― 主成分分析で見えた4つの都市構造と平日の人流モデル―
自治体GIS×生成AI 実践シリーズの2回目です。
1. 多重共線性を解決するため、主成分分析を実施
コラム:「主成分分析」と「因子分析」の違い
人流分析では、道路延長、交差点数、人口、商業施設数など、多くの説明変数を扱います。しかし、これらの変数は互いに強く関連していることが多く、そのまま重回帰分析を行うと多重共線性の問題が生じます。
そこで、本研究では**主成分分析(PCA)**を用いて、複数の説明変数を相互に独立した少数の指標へ要約しました。
一方、因子分析は似た変数の背後にある「共通因子」を推定する手法です。
両者は似ていますが、目的が異なります。
| 主成分分析(PCA) | 因子分析 |
|---|---|
| 情報を効率よく要約する | 背後にある潜在因子を推定する |
| 予測モデルや回帰分析との相性が良い | 心理学・社会学などで多く利用される |
| 変数の情報をできるだけ保持する | 共通因子の解釈を重視する |
本シリーズでは、人流を説明・予測することを目的としているため、主成分分析を採用しました。
主成分分析によって都市構造を表す少数の指標を作成し、その指標を重回帰分析へ利用することで、安定した人流モデルを構築しています。
前回は、GISを用いて11種類の説明変数を整備しました。
GISだからできたこと
今回使用した11変数はすべてGIS上で作成しています。
- 建物人口
- 就業人口
- 歩行ネットワーク延長
- 駅までの距離
- 商業地域
- 駐車場
- ゲート
- プロムナード
これらは単なる統計データではなく、
400m到達圏ごとに空間集計した都市構造データです。
つまり、
GISで都市構造を数値化し、
統計でその構造を整理したことが
今回の分析の特徴です。
しかし、人口が多い場所には店舗や道路も集中するなど、多くの説明変数は互いに強い相関を持っています。
このまま重回帰分析を行うと、多重共線性により係数が不安定になる可能性があります。
そこで今回は、説明変数を少数の潜在因子へ整理するため、主成分分析(バリマックス回転)による主成分分析を実施しました。
表1 主成分分析に用いた説明変数
| 変数名(SPSS) | 日本語名称 | 内容 |
|---|---|---|
| LOG_BUILD_POP | 建物人口(対数変換) | 到達圏内の推定建物人口を対数変換した値 |
| LOG_WORKER_POP | 就業人口(対数変換) | 到達圏内の就業人口を対数変換した値 |
| TARGET_COUNT | 目的地数 | 到達圏内に存在する目的地(POI)の件数 |
| WALK_LEN | 歩行ネットワーク延長 | 到達圏内の歩行可能道路延長(m) |
| COMMERCIAL_DUMMY | 商業地域ダミー | 商業系用途地域を示すダミー変数 |
| PROMENADE_DUMMY | プロムナードダミー | プロムナード(歩行者空間)の有無 |
| FACILITY_DUMMY | 主要施設ダミー | 公共施設・集客施設の有無 |
| GATE_DUMMY | ゲートダミー | QURUWAエリアの入口・結節点を示すダミー変数 |
| LIVING_DUMMY | 居住地域ダミー | 住宅系地域を示すダミー変数 |
| MIN_Station_Length | 駅までの最短距離 | 対象地点から最寄り鉄道駅までの最短歩行距離 |
| parking_point | 駐車場数 | 到達圏内の駐車場ポイント数 |
※人口関連変数(建物人口、就業人口)は分布の歪みを緩和するため対数変換を行った。一方、歩行ネットワーク延長および最寄り駅までの歩行距離は、実際の都市構造やアクセシビリティを直接表す指標であることから、解釈性を優先して実測値を用いた。
図1 分析フロー
GISで11説明変数作成
│
▼
主成分分析
│
▼
4つの潜在因子
│
▼
重回帰分析
2. 主成分分析の結果
11項目の説明変数から4つの因子が抽出され、累積寄与率は96.5%となりました。
表2:主成分分析結果
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 説明変数数 | 11 |
| 抽出因子数 | 4 |
| 累積寄与率 | 96.53% |
| 抽出法 | 主成分分析 |
| 回転法 | バリマックス回転 |
図2:因子のスクリーンプロット

