかし、説明変数同士の相関が強く、係数の符号が不安定になるモデルは採用できません。
一方で、変数を減らしすぎれば、休日の多様な行動を捉えられません。
今回は、
- 統計的な有意性
- モデル全体の説明力
- 多重共線性
- 係数の方向
- GIS上で見た空間分布
- 都市行動として説明可能か
を確認しながら、モデルを絞り込みました。
最終的には、朝・昼・晩に共通して、
- 第2因子得点
- 徒歩圏内道路延長
- 建物人口の対数値
- 駐車場ポイント数
を用いる4変数モデルを採用しました。
第2因子得点は、AIによって整理した施設の誘引力や滞在性を含む複数の変数を統合した、休日の場所の性格を表す指標です。
一方、徒歩圏内道路延長、建物人口、駐車場数は、その場所を支える都市構造を表しています。
つまり最終モデルそのものが、
人の目的地選択を表す変数と、それを受け止める都市構造の変数
の組み合わせになっています。
最終モデルの信頼性を数値で確認する
表3 休日人流最終モデルの概要
| 時間帯 | R² | 調整済みR² | モデル全体のp値 | 最大VIF | 観測地点数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 朝 | 0.595 | 0.461 | 0.020 | 11.987 | 17 |
| 昼 | 0.661 | 0.548 | 0.008 | 11.987 | 17 |
| 晩 | 0.622 | 0.496 | 0.014 | 11.987 | 17 |
最終モデルでは、朝・昼・晩ともモデル全体は5%水準で有意でした。説明力は昼が最も高く、調整済みR²は0.548、朝は0.461、晩は0.496でした。一方、最大VIFは3モデル共通で11.987となっており、特にFAC2_1と他の都市構造変数との間に強い共線性が残っています。
※一般的にはVIFが10を超えると多重共線性が強い可能性があるとされます。本モデルでもその傾向は残りましたが、都市構造上相互に関連する変数を扱っていることから、その限界を認識した上で解釈しています。
最終モデルでは、朝・昼・晩に共通して、第2主成分得点(FAC2_1)、徒歩圏内道路延長、建物人口の対数値、駐車場ポイント数の4変数を用いました。
モデル全体の有意性を確認すると、朝はp=0.020、昼はp=0.008、晩はp=0.014であり、3つの時間帯すべてで5%水準の有意なモデルとなりました。
調整済み決定係数は、朝が0.461、昼が0.548、晩が0.496でした。特に昼モデルでは、地点間の人流差の約55%を4つの説明変数によって説明しています。
一方、多重共線性を示すVIFの最大値は、3モデルとも11.987でした。一般的な目安では高い値であり、このモデルには説明変数間の強い関連が残っています。
ただし、FAC2_1は、施設の誘引力や高評価スポットの集積を複数の変数からまとめた主成分得点です。また、徒歩圏内道路延長や建物人口も、中心市街地の集積性と関係します。そのため、これらが一定程度相関することは、都市構造上も不自然ではありません。
したがって本稿では、VIFが高いことを無視して「精度の高いモデル」と断定するのではなく、
モデル全体には統計的な説明力が確認された一方、説明変数間には強い関連が残る探索的モデル
として位置づけます。
本モデルは17地点という限られた観測地点を対象としています。数値は一般法則を示すものではなく、QURUWAエリア内において、施設の目的地性と都市構造が休日人流とどのように関係するかを確認するためのものです。
多重共線性が示した、もう一つの意味
一方で、この結果は統計上の課題だけを示しているわけではありません。
FAC2_1、徒歩圏内道路延長、建物人口、駐車場ポイント数は、それぞれ独立した要素ではなく、実際の都市では互いに関係しながら街の魅力を形成しています。
そのため、例えば駐車場だけを整備しても、人流が大きく増えるとは限りません。 駐車場があっても、目的となる施設の魅力が不足していたり、安全で快適に歩ける空間がなければ、人は回遊せず滞在時間も伸びません。
逆に、魅力的な施設が整備されても、アクセスや歩行環境が十分でなければ、その効果は限定的になります。
つまり、多重共線性は「説明変数として分離しにくい」という統計的な特徴であると同時に、現実の都市では、それらの要素が一体となって賑わいを生み出していることを示しているとも考えられます。
自治体のまちづくりにおいても、駐車場整備、道路空間の改善、施設の魅力向上、人口集積をそれぞれ個別施策として進めるのではなく、相互に組み合わせた総合的な都市施策として計画・評価することの重要性を、この分析結果は示唆しています。
回帰式をGISに実装する
最終モデルでは、朝・昼・晩について、それぞれ異なる非標準化係数が得られました。
これらの係数をArcGIS Proのフィールド演算へ実装し、各カメラ地点の徒歩400メートル到達圏について、人流ポテンシャルを算出しました。
朝
Y朝=1590.380−50.708F2−0.018W−191.317P+11.549C
昼
Y昼=4150.821−139.422F2−0.052W−500.327P+26.247C
晩
Y晩=670.095−21.622F2−0.010W−80.771P+10.163C
ここで、
- :第2因子得点
- :徒歩圏内道路延長
- :建物人口の対数値
- :駐車場ポイント数
- :各時間帯の推定人流量
です。
回帰式をGISへ実装することで、係数表だけでは捉えにくかった時間帯別の空間分布を、地図として確認できるようになりました。
※なお、各係数の符号は、その変数単独の効果を意味するものではありません。他の説明変数を一定とした条件下での関係を示しています。また、因子得点は因子の向きによって符号が反転するため、「負だから魅力が低い」と直接読むことはできません。
地図にして初めて見えたもの
人流ポテンシャルをGIS上に可視化した結果、数値表だけでは把握しにくかった時間帯ごとの特徴が明確になりました。
まず、朝は桜城橋北・桜城橋南が最も高いポテンシャルを示しました。一方で、東康生通り1・2は下位に位置しており、休日の朝は橋周辺が人流の中心となる傾向が確認できます。
昼になると様相は大きく変わります。東康生通り1が最も高いポテンシャルとなり、東康生通り2も上位へ移動しました。 一方、朝に上位であった桜城橋周辺は順位を下げており、人の流れの中心が商業エリアへ移る様子が読み取れます。
晩になると、再び通り沿いの地点が上位を占めるものの、昼とは順位が入れ替わり、通り沿い全体へ人流が分散する傾向が見られました。特に東康生通り2は最上位となり、東康生通り4も上位を維持しており、夜間の回遊性を反映した結果と考えられます。
図5:重回帰式の結果をGISで表示

これは、同じ休日であっても都市構造がすべての時間帯で同じように作用しているわけではないことを示しています。
朝には朝の目的があり、昼には昼の回遊があり、晩には晩の滞在や帰宅行動があります。
同じ道路、同じ建物、同じ施設であっても、時間帯によってその意味は変わります。
AIが作成した説明変数とGISによる空間可視化を組み合わせることで、「どこに人が集まりやすいか」だけでなく、「時間帯によって賑わいの中心がどのように移動するか」まで把握できることが分かりました。
これは係数表やランキングだけでは読み取れません。
AIが施設の意味を数値へ変換し、統計分析が変数間の関係を整理し、GISがその結果を都市空間へ戻す。
つまり、同じ都市構造でも時間帯によって果たす役割が変化することが、GISによる可視化によって初めて確認できました。
この三つを組み合わせることで初めて、休日の賑わいの空間構造が見えるようになりました。
休日の人流は「都市構造 vs 人の意志」ではなかった
今回の分析では、当初、
- 平日=都市構造に規定される
- 休日=人の意志によって動く
という対立を想定していました。
しかし、分析結果は、それほど単純ではありませんでした。
休日の人は、平日よりも自由に目的地を選びます。
その意味では、施設の魅力、滞在性、イベント、街歩きの楽しさなど、「人の意志」に関係する要素が重要になります。
一方で、その目的地へ行けるか、周辺を歩けるか、滞在できるかは、道路、人口、駐車場などの都市構造に支えられています。
したがって、休日の賑わいは、
都市構造か、人の意志か
という二者択一ではありません。