これは11種類の説明変数が持つ情報のほとんどを4つの因子で説明できることを意味します。
表3:回転後成分行列
| 説明変数 | 第1因子 | 第2因子 | 第3因子 | 第4因子 |
|---|---|---|---|---|
| 建物人口(LOG_BUILD_POP) | 0.771 | 0.234 | 0.528 | 0.184 |
| 就業人口(LOG_WORKER_POP) | -0.441 | -0.696 | -0.455 | -0.312 |
| 目的地数(TARGET_COUNT) | 0.794 | -0.571 | 0.015 | 0.016 |
| 歩行ネットワーク延長(WALK_LEN) | -0.293 | 0.936 | -0.031 | -0.088 |
| 商業地域(COMMERCIAL_DUMMY) | 0.450 | -0.283 | 0.668 | -0.515 |
| プロムナード(PROMENADE_DUMMY) | 0.084 | -0.109 | -0.975 | -0.120 |
| 主要施設(FACILITY_DUMMY) | 0.029 | 0.994 | 0.027 | -0.028 |
| ゲート(GATE_DUMMY) | -0.975 | -0.066 | 0.133 | -0.001 |
| 居住地域(LIVING_DUMMY) | 0.146 | -0.078 | 0.097 | 0.976 |
| 駅までの最短距離(MIN_Station_Length) | 0.854 | -0.021 | 0.428 | 0.258 |
| 駐車場数(parking_point) | -0.754 | 0.510 | 0.047 | 0.078 |
3. 回転後成分行列
表4: 回転後成分行列(主要負荷量)
| 因子 | 主な変数 |
|---|---|
| FAC1 | 建物人口・目的地数・駅距離 |
| FAC2 | 道路延長・主要施設 |
| FAC3 | 商業地区・遊歩道 |
| FAC4 | 居住地区 |
表5:各分析地点の因子得点
| No. | カメラ地点 | FAC1 | FAC2 | FAC3 | FAC4 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 東康生通り1 | 0.076 | -0.304 | 0.734 | -0.513 |
| 2 | 東康生通り2 | 0.500 | -0.487 | 0.540 | -0.655 |
| 3 | 東康生通り3 | 0.506 | -0.435 | 0.493 | -0.658 |
| 4 | 東康生通り4 | 0.633 | -0.286 | 0.588 | -0.636 |
| 5 | 連尺通り1 | 0.541 | -0.188 | 0.792 | -0.445 |
| 6 | 連尺通り2 | 0.552 | -0.145 | 0.831 | -0.421 |
| 7 | 連尺通り3 | 0.450 | -0.214 | 0.762 | -0.461 |
| 8 | 連尺通り4 | 0.443 | -0.272 | 0.756 | -0.448 |
| 9 | 中央緑道1 | 0.411 | -0.136 | -1.530 | -0.077 |
| 10 | 中央緑道2 | 0.306 | -0.139 | -1.588 | -0.119 |
| 11 | 中央緑道3 | -0.060 | -0.251 | -1.849 | -0.319 |
| 12 | 中央緑道4 | -0.066 | -0.237 | -1.853 | -0.324 |
| 13 | 図書館1 | 0.113 | 3.859 | 0.103 | -0.107 |
| 14 | 桜城橋北 | -2.393 | -0.299 | 0.323 | 0.002 |
| 15 | 桜城橋南 | -2.789 | -0.051 | 0.384 | -0.005 |
| 16 | 八幡通1 | 0.385 | -0.197 | 0.249 | 2.588 |
| 17 | 八幡通2 | 0.392 | -0.219 | 0.266 | 2.597 |
注:FAC1~FAC4は主成分分析(バリマックス回転)により算出した因子得点である。正の値ほど各因子の特徴を強く有し、負の値ほどその特徴が弱いことを示す。
4. 4つの都市構造を命名
そこで都市構造として解釈すると、
第1因子
都市集積性
建物人口
目的地
駅への近接
などが高く、
都市活動が集積する中心市街地を表しています。
図3:第1因子(都市集積性)の空間分布

因子得点をGIS上に可視化したところ、第1因子は東康生通り周辺で最も高く、桜城橋南で最も低い値を示した。この分布は、建物人口や目的地数が中心市街地に集中する実際の都市構造と一致しており、第1因子を「都市集積性」と解釈した妥当性を支持する結果となりました。
※主成分分析は統計処理ですが、GIS上に可視化することで都市構造として妥当かどうかを空間的に検証できます。このように統計結果をGISで確認できることは、空間分析ならではの利点です。
第2因子:都市アクセス性
道路延長
主要施設
が強く、
アクセス性や移動性を表しています。
第3因子:商業・回遊性
商業地区
遊歩道
がまとまり、
歩いて楽しめる都市空間を示しています。
第4因子:居住性
住宅系土地利用が高く、
生活空間としての性格を表しています。
各因子のまとめ
FAC1(都市集積性)
- 最高:東康生通り4(0.633)
- 最低:桜城橋南(-2.789)
※東康生通り周辺は建物人口、目的地数、駅アクセスが集積するQURUWAの中心市街地であります。一方、桜城橋南は河川を挟み都市機能の集積が比較的小さい地区であり、因子得点の空間分布は実際の都市構造とよく一致しました。
FAC2(都市アクセス性・公共施設性)
- 図書館1が突出(3.859)
図書館では
※公共施設ダミーが強く作用し、道路ネットワークも充実しているため、都市アクセス性を代表する地点となっています。
FAC3(商業・回遊性)
- 最高:連尺通り2(0.831)
- 最低:中央緑道4(-1.853)
中央緑道
↓
遊歩道
↓
歩いて楽しむ空間と想定できます。
※中央緑道では負の値、連尺通りでは正の値となったことから、単なる歩行空間ではなく、商業施設と遊歩道が一体となった回遊性を表す因子と解釈しました。
FAC4(居住性)
- 八幡通1・2が突出(2.588、2.597)
八幡通
↓
住宅
↓
生活空間と想定できます。
※八幡通1・2で突出したことから、住宅系土地利用を代表する因子と考えられます。
図4:因子の模式図

5. 平日の人流を説明できるか
抽出した4因子を説明変数として、
2025年10月および2026年6月の午前・昼・夜について重回帰分析を実施しました。
表6:モデル要約
| 時間帯 | R² | 調整済R² | 判定 |
|---|---|---|---|
| 2025午前 | 0.838 | 0.784 | ◎ |
| 2025昼 | 0.489 | 0.318 | △ |
| 2025夜 | 0.453 | 0.271 | △ |
| 2026午前 | 0.872 | 0.830 | ◎ |
| 2026昼 | 0.556 | 0.408 | ○ |
| 2026夜 | 0.629 | 0.506 | ○ |
(モデル全体の有意確率も併記)
図5:R²比較グラフ

4つの都市構造因子だけを説明変数とした重回帰分析の結果。午前は高い説明力(R²=0.838、0.872)を示した一方、昼・夜は時間依存要因の影響により説明力が低下しました。
5-2. 平日の人流モデル
本研究では、多重共線性を解消するため11種類の都市構造指標を主成分分析により4つの因子(FAC1~FAC4)へ整理し、その因子得点を説明変数として重回帰分析を実施しました。したがって、以下の回帰式は個々の説明変数ではなく、「都市集積性」「都市アクセス性」「商業・回遊性」「居住性」という4つの都市構造が平日の人流へ与える影響を表しています。
2026年 平日午前モデル
平日午前人流
=36.338
−29.916×FAC1(都市集積性)
− 6.644×FAC2(都市アクセス性)
+12.929×FAC3(商業・回遊性)
− 8.418×FAC4(居住性)
調整済みR²=0.830
モデル全体有意(p<0.001)
2026年 平日昼モデル
平日昼人流
=36.488
− 7.942×FAC1
− 5.571×FAC2
+12.520×FAC3
−13.511×FAC4
調整済みR²=0.408
モデル全体有意(p=0.033)
2026年 平日夜モデル
平日夜人流
=19.380
− 8.677×FAC1
− 3.285×FAC2
+ 5.296×FAC3
− 3.279×FAC4
調整済みR²=0.506
モデル全体有意(p=0.012)
この後に入れる説明
この結果から、平日の人流は4つの都市構造因子だけでも一定程度説明できることが確認されました。特に午前は調整済みR²が0.830と高く、都市構造そのものが人流を強く規定していることが分かります。一方、昼・夜になると説明力は低下しており、飲食やイベント、曜日特性など、都市構造以外の要因が人流へ影響していることが示唆されました。
6. 考察
分析の結果、11種類の説明変数を4つの都市構造へ整理しても午前時間帯では都市構造のみで約84~87%の人流を説明できました。
これは
人流は偶然ではなく、
都市構造によって
大きく規定されていることを示しています。
一方、
昼・夜は
イベントや飲食、天候や曜日特性など
時間依存要因が加わるため、
都市構造だけでは説明しきれないことも分かりました。
つまり、
都市構造は午前の人流を強く規定する一方、昼・夜になるほど人々の行動選択が多様化することが示唆されました。
GISで都市構造を把握することは、
人流予測の基礎となる一方、
時間帯別には
イベント情報など
リアルタイムデータとの融合が重要になるということです。
GISは単に地図を表示するツールではありません。都市構造を数値化し、統計で本質的な構造を抽出し、その結果を再び地図で検証する。この「GIS→統計→GIS」の循環こそが、データに基づく都市分析の大きな強みです。最後にこの章の全体の流れをイメージ図で示します。
図6:Vol.2 全体の流れ

7. 次回予告
今回の分析では、平日の人流は11種類の説明変数を4つの都市構造へ整理し84~87%説明できることが分かりました。
しかし、この規則性は休日にも当てはまるのでしょうか。それとも、人々は都市構造ではなく、別の魅力に引き寄せられるのでしょうか。次回は休日データを用いて、その違いを明らかにします。
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