人の意志を引き出す都市機能と、その行動を可能にする都市構造が重なった場所に、休日の賑わいが生まれる
と考える方が適切です。
AIだけでは説明できない
今回、AIは重要な役割を果たしました。
公式サイトの記事や施設説明を読み、施設の誘引力、滞在性、ランドマーク性など、従来のGISデータには存在しなかった意味情報を分析可能な変数へ変換しました。
しかし、AIが作った変数だけでは、休日人流を説明できませんでした。
図6:休日の人流にはAIとGISの統合が必要

AIには、道路ネットワークに沿った到達圏を計算することも、施設の空間的な重なりを正確に集計することもできません。
また、AIが作ったスコアが現実の街のどこに分布し、都市構造とどう重なるのかを確認するには、GISが必要です。
逆に、GISだけでは、公式サイトに記載された施設の魅力や滞在性を、そのまま数値化することは困難です。
今回のモデルは、
- AIによる意味の抽出
- 統計分析による関係性の整理
- GISによる空間的な検証と実装
を繰り返すことで構築されました。
図7:多数の変数を少数の潜在因子へ

したがって本稿の結論は、AIが休日の賑わいを説明した、ということではありません。
AIだけでは説明できなかった休日の賑わいが、GISと組み合わせることで、一定のモデルとして見えるようになった
ということです。
まだ「因果」を説明したわけではない
今回構築したモデルは、休日の人流と都市機能・都市構造との関係を説明するものです。
本研究で行った一連の分析手順を図8にまとめます。
図8:休日モデル構築フロー

ただし、重回帰分析によって得られた関係は、直ちに因果関係を意味するものではありません。
例えば、駐車場が多いから人が集まるのか、人が集まる場所だから駐車場が整備されているのかは、この分析だけでは区別できません。
また、道路延長や建物人口の係数の符号についても、単独の効果として読むのではなく、他の変数を一定とした条件下での関係として解釈する必要があります。
今回は17地点という限られた観測地点を対象としたモデルであり、一般化には慎重さが必要です。
それでも、施設数を単純に集計する段階から始め、AIによる意味情報の変数化、主成分分析、重回帰分析、GISによる空間検証を経て、一定の説明モデルまで到達した意義はあります。
建物単位人口モデルが支えた休日モデル
本研究で用いた建物人口は、250mメッシュ人口をそのまま利用したものではありません。
前回までの研究で構築したPLATEAU建物単位人口モデルにより、用途地域や建物規模を考慮して人口を各建物へ配分し、徒歩400m到達圏内の居住人口を建物単位で集計しています。
休日の人流は、施設の魅力だけでなく、その周辺に「実際にどれだけの人が生活しているか」という居住実態にも影響されます。建物単位人口モデルを用いることで、400m到達圏内の人口分布を実態に近い形で把握でき、休日人流モデルの安定性と解釈性の向上につながりました。
つまり、本研究は単独の分析ではありません。
建物人口モデルによる基盤データの整備、AIによる施設の意味の抽出、統計分析による変数の整理、そしてGISによる空間検証が連携して初めて成立した、一連の都市分析システムとして位置付けられます。
おわりに
平日の人流は、駅、職場、人口、道路といった都市構造によって比較的説明しやすいものでした。
一方、休日の人流では、人がその場所へ行きたいと思う理由を、説明変数としてどのように表すかが最大の課題となりました。
一般的な施設データを数えるだけでは足りませんでした。
QURUWA公式情報を収集し、AIによって施設の意味を整理し、主成分分析・因子分析によって潜在的な場所の性格を抽出し、GISによる道路到達圏や都市構造データと組み合わせる必要がありました。
その結果、休日の賑わいは、人の意志だけでも、都市構造だけでも説明できないことが見えてきました。
行きたいと思わせる目的地があり、そこへ到達し、歩き、滞在できる都市構造がある。
この複数の条件が重なることで、休日の賑わいが生まれます。
次回は、このモデルから得られた知見を、実際の都市政策へどのようにつなげることができるのかを考えます。
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